公共貸与権、2019年末から試行
【出典:udn新聞網】
2019年5月7日に教育部は、2019年末から国立図書館で初めて「公共貸与権」(Public Lending Right、公共図書館への図書貸出権の付与ともいい、「公貸権」と略される)を試行することを発表した。これは民衆が図書館で本を借りた場合、政府が著者と出版社に補償金を支払うというもので、公共図書館がその著作物を公衆に貸し出すことによって受ける潜在的な損失を補償したり、政府が芸術に対する支援として、図書、音楽、芸術作品に資金援助を行ったりすることが目的。5月22日に出版業界の団体代表は立法院の公聴会に出席し、公共貸与権の開始を支持する意見を表明するとともに、創作出版の権益が更に保障されるよう、立法院に国の文化政策として迅速に『図書館法』を改正して公共貸与権を法律に盛り込むことを求めた。
出版業界は長年、公共貸与権の制定、雑誌業界と同様の出版業界への5%事業税免税、書籍購入の減免税などの産業振興措置を政府に提案してきたが、どの提案も検討の段階に留まっただけであった。文化部は、文化建設委員会の時代から図書統一定価制度の推進を目指していたが、具体的な進展はなかった。教育部が今回始めて国立図書館の公共貸与権を試行するとしたことは、大きな進展といえる。
中華民国出版商業同業公会全国連合会理事、台南市中小企業協会理事長によると、今回「公共貸与権」の実施が可能になったのは、行政院院長、教育部部長と文化部部長が強力に後押し、2019年に教育部に所属する国立図書館で試行してその後全ての公共図書館に拡大し、しかも関連経費は図書館の元々の書籍購入経費を圧迫しないことを約束したことにある。また、中小企業協会代表が台湾国内の創作環境を醸成するために、公共貸与権を重視するよう政府に提案したこと対して、蘇貞昌行政院院長は、図書出版物の図書館での無料貸出しは、作者と出版業者へ利益を計算して還元することを考えなければならず、外国の公共貸与権制度を参考にして、先ずは国立図書館から徐々に推進していくべきと答えた。
教育部終身教育司科長は、「教育部は既に会議を開いて、学者、専門家を招いて諮問会議を開催し2ヶ月以内にプロジェクトチームを立ち上げることを決定している。2019年末までに国立図書館で公共貸与権を試行することを目標とし、新北市の国立台湾図書館と台中市の国立公共情報図書館から試行することを予定している。但し、これは台湾で始めての試行となるため、多くの前前準備システムが設置・確認中であり、価格の計算方法、貸出回数の計算方法など明確にする必要がある」と述べた。
立法院では、蘇巧慧氏ら23名の立法委員が、公共貸与権の法的依拠として、図書館法第7条に「政府は、公衆が出版物を無償で閲覧できるように、その出版物の関連権利者に対して補償するための予算を編成しなければならない。補償の対象、範囲及び実施方法は主務官庁が定める」などの内容を追加することを提案した。
5月22日に、立法院は「公共貸与権」について公聴会を開催した。公聴会には、多くの出版業界の団体代表が参加し、公共貸与権の議題について提案をした。出席した代表からは、現在の出版業界は厳しい状況にあるため、法改正によって政策目標が実現し、台湾の文化創作環境が改善されることを期待しているとの意見が出た。
文訊雑誌の社長は公聴会で、「公共貸与権の法制化及び実施で直ちに作家の経済状況が大幅に改善することはないが、著作権の保障についてはその正当性と必要性があり、出版社、作家の有すべき権益に対する配慮と尊重でもある。長期的にみれば、文化の向上と発展に繋がる」と述べた。財団法人毛虫児童哲学基金会の理事長は、「公共貸与権が台湾社会で議論されることは喜ばしいことだが、実際のプロセスから見れば、まだ細かい部分で明確にしなければならないところが多くある」と述べた。
中華民国図書発行協進会理事長は、「台湾国内の原創作者の権益に配慮し、創作者がより安心して創作でき、知識と知恵を全ての人と分かち合い、図書館がより豊富なコレクションを全国民に提供できるようにするために、図書館法を改正し、公共貸与権を法律に盛り込むことを支持する。但し、公共貸与権の予算は、別途組むべきである。それは創作者に対し創作物使用料として支払われるものなので、図書館の書籍購入予算を圧迫すべきではない。」と述べた。これについては、台北市出版商業同業公会も同じ考えを示した。
現在、既にいくつかの国が「公共貸与権」を実施している。例えば、カナタ、イギリス、北欧諸国、ドイツ、オーストリア、ベルギー、オランダ、イスラエル、オーストラリア、ニュージーランドである。フランスは現在検討中で、ヨーロッパ連合も統一の公共貸与権制度の推進を計画している。こういった概念は徐々に各国に広がっており、多くの国で公共貸与権の法制化推進の計画が始まっている。
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