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インドの高等裁判所 
デリー大学の教材コピー行為
は合理的な利用に属するとの判決を下す

デリー高等裁判所司法部長(the Division Bench of the Delhi High Court:以下「DB」という)は2016129日に、放置されていた「The Chancellor, Masters & Scholars of University of Oxford & Orsversus Rameshwari Photocopy Services & Ors」事件の審理を再開するとともに、事件の2つの重要な争点を整理し明確化したことを発表した。しかし、DBは未だ出版社の仮差し止め命令(interim injunction)請求を認めておらず、原則的に、被告が著作権の保護を受ける教材(course packs)を引き続きコピーし販売することを容認した。 

✓訴訟の背景 

2012年にオックスフォード大学出版局(Oxford University Press)、ケンブリッジ大学出版局(Cambridge University Press)、テイラー&フランシスグループ(Taylor & Francis Group)などを含む5社の有名出版社は、Rameshwari印刷会社(Rameshwari Photocopy Services)とデリー大学(the University of Delhi)が上記出版社の特定の出版物の内容を抜粋し教材として編集・印刷して学生に販売した行為は著作権侵害に該当すると主張して、訴訟を提起した。 

2016916日にデリー高等裁判所の単独裁判官は被告の行為が1957年に制定されたインド著作権法第52条(1)(i)に規定された合理的な利用に該当するとの理由により、被告の行為は著作権侵害にあたらないため、原告の請求を棄却する判決を下したが、原告はこれを不服として上訴を提起した。 

✓デリー高等裁判所の判決(Division Bench’s Decision 

DBの判決1957年に制定されたインド著作権法第52条(1)(i)の規定に対する解釈に焦点を置き、特定の行為は著作権侵害とは見做されず、特に、「教育過程における教師又は学生によるあらゆる著作物の複製行為は認められる」との判断を下した。 

✓「合理的な利用」とは何か 

合理的な利用に属するか否かの問題を考える場合、DBは法律規定が合理的な利用を明確に除外している場合を除き、「合理的な利用」という要件をそれぞれ具体的な状況において更に解釈する必要があるとした。立法機関は合理的な利用を著作権侵害にあたらない条件として明確に規定していないため、その規定に合理的な利用の一般的な原則を盛り込む必要がある。さらに言うと、合理的な利用に属するか否かは利用目的によって決まる。即ち、著作権の保護を受ける著作物を教育目的の範囲内において合理的に利用する場合は、合理的な利用に属する。資料の利用範囲が定性的であっても、定量的であっても、それによって利用行為が合理的な利用に属するとみなされるか否かが決まるわけではない(注:ポイントは「利用の目的」であって、「利用の量」ではない)。また、裁判所は、著作権法第52条(1)(i)「合理的な利用」について米国の判例を適用することを拒絶した。理由は、「合理的な利用」の判断は米国では法的根拠があるが、インドでは適用しないためである。 

実際に、DBは、著作権の保護を受ける著作物をコピーする行為が教育目的であれば、その複製行為は認められるとした。なぜかというと、それが「合理的な利用」に等しいものであり、著作権の保護を受ける著作物を一部複製するか、或いは全部を複製するかにかかわらず、全て「合理的な利用」に属するからである。 

✓「教育過程」とは何か 

上述した教材の編集・コピー行為が著作権法第52条(1)(i)の範囲に当てはまるか否かを確定するために、DBは「教育過程」と「複製及び出版」を定義した。 

DBの解釈は、Longman Group Ltd vs Carrington Technical Institute Board of Governors (1991) 2 NZLR 574事件の判決内容に基づいており、特に、「教育過程というのは、教師にとっては少なくとも正式な授業の前の全ての準備作業を含み、学生にとっては少なくとも授業終了後の復習作業を含む。教材の複製が教育過程の一部であり、且つ教育過程において生じたものである場合は、通常、合理的な利用に属する」との内容により、DBは、「教育過程」は幅広い意味を持っており、教師の授業における講釈に限らず、学生に提供するための授業資料の全ての準備作業も含むと認定した。DBは「教育過程」を名詞として解釈しても、動詞として解釈しても、結論は同じであり、柔軟に解釈すべきであるとした。 

✓出版と複製(publication and reproduction 

DBは、自らの「出版」と「複製」の解釈について、単独裁判官の解釈と対比を行い、「出版」は、「利益を得る」という主観的要件を備えていなければならず、実際には利益を上げていない可能性があっても、「出版」は特定の読者層を対象としたものであるとした。また、DBは「複製」という言葉が複数の意味を持っているため、著作権法第52条(1)(i)により、複製は認められると判断した。本事件の複製行為は教育過程で発生したものであるため、著作物の利用態様は、利益を得るという要件を備えていない。 

✓その他の争点 

被上訴人が行った著作物の利用行為は著作権を有する著作物の市場に悪影響を及ぼすとの上訴人の主張について、DBは、教材を利用した学生は授業を受ける全ての科目ごとに書籍を30-40冊購入するはずがないため、実際には著作権を有する著作物の潜在的顧客ではないと判断した。 

教育過程における著作物の複製行為は、教師と学生に限り免責でき、その他の第三者は著作権法第52条(1)(i)を適用されないという問題を解決するために、DB司法部長は、教師と学生はいずれも教育過程においてコピー機の購入も、教室内での複製も一切できないとした。ただし、DBは、法律の条文規定の核心は教師と学生の教育課程における合理的な利用を保護することであるため、教師と学生が「第三者」を通して著作物を複製しても差し支えないとした。 

また、上訴人の一人が、被告は教材を作成したことで利益を得たとの主張したことについて、DBは実際には被告は利益を得ておらず、文書コピーの合理的な通常の利潤を得ただけとした。 

DBは、デリー大学の任務はカリキュラムの制定後に終了しており、どうやって著作権の保護を受ける著作物を教材として決定し、選択するかは教師であるため、被告の教材作成は、何ら「機関として制裁される(institutional sanction」)」必要性はないと判断した。 

インドがTRIPS協定及びベルヌ条約の締約国としての義務に違反したことに関して、DBは、前記の協定、条約は自国の国内法の制定を認めるものであるため、インドは著作権の保護を受ける著作物を利用して知識を伝達する権利を有するとの考えを強く示した。 

✓結論 

DBは訴訟の審理を再開し、2つの争点を示した。 

1. 教材に著作権の保護を受ける著作物を含むことが適切であるか否か。

2. 書籍を1冊丸々コピーすることが認められるか否か。 

最終的に、DBは原告の出版者が請求した仮差し止め命令(interim injunction)を認めずに、被告のRameshwari印刷会社に対し編集・コピーした教材内容を保存するように指示し、訴訟判決が下されるまでは、Rameshwariは著作権の保護を受ける著作物を利用して教材を引き続き製作できるとした。 

一部の学者と学生は、このDBの判決でインドの学生は良い教育を受けられると考え、この判決に賛成した。しかし、一方では、DBが出版社と学生との利益の平衡を保つことができないため、「許可証」の発行という方法によってこの教材問題を処理する方が、より適切ではないのかと考える人もいる。DBの判決が著作権保護の抜け道を大きく開き、教育の旗の下、公然と著作権侵害が行われるようになってしまうのか否かについて、今後注視していく必要がある。

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