米国 福建晋華などを起訴し、
米中貿易のスパイ活動に対処する
「チャイナ・イニシアチブ」を開始
【出典:聨合新聞網、今週刊】
米国司法省は2018年11月1日に、米国半導体企業マイクロン・テクノロジ(Micron Technology)の営業秘密(推定約87.5億米ドル)を共謀して窃取した容疑で中国国営福建晋華積体電路公司(JHICC、以下「福建晋華」という)、台湾聨華電子公司(United Microelectronics Corporation、以下「UMC」という)及び3名の台湾人を起訴したことを発表した。それに加え、福建晋華又はUMCが窃取した営業秘密を使用して製造したあらゆる製品の米国への輸出禁止を求める民事訴訟も提起した。
上記の犯罪が成立した場合、被告は最高15年の懲役と500万米ドルの罰金が科せられ、会社は不法所得の没収と200億米ドル以上の罰金が科せられる可能性がある。
米国商務省は2018年10月29日に、国防安全保障上の理由から、中国のDRAM半導体工場福建晋華が、米国の企業から部品、ソフトウェア及びテクノロジー製品を購入できないように米国製品の輸出を規制し、半導体製造設備を福建晋華に輸出する場合は、事前に米国政府の許可を得る必要がある旨を発表した。また、商務省は、中国は現在DRAM技術を持っておらず、マイクロン・テクノロジが米国で唯一のDRAMメーカーであるため、福建晋華がマイクロン・テクノロジを利用して完全なDRAM製造システムの構築を図っており、それによって米国の軍事システムの半導体を供給する企業に不利な影響が生じることになると指摘した。米国司法長官は、UMCと福建晋華の提携は、米国と競争するために中国が米国からこの技術を窃取することを意図したものであるとの考えを示した。
事件に関与した3名の台湾人男性は、何れもマイクロン・テクノロジの元従業員であり、離職する際にマイクロン・テクノロジのDRAM技術を盗み出しUMCに入社した。その目的は設立して僅か2年の福建晋華に技術を移転するためである。
実は、福建晋華は米国の半導体大手企業マイクロン・テクノロジと営業秘密及び特許侵害で訴訟中である。今回、米国商務省が制裁措置を発したことは、米中貿易戦争の一環とみられる。この動きにより両国のハイテク覇権争いが更に激化し、新たな紛争の火種になる可能性がある。
福建晋華は、中興通訊(ZTE)に次いで、米国からの強力な制裁を受けた2社目の中国企業となった。当時、米国商務省は中興通訊に対して類似の制裁を実施し、ハイテク通信機器及びチップの中興通訊への輸出を禁止した。これによって中興通訊は生産停止に追い込まれた。最終的に、中興通訊が14億米ドルの罰金及び保証金を支払い、会社の経営陣を刷新したことで、制裁は解除されたが、中興通訊はこの影響が大きく未だに回復していない。
もともと、中国政府は、「中国製造2025」国家戦略の一つとして、中国の半導体の製造能力の強化を掲げており、福建晋華は優先支援対象の一つであった。2015年5月に中国政府は、10年後に中国の産業を大規模にアップグレードさせ、中国の外国製品や部品への依存度を下げること目標とした「中国製造2025」計画を発表している。競争力のある中国半導体産業を構築することは、この計画の重要な部分であり、発揮性メモリと不発揮性メモリの製造が、重要なポイントの一つとなっている。
当初、中国政府の管理下にある清華ブループ(Tsinghua Unigroup)は、マイクロン・テクノロジを買収して、合法的にDRAMとNANDを製造するための全ての技術とIPを獲得しようとしたが、この取引きは成功しなかった。一般的にこの取引きを阻止したのは対米外国投資委員会(CFIUS)だとみられている。2015年以降、主なDRAMメーカーは3社のみだが、中国は依然として買収することができなかったため、中国政府は様々な戦略を取るしかなかった。
2016年2月に中国福建当局は、中国国産のDRAM製造を目標として福建晋華を設立した。2016年5月に、福建晋華とUMCは、競争力のあるDRAM製造技術の開発契約を締結した。マイクロン・テクノロジによると、UMCは福建晋華との提携によって3億米ドルの研究開発設備を獲得し、福建晋華は代わりにDRAM製造技術を入手した。福建晋華は2016年7月に約56.5億米ドルかけて最初の300mmのウェハー工場の建設を開始し、チップの製造を開始する予定だったが、証拠から、UMCは実際に新しいDRAM技術を開発したわけではなく、2016年の初めにマイクロン・テクノロジの台湾支社からエンジニアを探し出し、彼らにマイクロン・テクノロジのチップと技術仕様及び特性を盗み出すよう要求したことが分かった。
今回の制裁は、福建晋華の運営に重大な影響を及ぼし、中国のDRAMチップの独自開発を遅らせ、さらに中国が全力を挙げて推進する人工知能(AI)、インターネットカー(Internet of Vehicles, IoV)、物のインターネット(Internet of Things, IoT)に必要なチップに影響が出る可能性がある。米国のこの制裁措置は、台湾のDRAM業者にとって、市場価格を破壊する中国企業を阻止する助けとなるように見えるが、福建晋華DRAMのサプライチェーンである台湾企業も、結果としてその余波を受ける可能性がある。
上記の訴訟と制裁措置のほかに、米国司法部と米国連邦捜査局(FBI)は、まず優先的に中国による米国に対する貿易スパイ活動を取り締まる法執行行動計画「チャイナ・イニシアチブ」(China Initiative)を開始すると発表した。
一連の過程において、マイクロン・テクノロジは、台湾瑞晶(Rexchip、2013年にマイクロン・テクノロジの傘下に入った)のStephen Chen元総経理が営業秘密を盗み出し2015年にUMCに上級副社長として引きぬかれたと指摘した。福建晋華とUMCのマイクロン・テクノロジの従業員に対する招聘活動において、資料の中でマイクロン・テクノロジ内部のコード名称が含まれていることが判明したことで、マイクロン・テクノロジはStephen Chen氏による営業秘密漏洩を疑った。台湾側もStephen Chen氏がマイクロン・テクノロジの営業秘密を窃取したと告発した。内部調査を経て、マイクロン・テクノロジは2017年12月にStephen Chen氏を提訴した。
福建晋華とUMCは、2018年1月12日にマイクロン・テクノロジを被告として、中国福建市中級人民法院に、係争侵害製品の製造、加工、輸入、販売などの差止め、全ての在庫及び関連する金型と器具の廃棄、並びに侵害賠償2.7億人民元の支払いを求めて、特許侵害訴訟を提起した。UMCは、この1年マイクロン・テクノロジが、UMCに対して離職した従業員間の営業秘密の争いを、企業間の侵害行為として干渉し騒ぎ立て、さらに米国もUMCに対し訴訟を提起したため、UMCも反撃しなければならないと重ねて表明した。UMCが中国でマイクロン・テクノロジを提訴する選択をしたことは、一般的にUMCにとって有利とみられている。
参考資料:
- U.S. Restricts Exports of Chip Production Equipment to Chinese Chipmaker Fujian Jinhua. Business Korea, 2018/10/30.
- U.S. Government Indicts Chinese DRAM Maker JHICC on Industrial Espionage; Bans Exports To Firm. Anandtech, 2018/11/1.
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