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中国における著作権による
商標の抜け駆け登録の無効主張

 

中国の消費市場の世界全体に占める割合が急速に増加するなかで、中国国内では商標の抜け駆け登録が続出している。一般的に、抜け駆け商標登録の行為については、著名商標の所有者は中国の商標法第13条により権利を主張することができるが、抜け駆け商標登録が、代理人、代表者又は契約、業務上の関係或いはその他の関係により生じた場合、商標の原所有者は第15条により権利を主張することができる。そのほかにも、第32条により当該抜け駆け登録商標が自分の先行権利を侵害していると主張して、無効にすることも可能である。2018年のペッパピッグ(Peppa Pig)事件はこのケースに属する。この事件について以下のように説明する。

(第13685632号「peppapig及び図」商標)

本件の係争商標は、2013129日に福建省晋江市池店赤塘製靴第7工場が登録出願し、201697日に登録査定された中国第13685632号「peppapig及び図」商標(以下、係争商標という)で、第35類の広告、他人のための販売促進、事業の管理に関する援助、輸出入に関する事務の代理又は代行、職業のあっせん、事業所の移転、速記、会計、スポンサー探し、競売の運営を指定役務としている。

請求人であるエンターテインメント・ワンUK社は、2017616日に請求人と請求人の制作したアニメ「ペッパピッグ」及びアニメに登場するキャラクターが、中国はもちろん世界中で高い知名度を有していることや、係争商標の図案が請求人が先行著作権を享有する美術著作物と実質的に類似するため、請求人の先行著作権を侵害したことなどを主な理由として、商標法第32条及び第45条第1項等の関連規定に基づき係争商標に対し無効宣告を請求した。

一方、被請求人は規定の期間内に答弁書を提出しなかった。

商標評審委員会(以下、委員会という)は、被請求人が請求人の許可又は同意を得ずに、請求人が著作権を享有する図案に非常に類似しているものを係争商標の構成要素として登録出願をしたことは、既に商標法第32条に違反していると認定して、2018413日に、係争商標の登録無効宣告を決定した。その主な理由は下記の通りである。

  1. 委員会の考えとして、係争商標の登録が請求人の先行著作権を侵害しているか否かを判断するにあたっては、請求人の主張した「ペッパピッグ」のキャラクター(以下、本件著作物という)が著作権法で定義される著作物に該当するか否か、請求人が本件著作物の先行著作権を享有しているか否か、係争商標が本件著作物に実質的に類似しているか否か、被請求人が本件著作物に接触した可能性があるか否かなどの要素を考慮する必要がある。
  2. 請求人の主張に係る本件著作物は、表現形式がユニークで、高い独創性を有しているため、著作権法で保護される美術著作物に属する。次に、請求人が提出した証拠3にある知的財産権譲渡契約書及び証拠9にある美術著作物「ペッパピッグ」の米国著作権登録証とその著作物の図案などの証拠は、アストレー・ベイカー・デイヴィス社と請求人が美術著作物「ペッパピッグ」の著作権者であり、当該美術著作物の創作完成日及び公開発表、使用の時点が係争商標の出願日より早いことを証明でき、完全な証拠の連鎖を形成するに足るものである。
  3. 中国と米国は共に《ベルヌ条約》の加盟国であるため、請求人が米国で取得した著作権も中国の著作権法により同様の保護を受ける。また、係争商標の図案と、請求人が著作権を享有している本件著作物は、構成要素、表現形式、細部のデザインなどにおいて高度に類似しており、公衆に与える視覚的効果において殆ど差異がないため、著作権法上の実質的な類似に該当する。
  4. 最後に、請求人が提出した証拠56により、係争商標の出願日の前に、「新民網(xinmin.cn)」、「書市観察」、「西域図書館論壇(The Western Regions Library Forum)」などの中国国内メディアが、ペッパピッグの図書シリーズ及びゲームについて報道をしていることから、被請求人が係争商標の出願日の前に、請求人の著作物に完全に接触した可能性があることを証明することができる。本事件の係争商標の文字も、請求人の本件著作物のキャラクター名称と全く同じであるため、係争商標の登録出願が偶然とは言いがたい。

中国の商標法第32条には「商標登録出願は、他人の既存の先行権利を侵害してはならず、他人がすでに使用し、一定の影響力を有している商標を不正な手段で抜け駆け登録してはならない。」と規定され、そして同法第45条第1項には「登録済みの商標が、本法の・・・・・第32条の規定に違反した場合、商標の登録日から5年以内に、先行権利者又は利害関係者は、当該登録商標の無効宣告を商標評審委員会に請求することができる。悪意のある登録の場合、馳名商標所有者は5年の期間制限を受けない。」と規定されているため、上記の条文により登録商標の無効宣告を請求しようとする場合、原権利者は先行権利者又は利害関係者でなければ、商標の抜け駆け登録時に既に存在している著作権等に基づいて権利を主張することができない。そのほかに、本事件からわかるように、抜け駆け登録された先行権利者は、その著作物について著作権を有すると考えて、商標法第32条により権利を主張しようとする場合、下記の要件を満たさなければならない。

  1. 原著作物が著作権法で定義される要件を満たし、著作権法に保護される著作物に属すること。
  2. 原権利者が先行の著作権を有していること。
  3. 抜け駆け登録商標が原著作物に実質的に類似していること。
  4. 抜け駆け登録商標の商標権者が原著作物に接触した可能性があること。

ベルヌ条約及び中国の著作権法第2条第2項の規定によれば、外国人の所有している著作権は中国で保護され、しかも著作権は著作物の完成時点で自動的に発生するため、必ず商標権より先に存在する。従って、商標を抜け駆け登録された原権利者は、紛争に係る商標の図案が保護を受ける自分の著作物であり、著作物の完成時間が登録商標の出願より早いことを証明する証拠を提出できれば、その登録商標の無効宣告請求に成功する比率を大幅に引き上げることができる。

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