世界的な特許審査待ち案件累積問題及びその対策
特許出願数の大幅な増加に伴い、特許出願審査待ち案件の累積は既に世界的な問題となっている。各国の特許庁にとって、増加する特許出願を消化するのは困難な状況となっており、そのことが案件累積問題を日増しに深刻なものにし、競争力に影響を及ぼしている。例えば、2011年には約214万件の特許出願があったが、査定されたのは100万件にも満たなかった。WIPOは2011年の指標報告において、2011年全世界の未審査の特許出願数が480万件に達し、この問題が経済発展促進及び発明創造の奨励という特許制度の役割を阻害していると指摘している。
現時点で、日本、メキシコ、ポーランド、ノルウェーなどの少数の国を除いて、世界の主要な特許庁の特許審査待ち案件累積問題解決の効果がはっきりと表れていない。原因として次のような状況が考えられる。
1.特許出願数の急増。
2.特許出願のグローバル化。特に「特許協力条約」の発効後、手続が簡素化され、統一規範が制定されたことにより、外国への特許出願が便利になった。
3.企業の特許戦略。企業が消極的に自己の権益を守るだけではなく、より積極的に特許を武器として考えるようになったため、特許の出願数が増えた。
4.特許の大型化及び複雑化。特にコンピュータ分野とバイオテク
ノロジー分野はその傾向が顕著で、特許出願の内容が増加した だけでなく、特許の範囲も拡大したことで、審査がより困難になり時間がかかるようになった。
5.一部の出願人が故意に漠然とした出願内容で出願することにより、特許出願が長期の未決状態に陥ってしまい、他人の特許査定が先延ばしされてしまった。
現在、世界各国で行われている特許審査待ち案件累積問題解決のための対策は、次のとおりである。
1. 特許庁内部の解決方法
(1) 審査官の増員。
(2) 特許庁の財源充実。調査によると、先進国の特許庁の財源は、開発途上国の財源と比べると豊富であることが分かった。例えば、欧州特許庁、日本特許庁はいずれも審査経費が充実していることで知られている。欧州特許庁は特定の国の管轄下にあるのではなく、法人の性質に属すため、収支は全て欧州特許庁が自ら掌握している。したがって、一般のその他の国の特許庁と比べると、柔軟性があって自由度が高く、効果的に利潤最大化を追求することができる。
(3) 審査の一部外部委託。2004年の日本特許庁による検索の外部委託件数は17.8万件で、2011年には既に24.1万件まで増えた。また、韓国特許庁の2010年の検索の外部委託件数も5千件近くまで増加し、総審査数の46.7%に達している。
(4) 特許加速審査制度の構築。早期権利化の必要に迫られている出願人が、自費で加速審査を申請することができる。
(5) ピア・レビュー制度。公衆審査制度の一種であり、日本、オーストラリア、韓国、イギリスの特許庁もアメリカに倣いこの種の制度の導入を開始している。
(6) 審査請求料の返還制度の実施。出願人が自発的に無益な出願を取下げることを奨励する。
(7) 料金の変更で出願数を調整する。但し、このような手法は一部の優れた発明の特許出願の機会を奪う可能性があり、社会進歩の可能性を低下させてしまう虞がある。
(8) 外国特許庁の審査結果を直接承認する。イスラエル特許庁はこれを採用している。
2. 国際協力による解決
(1) 「特許協力条約(PCT)」の利用。
(2) 地域間の特許制度の統合や協力。例えば「欧州特許条約」、アセアン特許審査協力プログラム、バンクーバー・グループなど。
(3) 特許審査ハイウェイ(PPH)。
上記対策の大部分はその国自身の累積問題に対するものであり、効果は限定的である。グローバルビレッジ概念が背景となって、出願人の各国への重複出願が増加していることから、根本的な解決のためには、国際協力を通じ、審査結果を互いに共有する必要がある。
【出典:「国家知的財産権戦略実施研究基地速報」第24期】 |