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TPPに代わる
CPTPPの知的財産権に関する条項

  

【出典:台湾経済部国貿局ウェブサイト、台湾外交部ウェブサイト】

 台湾は、「環太平洋パートナーシップ協定」(Trans-Pacific Partnership,略称:TPP)への加盟に積極的に取組んできたが、20171月にトランプが大統領に就任した後、アメリカがTPPからの離脱を決めたため、201711月に開催されたAPEC首脳会議で、日本主導のもとベトナムと共同で、アメリカを除くTPPの原加盟国11カ国による「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(Comprehensive and Progressive Agreement for Trans-Pacific Partnership,略称:CPTPP)」の合意を発表した。

 この原加盟国の11カ国とは、オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、マレイシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、ベトナムである。CPTPPは、TPPの高い基準を維持しつつ、申請条件が緩和、開放され、各国間の経済貿易統合の柔軟性が向上した。このほか、TPPの段階で困難だった条項、例えば、知的財産権保護などは、一部が凍結されることになった。

 TPPの原加盟国は、ほとんどが台湾の主な貿易パートナーであり、台湾の対外貿易額の3割以上を占めている。CPTPPに変更になっても台湾にとっては非常に重要である。しかも将来的に米国が再度加盟する可能性もある。また、この11の加盟国のGDP10.2兆ドルで、世界のGDP13.6%を占め、台湾との貿易額は、台湾の対外貿易総額の25%以上を占めており、台湾が地域統合に参加することは不可欠である。そのため、台湾はCPTPPへの参加にも積極的であったが、残念ながら、第2回交渉参加の機会を逃してしまった。

 以下はCPTPPの簡単な紹介である。

一、発効要件

 CPTPPは、6カ国又は半数以上の加盟国が署名を完了し、且つ国内の批准手続きを完了した後、60日で発効する。加盟国のGDP合計値は発効要件に入っていない。CPTPPは協定の発効後、あらゆる国又は独立の関税地域からの参加申請を受け付ける。

二、CPTPPで凍結された知的財産権の条項

 1. 第十八・八条 内国民待遇

 TPP協定の第十八条は知的財産権の保護に関する規定である。そのうちの十八・八条は「内国民待遇」を規定しており、締約国は、知的財産権の保護に関して、自国の国民に与える待遇よりも不利でない待遇を他の締約国の国民に与えることが定められていた。しかしながら、一部の条項(例えば「著作権に基づき関連する報酬を徴収する権利」)は、実現が困難であるため、CPTPPでは、この部分に対して、加盟国の政府に自国の国民と同じレベルの保護をその他の加盟国の国民に与えることを義務付けないとした。

 2. 第十八・三十七条 特許を受けることができる対象事項

 TPPでは、各締約国は、新規性、進歩性及び産業上の利用可能性のある全ての技術分野の発明(物であるか方法であるかを問わない)について特許を取得できるようにしなければならないと規定されていた。CPTPPでは、「既知の物の新たな用途、既知の物を使用する新たな方法又は製造方法、及び職務関連発明」を特許保護の対象にすることを要求しないこととした。

 3. 第十八・四十六条 特許を与える当局の遅延についての特許期間の調整

 TPPでは、各締約国に、特許出願の審査を効率的且つ適時に処理するために最善の努力を払うことを要求しており、出願人もその特許出願の審査を迅速に行うことを要請することができ、各締約国は、特許の付与において不合理な遅延がある場合、当該締約国は特許出願人の要請により、当該遅延について補償するために、当該特許権の特許期間を調整しなければならなかった。CPTPPでは、締約国の政府に補償として特許期間を延長することを要求しないこととした。

 4. 第十八・四十八条 不合理な短縮についての特許期間の調整

 TPPでは、特許出願を処理することに努力しなければならないことに加え、医薬品の販売承認の申請を効率的且つ適時に処理し、特許の保護対象となっている薬品については、各締約国は特許期間の調整を利用可能なものとしなければならないと規定されていた。

 CPTPPでは、医薬品の主管官庁による販売承認の結果として特許期間に不合理な短縮が生じた場合について、締約国の政府に補償として特許期間を延長することを要求しないこととした。

 5. 第十八・五十条 開示されてない試験データ又はその他のデータの保護

 TPPでは、締約国は、新規の医薬品の販売承認を与える条件として、当該薬品の安全性及び有効性に関する開示されてない試験データ又はその他のデータの提出を要求する場合、当該新規の医薬品が当該締約国の領域で販売を承認された日から少なくとも五年間、そのデータを提供した者の承諾を得ずに、第三者が次の何れかの情報に基づき同一又は類似の医薬品を販売することを認めてはならない…と規定されていた。

 CPTPPでは、開示されていない医薬品の試験データ又はその他のデータについて、統一の独占的な保護期間の付与を要求しないこととし、この規定を緩和した。

  6. 第十八・五十条 生物製剤の保護

 新規の生物製剤の保護に関して、TPPでは、締約国は、生物製剤に属し又は生物製剤を含む新規の医薬品の当該締約国における最初の販売承認について、新規の医薬品の開発を促進し、類似の生物製剤の市場での即時販売を加速させ、適用範囲がこれらの新規の医薬品販売承認の国際発展と一致するようにするために、第十八・五十条の「開示されてない試験データ又はその他のデータの保護」の規定を準用すると規定されていた。

CPTPPでは、生物製剤のデータについて、統一の独占的な保護期間の付与を要求しないこととした。

 7. 第十八・六十三条 著作権及び関連する権利の保護期間

TPPでは、締約国が付与する著作物、実演又はレコードの保護期間について、自然人の場合、著作者の生存期間及び著作者の死後少なくとも七十年とし、非自然人の場合は、著作物、実演又はレコードの権利者の許諾を得た最初の公表の年の終わりから少なくとも七十年とし、或いは創作から二十五年以内に権利者の許諾を得た公表が行われなかった場合、その保護期間は創作の年の終わりから少なくとも七十年とすると規定されていた。

CPTPPでは、著作物、実演又はレコードの保護期間は著作者生存期間及び著作者の死後七十年に延長することを要求しないこととした(すなわち死後50年を維持する)。

 8. 第十八・六十八条 技術的保護手段

 TPPでは、締約国は、著作者、実演家及びレコード製作者が自己の権利の行使に関連して用い、許諾されてない行為を抑制するために設けた効果的な技術的保護手段に、適当な法的保護及び効果的な法的救済を提供し…締約国は、故意に及び商業上の利益又は金銭上の利得のために前記に掲げる行為に従事した場合について、刑事上の手続き及び刑罰を定めると規定されていた。

CPTPPでは、著作権者が技術的な保護手段を講じた著作物、実演又はレコードを、許諾を得ずに無断で使用した場合について、民事、刑事責任を要求しないこととした。

 9. 第十八・六十九条 権利管理情報

 TPPでは、締約国は、著作者、実演家又はレコード製作者の著作権及び関連の権利の侵害を誘い、可能にし、助長し、又は隠す結果となることを知りながら又は知ることができる理由を有しながら、許諾を得ずに次の行為を行った場合、第十八・七十四条に規定する救済措置に関連する責任を負わなければならず…、締約国は、故意に及び商業上の利益又は金銭上の利得のために前記行為を行った場合について、刑事上の手続き及び刑罰を定めると規定されていた。

CPTPPでは、権利者が著作物に表示した権利管理情報を故意に除去又は改変した場合について、民事、刑事責任を科することを要求しないこととした。

 10. 第十八・七十九条 衛星放送及びケーブル放送用の暗号化された番組伝送用信号の保護

 TPPでは、締約国は、係争の装置又はシステムの製造、組立て、変更、輸入、輸出、販売、賃貸又はその他の方法により頒布する行為について、刑事責任を科し、また、締約国は、衛星放送用の暗号化された番組伝送用の信号又は内容について利益を享受し、且つ前記行為により損害を受けた者のために民事救済措置を定めなければならず、故意に前記行為を行った場合について、刑事責任又は民事上の救済措置を定めると規定されていた。

CPTPPでは、衛星放送及びケーブル放送用の暗号化された番組伝送用信号に係る装置又はシステムを、許諾を得ないで製造し、輸出入し又は頒布した場合について、民事、刑事責任を科することを要求しないこととした。

 11. 第十八・八十二条 法的な救済措置及び免責

 TPPでは、締約国は、前記の権利侵害行為について、権利者が法的な救済措置を利用することができることを確保し、及びインターネット・サービス・プロバイダが提供するオンライン・サービスに関する適当な免責を確立し、又は維持すると規定されていた。

 CPTPPでは、特別な民事・刑事救済ルートの提供を義務づけず、各国の既存の司法救済を利用するようにし、また、ISPと権利者とが協力することによって免責されるメカニズムの構築を要求しないこととした。 

三、台湾は、当初TPPに加盟することができなかったが、TPPに関する一回目の法律の検討後に、下記の内容に合わせて『専利法』、『著作権法』の一部の条文の改正案が立法院に送られた。

  第十八・四十六条:特許審査による不合理な遅延に対し、特許期間の延長を要求しないこととする。

  第十八・六十八条:著作権者が技術的な保護手段を講じて暗号化した著作物、実演及びレコードを、許諾を得ずに無断で使用した場合について、民事、刑事責任を科することを要求しないこととする。

  第十八・六十九条:権利者が著作物に表示した権利管理情報を故意に除去又は改変した場合について、民事、刑事責任を科することを要求しないこととする。

  第十八・七十九条:衛星放送及びケーブル放送用の暗号化された番組伝送用信号に係る装置又はシステムを製造、輸出入、頒布した場合について、民事、刑事責任を科することを要求しないこととする。

 医薬品のパテントリンケージ制度について、台湾では20171229日に『薬事法一部条文改正案』が可決されたほか、TPPの規定に合わせるため『化粧品衛生管理条例』、『商標法』、『植物品種及び種苗法』、『農薬管理法』、『デジタル通信伝播法草案』、『郵政法』などの改正案が、既に審議のため立法院に送られたが、CPTPPが若干の条項の適用を凍結したため、今後これらの法案は再検討する必要がある。
 

参考資料:201839日経済部の環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定に関するウェブページ、2018221日経済部の環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定に関する公開文書

 

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