中国の第十一期全国人民大会常務委員会第六次会議において、2008年12月27日に「中華人民共和国専利法」の修正案が表決され通過した。法修正の重点は、以下のとおりである。
一、中国では、公共の健全にかかる専利薬品の製造および輸出に対し、強制ライセンスを授与できる。
新専利法第50条は、公共の健全な目的のため、国務院専利行政部門は、中国で専利権を取得した薬品に対し、製造し、また、それを中国が加盟した関連国際条約の規定に適合した国家または地域に輸出する許可をする強制ライセンスを与えられる(「強制ライセンス」は、中国では、「強制許可」と呼んでいる。)と規定する。
国家知識産権局条法司司長、尹新天氏は、「薬品の強制ライセンスを追加させることに関しては、世界貿易組織の部長級の会議で通過した《<貿易に関する知識産権協定>及び公共健康に関する宣言》(以下、《宣言》と簡略する。) に基づき、専利分野における強制ライセンスに対して、いくつかの特殊な規定がなされ、世界貿易組織総理事会が、該宣言を実行する《<貿易に関する知識産権協定>を修正した議定書》を通過させ、全国人民大会常務委員会は、2007年に正式に該議定書を加えることを批准した。」と表明した。
専利権の保護により、いくつかの薬品、特に、伝染性、流行性疾患の治療の薬品価格を比較的高くしている可能性があり、そうした薬品を購入できない病人もいる。よって、《宣言》と《議定書》は、世界貿易組織のメンバー国家が《貿易に関する知識産権協定》の制限を越えるのを許し、規定の条件の下で、薬品専利を実施させる強制ライセンスを付与し、病人に薬品が提供されるのを保障する。
二、専利権付与の基準を高くし、「がらくた専利」の産生を抑える:
新法第22条において、専利権付与の基本条件である新規性、創造性、および実用性の標準を改正し、専利査定の基準を高くすることによって、「がらくた専利」の産生を抑制する。
中国の現行の専利法において、専利権の付与条件に関して、採用しているのは「新規性の相対的標準」であり、発明、実用新案の専利権を申請する発明や創造は、国内外で公開、発表されたことがないもので、且つ国内で公開、使用した、もしくは、その他の方式で公衆が知るものでないとすると規定している。また、意匠出願するデザインは、国内外で公開、発表されたことがない、または国内で公開、使用されたことがないものとする。
言い換えれば、公開、発表されたことのない技術のいくつかは、国外で既に公開、使用、または相応の商品が売られていても、中国国内では、まだ誰も公開、使用していない、もしくは、相応な商品が売られていなければ、中国で専利査定されることが可能であり、こうしたことが中国の専利の質を低くする原因になっている。
このため、修正後の専利法は、専利査定の標準を「相対的新規性」から「絶対的新規性」に改め、専利権を付与する発明や創造は、国内外全てにおいて公衆が知るものはないとし、新規性の地域上の標準を国内から全世界に広げると規定している。
これ以外にも又、新法は、意匠における専利付与の実質的条件を更に高くし、専利権を付与する意匠と、現行のデザインまたは現行のデザインの特徴の組み合わせとを比べて、明らかに区別がつかなければならない。平面印刷物の図案および色彩もしくは、それらを結合してできた、主に標識として用いられるデザインには、専利権を付与しないとする
三、専利の権利侵害行為に対する懲罰の程度を強化する
専利権利人の合法利益を、更に効果的に保護するため、新専利法第65条には更に、専利権利侵害行為の処罰の程度を大きくし、専利権侵害の賠償は、権利人がその権利を維持するためのコスト(侵害行為を差し止めるために支払った合理的な支出)も含むことを明確に規定している。また、修正後の専利法は、専利侵害の罰金額を不法所得の三倍から四倍に増額した。また、不法所得が無い場合、罰金額を5万人民元から20万人民元に増額した。
また、新法には、専利権侵害への行政取締りの権限を明確した。専利管理部門が専利侵害嫌疑のある行為を調査するとき、当事者に諮問したり、調査したり、違法の嫌疑がある行為に関する資料を複製したり、違反行為の嫌疑がある場所に対し現場検証を実施したり、証拠がある場合は、専利を侵害する商品を差し押さえることができるとしている。
専利保護の実務により、もし専利権利人が侵害行為を差し止めるために支払った支出に対して、賠償を得られなければ、権利侵害により受ける損失を補償するのは困難である。よって、修正後の専利法では、専利権侵害の賠償金額は、権利人が権利侵害の行為を差し止めるために支払った合理的な支出が含まれる以上であるべきであると規定している。
司法による保護の効率を上げるため、新法第65条第2項に、訴訟において、権利人の損失、権利侵害者が得た利益や専利許諾料の算定がともに困難な場合、人民裁判所は、専利権の類型、権利侵害行為の性質および状況などの要素に基づいて、1万元以上100万元以下の賠償金額を判定することできると規定している。
専利権利人が起訴する前に、権利侵害者が証拠を移転。隠滅するのを防止する為、新法第66条に、専利権侵害の行為を阻止するため、証拠が滅失した可能性がある、もしくは取得するのが困難な情況では、専利権利人または利害関係人は、起訴前に、人民裁判所に証拠保全の申請をすることができると規定している。
四、専利出願人は、直接外国の専利に出願できる。
専利権利人が外国へ専利出願するのを奨励する為、新法では、外国へ出願専利する前に、まず中国国内で出願する必要があるとの現行の専利法の規定を削除し、出願人は外国へ直接に専利出願することができるとした。ただし、相関する秘密保持制度を遵守する必要があると規定している。
現行の専利法の規定では、中国で完成した発明、創造を外国へ専利(特許)出願する場合、中国で先ず出願する必要がある。国際競争力を高める為、新専利法では、中国の組織または個人が、中国が参加する国際条約に基づいて専利の国際出願を提出することができるが、組織または個人が、中国で完成した発明または実用新案を外国へ出願する場合、まず国務院の専利行政部門を経由して秘密保持審査を行わなければならないとする。この規定に違反して外国に出願する発明または実用新案に対しては、中国での専利出願に専利権を付与しない。
新専利法は、同時に、中国で居住所または営業所のない外国人、外国企業または外国のその他の組織が、中国へ専利出願したり、その他の専利事務を処理したりする場合、法により、設立した専利代理機構に委託しなければならない。中国の組織または個人が、国内で専利出願したり、その他の専利事務を行う場合、法により設立した専利代理機構に委託することができる。