中国 最高人民裁判所が《電子商取引プラットフォームに係る知的財産権民事事件審理に関する指導意見》及び《インターネットに係る知的財産権侵害紛争におけるいくつかの法律適用問題に関する回答》を公布
近年、電子商取引が盛んになるにつれて、電子商取引プラットフォームに係る知的財産権民事事件も急速に増加している。中国最高人民裁判所は、電子商取引分野における各主体の合法的権益を保護するため、2020年9月10日に、法発[2020]32号でもって《電子商取引プラットフォームに係る知的財産権民事事件審理に関する指導意見》(以下、指導意見という)を公布し、同日より施行することを発表した。その後、9月12日には、インターネットに係る知的財産権侵害紛争における法律適用に関するいくつかの問題の回答として、法釈[2020]9号でもって《インターネットに係る知的財産権侵害紛争におけるいくつかの法律適用問題に関する回答》(以下、回答という)を公布した。《回答》は9月14日より施行された。
《指導意見》は、最高人民裁判所が初めて電子商取引分野の知的財産権保護問題について公布した指導意見であり、計11の条文からなる。《指導意見》の主なポイントは以下のとおりである。
第2条において、人民裁判所は電子商取引プラットフォームに係る知的財産権民事事件を審理する場合、《中華人民共和国電子商取引法》(以下、電子商取引法という)第9条の規定により、関連する当事者が電子商取引プラットフォームの運営者に当たるのか、又はプラットフォーム内の事業者に当たるのかを認定しなければならないことが規定された。
第3条において、電子商取引プラットフォームの運営者は、プラットフォーム内の事業者による知的財産権侵害を知った場合又は知っているはずの場合、権利の性質、権利侵害の具体的な状況と技術条件及び権利侵害の初歩的な証拠、サービスのタイプに応じて、直ちに必要な措置を講じなければならず、講じる必要な措置は、合理慎重の原則に従うべきであり、措置にはリンクの削除、遮蔽、切断などが含まれるがこれに限らないことが規定された。
第5条において、知的財産権の権利者は、電子商取引法第42条の規定により電子商取引プラットフォームの運営者に対して通知を発する場合、書面で行なわなければならず、通知が専利権に係る場合、電子商取引プラットフォームの運営者は、知的財産権の権利者に技術的特徴又は設計特徴の対比説明、実用新案権又は意匠権の評価報告などの資料を提出するよう要求することができることが規定された。また、第6条には、人民裁判所は、通知者が電子商取引法第42条第3項にいう「悪意」を有するかを認定する際に、「偽造、変造した権利証明を提出した」、「繰り返し間違った通知を送った」等の要素を考慮することができることが規定された。
第7条において、プラットフォーム内の事業者が、知的財産権侵害行為が存在しない旨の声明を提出するときには、書面でしなければならないこと、またその声明に含むべき内容が規定された。プラットフォーム内の事業者が発した声明に悪意があるか否かの認定については、第8条に、人民裁判所は「偽造又は無効の権利証明、権利付与証明が提出された」等の要素を考慮することができると規定された。電子商取引プラットフォームの運営者が合理的な措置を講じたかの判断については、第10条に、人民裁判所は「権利侵害の初歩的な証拠」、「権利侵害成立の可能性」、「権利侵害行為の影響範囲」等の要素を考慮することができると規定された。
第11条において、電子商取引プラットフォームの運営者が「知的財産権保護規則の制定、プラットフォーム内の事業者の経営資格の審査などの法定義務を履行しなかった」、「プラットフォーム内の店舗タイプが『旗艦店』『ブランド店』等と表記された経営者の権利証明を審査しなかった」等4つの状況のいずれかに該当するときは、人民裁判所は、この電子商取引プラットフォームの運営者が侵害行為の存在を「知っていたはず」と認定できると規定された。
一方、《回答》は6点からなり、ポイントは以下のとおりである。
(一)人民裁判所は、知的財産権の権利者が権利侵害を主張するとともに保全申立てをした場合、法律により審理して裁定を下さなければならない。
(二)インターネットサービスプロバイダ、電子商取引プラットフォームの運営者が通知を受領した後に法律により必要な措置を講じず、権利者が、インターネットサービスプロバイダ、電子商取引プラットフォームの運営者は損害の拡大部分についてインターネットユーザー、プラットフォーム内の事業者と共に連帯責任を負うべきであると主張した場合、人民裁判所は法律によりこれを支持することができる。
(三)インターネットサービスプロバイダ、電子商取引プラットフォームの運営者は、転送した権利侵害の状況が存在しない旨の声明が知的財産権の権利者に送達した後の合理的な期間内に権利者が訴訟を提起した等の通知を受け取らなかった場合、直ちに講じたリンクの削除などの措置を中止しなければならない。上記の期間は最長20営業日を超えてはならない。
(四)悪意で声明が提出されたために電子商取引プラットフォームの運営者が必要な措置を中止したことで、知的財産権の権利者に損害が生じ、権利者が法律により相応の懲罰的損害賠償を請求した場合、人民裁判所は法律によりこれを支持することができる。
(五)知的財産権の権利者が発した通知が客観的事実と一致しないが、訴訟中に当該通知は善意で発したと主張し且つ免責を求め、それが証明可能な場合、人民裁判所は法律により審理して事実であることを確認したとき、これを支持しなければならない。
(六)適用範囲について、《回答》が公布された時にまだ審理が終結していない事件に適用する。《回答》が公布された時に既に審理が終結し当事者が再審を申立てている事件等には適用しない。
《指導意見》及び《回答》が公布された後は、インターネットに係る知的財産権権利侵害事件の審理基準が統一化され、人民裁判所がこの種の民事事件を公正に審理することに役立つだけでなく、電子商取引プラットフォーム運営活動の健全な発展も促進される。
【註1】《指導意見》の中国語全文は、下記のリンク先をご覧ください。
http://www.court.gov.cn/zixun-xiangqing-254931.html
【註2】《回答》の中国語全文は、下記のリンク先をご覧ください。
http://www.court.gov.cn/zixun-xiangqing-254921.html |