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中国 最高人民裁判所知的財産権法廷が《最高人民裁判所知的財産権法廷

裁判要旨(2020)》を発布、46条の裁判規則にまとめる

 

中国は、201911日に技術類の知的財産に関する事件を専門的に取扱う知的財産権法廷を正式に設置した。知的財産権法廷が設置されて2周年となる2021226日、最高人民裁判所知的財産権法廷は《最高人民裁判所知的財産権法廷裁判要旨(2020)》(以下〔裁判要旨2020〕という)を公布した。この2年間を振り返ると、最高人民裁判所知的財産権法廷の受理件数は計5121件、既済件数は4220件で、結審率は82%に達したことがわかった。また、2020年の既済件数は2787件で、知的財産権法廷が設置されたばかりの2019年に比べ、1354件増加した。審理期間については、二審の実体的事件の平均審理期間は123日で、そのうち、民事事件の平均審理期間は121.5日、行政事件の平均審理期間は130.7日であり、知的財産権法廷が設置される前には約1年かかっていたのに比べると、明らかに短縮した。このデータは、中国における知的財産権紛争事件の急速な増加を反映しているだけでなく、ここから知的財産権紛争事件の審理手続きが徐々に重視されていることが見て取れる。

 

この度発布された〔裁判要旨2020〕は、中国の技術類の知的財産に関する事件から55件の典型的事例を選出し、事件の性質に基づいて、専利(専利とは、特許・実用新案・意匠の総称である)民事事件、専利刑事事件、植物新品種事件、営業秘密事件、コンピュータソフトウエア事件、集積回路レイアウト設計事件、独占関連事件及び管轄等の手続き上の事件の8種類に分け、知的財産件法廷で出された判決について、46条の裁判規則にまとめた。裁判規則で、知的財産権法廷で下された「初の訴訟差止命令(anti-suit injunction)の性質を持つ行為保全の裁定(裁判規則1)」のほか、「専利権侵害の判断における“生産経営を目的とした”の認定(裁判規則8)」、「権利侵害を業として行ったことの認定(裁判規則32)」、「懲罰的賠償を適用する際の重大な事情の考慮要素(裁判規則33)」、「証拠保全の必要性の考慮要素(裁判規則45)」などの判断が明確化された。これらは、権利者の権益と緊密に関係しているため、注目する価値がある。その中の重要なポイントは、以下の通りである。

 

Ø   華為技術有限公司(ファーウェイ)と康文森公司との間の標準必須特許をめぐる紛争事件(案件番号:2019最高法知民終732号、733号、734号)では、知的財産権法廷は、中国の裁判所にとって知的財産権分野において初となる“訴訟差止命令(anti-suit injunction)”の性質を有する行為保全の裁定を下した。即ち、裁判所の下した行為保全の裁定の内容は、“外国の裁判所の判決の執行を申請する”行為を禁止することである。当該裁定の中で、裁判所は、“外国の裁判所の判決の執行を申請すること”を禁止する行為保全の適用条件及び考慮要素(例えば、行為保全措置を講じることが本当に必要か、行為保全措置を講じないことで(訴訟差止命令の)申立人が被る損害が、行為保全措置を講じることで被申立人が被る損害を上回るか、行為保全措置を講じた場合、公共利益を害するか等を含む)を明確にしただけでなく、 行為保全の裁定が確実に執行されるように、画期的に“日数による罰金計算”措置(つまり、被申立人が、行為保全の裁定で確定した不作為義務の履行を拒否し、現状を変更する行為を違法に実施した場合、その故意の違法行為は行為保全の裁定に対する継続的違反に該当するため、情状に応じて毎日罰金し且つ日数に応じて累計することができる)も採用した。

 

Ø   上訴人である焦蕊麗と、被上訴人である中国農業科学院飼料研究所、北京市大興区農業農村局との間の特許権侵害紛争事件(案件番号:2020最高法知民終831号)では、知的財産権法廷は、中国専利法第十一条第一項に規定される“生産経営を目的として”について、それを単に営利活動に従事することと同一視したり、また専利の実施主体の組織の性質のみに基づいて認定したりしてはならず、専利の実施行為自体に焦点を当てて、その行為が市場活動に属する否か、専利権者の市場利益に影響を与えるか否か等の要素を考慮した上で、総合的に判断すべきであり、また、政府機関、政府系事業組織、公益組織など主に公共管理、社会サービス、公益事業活動に従事する主体が、専利を実施し、市場活動に参与することで、専利権者の市場利益を害するおそれがある場合、その行為が“生産経営を目的として”に該当すると認定することができるとの見解を示した。

 

Ø   広州天賜高新材料股份有限公司、九江天賜高新材料公司と、安徽紐曼精細化工有限公司等との間の「カーボポール(Carbopol)」営業秘密侵害紛争事件の上訴案(案件番号:2019最高法知民終562号)において、知的財産権法廷は、「行為者が自らの行為が権利侵害を構成することを知りながら、実際にその侵害行為を行い且つ当該侵害行為が行為者の主な業務である場合、“業として権利侵害を行った”と認定できる」と指摘したほか、また、営業秘密侵害行為が“情状が深刻である”に該当するかどうかや懲罰的賠償を適用すべきかを判断する際には、被疑侵害者が権利侵害を業としているか、権利侵害行為が刑事犯罪に該当するか、訴訟中に挙証を妨げる行為があったか、権利侵害による損害額又は権利侵害によって得た利益額、権利侵害の規模や継続期間などを考慮要素とすることができるとした。この事件は、知的財産権の懲罰的賠償の最高倍数である5倍での計算が初めて適用された事例で、損害賠償額は3000万人民元以上に達した。

 

Ø   上訴人である浙江中隧橋波形鋼腹板有限公司と被上訴人である鄭州恒天大建橋樑鋼構有限公司、河南大建波形鋼腹板有限公司、成都華川公路建設集団有限公司との間の特許権侵害紛争事件(案件番号:2020最高法知民終2号)で、知的財産権法廷は、「証拠保全の必要性について、保全の申立に係る証拠と事件の事実との間に関連性があるか、当該証拠が紛失するリスクがあるか、或いは将来的に取得が困難であるか、及び申立人が証拠を取得するために、既に合理的且つ合法的な方法を尽くしたか否か等の要素を考慮した上で、判断を下すことができる」とした。

 

最後に、〔裁判要旨2020〕が公布された日の午前中に、知的財産権法廷が下した“バニリン(Vanillin)”営業秘密侵害事件の最終判決について説明する。当該事件は、当事者双方が賠償額を巡って最高裁判所に上訴し、訴訟の提起から最終判決に至るまで3年間もかかった。浙江高等裁判所は、一審判決を下すと共に、係争営業秘密の実施を停止するよう各権利侵害者に命じる行為保全の裁定も下した。しかしながら、各権利侵害者は、それを無視して実施行為を停止しなかった。最高人民裁判所知的財産権法廷は、二審において、権利侵害者が権利侵害を業とするなどの権利侵害の情状、係争営業秘密の商業的価値、権利侵害者が発効後の行為保全の裁定の履行を拒む等の要素を総合的に考慮した上で、原判決を取消し、各権利侵害者に対し連帯して営業秘密の権利者への1.59億人民元の損害賠償の支払いを命じたほか、この事件の犯罪に関する手がかりを公安機関に移送し処理させる決定を下した。この事件は、中国の裁判所が下した賠償額のなかで最高額を記録した営業秘密侵害事件であるだけでなく、裁判所が“民事訴訟が先で、刑事訴訟が後”という以前とは異なる処理方法を採用したことから、営業秘密の権利者が自身の権利を保護する際の参考例にもなる。

 

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