中国で、専利法が1985年4月1日に施行されて以来、1992年と2000年にそれぞれ修正がなされた。専利法の第三次修正案は、2008年12月27日に全国人大常委会が審議の上通過し、2009年10月1日より実施された。第三次に修正の専利法において、その目標は、革新型の国家を打ち立てることであり、その手段とは、専利権授与の基準を上げ、権利侵害を阻止できるようにすることである。国家知識産権局の条法司司長の尹新天氏は、今回の専利法修正案実施では、新たに7条を追加し、29条を修正して、あわせて5つの大きな変革があると指摘する。
一、立法目的中に、「革新能力の向上」「経済社会の発展を促進」との内容を追加し、中国が自主的な革新能力を向上させ、革新型国家を建立する決心だけでなく、専利制度を明確にし、経済社会発展との内在的連結を宣言した。
二、新法において、初めて専利法の中での三種の専利の定義を確定した。「発明」とは産品、方法、またはその改善を示す新しい技術方案を指す。「実用新案」とは、産品の形状、構造、またはそれを集め合わせた実用的で新しい技術方案である。「外観デザイン(意匠)」とは、産品の形状、図案、またはそれを集め合わせた色彩、形状であり、図案の結合による美感および工業において適用される新しいデザインを指す。また、新法は発明、実用新案、および意匠の専利権を授与する基準を適度に調整し、中国で専利の案件量が既に大幅に増加したことに鑑み、案件の品質改善を目標に続けて努力する必要があるとした。具体的な執行の方法は、以下を含む。
(一)専利権を授与する新規性の基準は「混合新規性」から「絶対新規性」に改める。国内国外を問わず、出版物の公開、使用公開、またはその他の方式の公開で、何れも新規性を喪失させるに足りる。新法の新規性とは、該発明または実用新案が既に存在する技術に属さず、出願日以前に、いかなる組織、または個人も、国務院専利行政部に、同様の発明または実用新案も申請しておらず、また、出願日以後に公布された専利出願文献、または公告された専利文献中に記載されていないことを指す。
(二)発明および実用新案に対する「創造性」の基準が増え、また、現行の技術と対比して、突出する実質的特徴や顕著な進歩を有する必要がある。外観デザイン(意匠)に対しても又、類似する「創造性」の要件が追加され、専利権を授与される意匠と、既に有る意匠またはデザイン特徴の組み合わせとを対比して明らかな差異を有する必要があり、また、平面印刷品の図案、色彩、またはそれらの結合によりなされた標識作用を有するデザインは、外観設計(意匠)の請求できる範囲から排除する。
(三)専利権が付与される外観設計(意匠)は、他人が出願日以前に既に取得した合法的権利と互いに衝突してはならず、これは、主に著作権との競合を考慮して設定された規定である。「現在有する技術」の基準は、特別に「国内外で公開、発表した。」から「国内外で公衆が周知である。」に改める。
(四)もし発明専利を完成するのに、中国国内の遺伝子資源に頼る必要があれば、該遺産伝統資源獲得の過程、方式等は、中国の法律、行政法規の規定に合致する必要があり、そうでなければ、中国で専利権を得ることはできず、この種の発明に対して、出願人に対して、専利出願文件において遺伝子資源の直接の出所および原始的出所を記述するよう要求する。
(五)外国に関する専利代理機構の指定を取消し、外国出願人が法により成立する如何なる専利代理機構にも委託することを許可し、国家知識産権局により指定する少数の代理機構でなくともよいとなった。
三、専利の保護を強化する方面において以下の措置がなされた。
(一)意匠専利権利人に販売許諾権が付与されると、もしショーケースに展示したり、広告で宣伝、または展示会場で意匠の権利を侵害する商品を展示した場合、権利人は直ちに権利侵害人に対して権利侵害を停止し、損失額を賠償するよう請求することができる。
(二)起訴前の証拠保全措置が追加される。権利人は、起訴前に裁判所に証拠保全を申請することができ、その起訴権行使において更に有利となる。
(三)権利侵害の賠償制度を改善する。実務上、専利の権利侵害賠償額の計算は、理論的な規定に比べて、より複雑かつ困難である。よって、新しい専利法の規定により、権利人の損失、権利侵害による利益、および専利許可使用費用のすべてが確定するのが困難であるものは、裁判所が、専利権の種類、権利侵害行為の性質および情況などの要素に基づいて、一万元以上百万元以下の賠償を決定することができる。また、権利人が権利侵害行為を制止するのに支払う合理的金額は、たとえば弁護士費用および調査、証拠獲得費なども、権利侵害の賠償範囲に入ると明記している。偽装専利については、違法所得を没収されるだけでなく、違法所得の4倍(元は3倍)以下の罰金を、また、違法所得がない場合は20万元以下の罰金を課すことができる。
四、専利権利人と公衆の利益を合理的にバランスを取り、有効に専利権の乱用を防止し、国家および企業の核心的競争力を向上させる。具体的に以下の規定を含む。
(一)並行輸入を許可する:専利産品または専利の方法により直接獲得した産品は、専利権利人、または被許可者により外国で市場に進出した後は、専利権利人の許可を得る必要なく、該産品を並行輸入することができる。
(二)品および医療機器の承認に関する例外規定を追加する。たとえば、行政承認が必要とする情報を提供するために、専利薬品、または専利医療機器を製造、使用、輸入したり、その製造を専門として、専利薬品または専利医療器械を輸入する行為は全て、専利権を侵害するとは見なされない。
(三)強制許可制度を改善する。:専利権利人は、専利権が付与されてから三年が満了し、かつ専利出願日から四年が満了すると、その専利を実施しない、もしくは十分実施しない正当な理由がなく、また、専利権利人がその専利権を行使する行為は独占行為と見なされ、競争に不利な影響を与えるこうした行為を減少、もしくは無くすために、実施条件を具備した団体または個人は、国家知識産権局に対して、強制許可を申請することができ、また、《貿易に関する知識産権協定》(TRIPs)議定書義務を修正することについては、公衆の健康を保つため、製造および外国へ専利薬品の輸出を強制許可する規定を増設した。
(四)現行の技術抗弁の原則を規定する。:専利権侵害の紛糾中、権利侵害で告訴された者が、その実施する技術またはデザインが現行の技術または現行のデザインに属するものと証明する証拠があれば、この主張により抗弁権を主張でき、裁判所は、直接被告訴人が権利侵害をしていないと判決することができ、専利の復審委員会が専利権は無効であると宣言するのを待ってから裁判所が権利を侵害しないと判決する必要はない。
(五)利出願権または専利権を共有する許可を得た者が権利の行使について約定されていない時、共有者は単独で実施、または普通の授権方式によって他人に係争専利を実施する権利を授与し、共有者が共有する専利の合法的権利を保障し、共有する専利の実施を促進することができる。こうした情況以外に、共有する専利出願権または専利権を行使するには、全共有者の同意を得なければならない。
五、権利侵害行為の調査、処理
専利法の規定によると、各地方の知識産権局は、専利権保護方面の職務責任は、専利権侵害の紛糾案件の処理、および専利行政違法行為の調査、処置を含んでいる。専利に関する違法行為は、元専利法の規定によると、他人の専利をコピーするのと他人の専利に見せかけることの二種類を含む。今回の専利法の修正は、この二種の違反行為を合併して偽装専利行為とすると共に、統一の行政処罰を規定し、模倣行為の調査、処置に関する法執行措置も追加し、また、「専利を管理する業務の部門は、その調査、証拠取得のため法により職権を行使するときは、当事者が協力、援助しなければならず、拒否したり、阻止したりしてはいけない。」と明確に規定している。 「専利の偽装行為」の定義については、まだ施行していない《専利法実施条例》中に規定されている。注意すべき点は、新しい専利法第64条に規定されている法執行の手段は、専利行政違法行為の調査、処置にのみ適用し、専利権侵害の紛糾の処理には適用していないことである。