中国初の医薬品特許紛争早期解決メカニズムに関する
判決及び行政裁決事件を公表

2021年6月1日より施行された改正中国専利法（専利とは、特許、実用新案、意匠の総称である）の第76条には、登録申請された医薬品に係る特許紛争早期解決メカニズムが規定された。国家薬品監督管理局と国家知識産権局は、この紛争解決メカニズムを施行する際の具体的な手続、つまり、この種の事件の管轄を明確に規定するために、2021年7月4日に共同で《医薬品特許紛争早期解決メカニズムの実施弁法（試行）》を公布した。また、最高人民裁判所も、同日に《最高人民裁判所による登録申請された医薬品に係る特許権紛争民事事件の審理における法律適用の若干問題に関する規定》を公布して、北京知的財産裁判所がこの種の医薬品特許紛争民事事件（関連業界では一般的に「医薬品のパテントリンケージ事件」という）の管轄権を有することを定めた。中国の医薬品特許紛争早期解決メカニズムに関する諸規定の主な内容は、当所のウェブサイトに掲載している文章【中国の医薬品特許紛争早期解決メカニズムに関する諸規定及び施行状況】を参照されたい。

2021年8月16日に、温州海鶴薬業有限公司（以下、被告という）は、【中国市販医薬品特許情報登録プラットフォーム】に、医薬品である「エルデカルシトールカプセル」（以下、係争医薬品という）について、関連特許の保護範囲に含まれていないとの第4.2類声明を登録して、国家薬品監督管理局に対して当該係争医薬品の販売許可を申請した。中外製薬株式会社（以下、原告という）は、当該係争医薬品に係る第2005800098777.6号の中国特許の特許権者であるため、専利法第76条の規定に基づき、被告の登録申請した係争医薬品が、自社所有の第2005800098777.6号特許（以下、係争特許という）の保護範囲に含まれていることの確認を求めて、北京知的財産裁判所に対して医薬品のパテントリンケージ訴訟を提起した。同年11月に、北京知的財産裁判所は、法律の規定により原告の訴訟を受理した。この事件は、中国初の医薬品パテントリンケージ訴訟事件となった。

北京知的財産裁判所は、2022年4月15日に、中国初の医薬品パテントリンケージ訴訟事件について「係争医薬品に使用された技術は、係争特許の請求項1の技術と同一でもなく均等でもないため、当該技術は係争特許の請求項1の保護範囲に含まれていない。また、請求項2-6が請求項1の従属項である点を考えると、係争医薬品に使用された技術は、請求項1の保護範囲に含まれていなければ、もちろん請求項2-6の保護範囲にも含まれていない。これに基づき、係争医薬品が係争特許の請求項1-6の保護範囲に含まれているとの原告の主張は成立せず、支持できないため、原告の訴訟請求を棄却する」との判決を下した。北京知的財産裁判所の判決に対して、原告はその場で上訴の意向を示したが、被告は、第一審の判決結果に従うと表明した。

また、国家知識産権局は、2021年10月に、初の医薬品特許紛争早期解決メカニズムに関する行政裁決事件を受理した。2022年4月の時点で、行政裁決の請求は計59件あり、現時点で受理要件を満たし受理された件数は39件である。国家知識産権局が2022年4月25日にウェブサイトに掲載したプレスリリースによると、医薬品特許紛争早期解決メカニズムに関する初の3件の行政裁決事件が結審したことがわかった。その審決済みの行政裁決事件は、第201210135209.X号、第201510599477.0号、及び第201010151552.4号の特許権と関わりがあり、医薬品はPurdue Pharma L.P.が研究開発した“Oxycodone Hydrochloride Controlled-Release Tablets（商品名：Oxycontin）”で、Purdue Pharma L.P.は、宜昌人福薬業有限責任公司の医薬品に使用された関連技術が、上記の特許権の保護範囲に含まれていることの確認を求めた。国家知識産権局は、法律の規定により請求を受理し、5人による合議体を設置し、約6ヶ月審理を行って、最終的に宜昌人福薬業有限責任公司の医薬品に使用された関連技術が上記の特許権の保護範囲に含まれていないと認定した。また、合議体は、そのうちの第201010151552.4号の特許権に関する行政裁決事件で、宜昌人福薬業有限責任公司の提出した特許登録錯誤の抗弁事由を審理し、当該抗弁事由は成立しないと認定した。これらの事件は、2021年6月1日に改正中国専利法が施行されて以来、中国初の審決済みの医薬品特許紛争早期解決メカニズム行政裁決事件となった。