クラウドサーバプロバイダの
インターネット上の 権利侵害責任
判決の出典:
中国裁判文書網
http://wenshu.court.gov.cn/content/content?DocID=a4cb2c43-307c-42d5-a272-aa7b013716ac
2019年6月20日、北京知識産権法院は初めてクラウドサーバに係る知的財産権侵害事件について判決を下した((2017)京73民終1194号判決、楽動卓越公司VS阿里雲(以下、「アリババクラウド」という))。当該事件では、一審判決でのクラウドサーバに間接侵害責任有りとの認定が、責任なしとなったほか、判決の中でクラウドサーバの属性、権利侵害責任及び間接侵害責任をどう免除するかについて詳細に説明がなされた。そのため、インターネット仲介プラットフォームに対して権利を主張することを考えている権利者は、この事件から、自分の権利を完全に保護する方法を読み取ることができる。
本件の権利者は、モバイルゲーム「我叫MT Online」の著作権者且つ開発者であり、ユーザーから苦情を受けて調査したところ、海賊版ゲームがアリババクラウドのサーバに保存され、当該サーバを通して顧客にゲームサービスが提供されていることを発見した。その後、権利者は計3回アリババクラウドに通知を送った。
1.1回目:アリババクラウドウェブサイトが提供する、顧客のためにクラウド製品の技術的な問題を解決する「サポートチケット」セクションから、通知を送った。アリババクラウドのカスタマーサービスは、権利者に特定の電子メールアドレスに通報するよう回答した。
2.2回目:権利者は同日に指定の電子メールアドレスに「我叫MTプライベートサーバ処理」という件名の電子メールを送信した。だが、内容には、権利侵害ゲームのダウンロードウェブサイト、電子メール送信者の氏名、会社名及び電子メールアドレス等の情報しか含まれていなかった。
3.3回目:権利者は宅配便でアリババクラウドに通知を送った。当該通知には添付資料がなく、権利侵害の概況、要求のみが記載されており、権利者の連絡先もなく、侵害行為を確定するに足る初歩的な資料もなかった。
一審の判決において、法院は、権利者の2回目と3回目の通知は有効な通知であり、アリババクラウドは合理的な対応期間を超えて訴訟が始まってから措置を講じ始めたと認定した。アリババクラウドは主観的に損害の結果を意識せず、客観的に損害結果を拡大させ続けたため、アリババクラウド敗訴の判決が下された。
二審判決で法院は一審判決を破棄し、以下の見解を示した。
1.クラウドサーバには権利侵害責任法を適用すべきである。
1)クラウドサーバは、第1階層のIaaS(Infrastructure as a Service)に属し、顧客に仮想コンピュータ、ストレージ、インターネットなどのコンピューティングリソースを提供するものであり、レンタルしたクラウドサーバに対し全体的にシャットダウンしたり、スペースを開放したりすることはできるが、そこに保存されている具体的な内容を直接コントロールすることはできない。また、法律規定及び業界の管理監督の側面並びにサービスの側面から、クラウドサーバは『情報ネットワーク伝達権保護条例』第22条に規定された『情報ストレージスペースサービス』ではないと指摘されている。
2)クラウドサーバレンタルサービスは、上記の条例に規定されている自動アクセス、自動送信、自動キャッシュサービス及び検索、リンクなどのサービスとは異なるため、当該条例を適用することができない。
3)『権利侵害責任法』第36条は、インターネット空間で発生した全ての侵害行為を対象としている。そのうち第2項及び第3項は、侵害行為においてインターネットサービスプロバイダがどのような情況下でインターネットユーザーと連帯責任を負わなければならないかを規定しており、いずれの項もクラウドサーバを明確に排除していないため、二審の法院は、インターネットユーザーがクラウドサーバを利用して侵害行為を実施した場合、当該二つの規定によりクラウドサーバレンタルサービスプロバイダが法的責任を負うと認定した。
2.権利者がアリババクラウドに送った通知は法律の規定に合致していない。一審の法院は権利者の通知を有効な通知と認定したが、二審の法院は、権利者はアリババクラウドが提供した明確な苦情申し出方法に基づいて通知をしておらず、提供された資料には、権利侵害の証明資料や連絡先が含まれておらず、アリババクラウドは条件に合致しない通知を受け取ったので、連絡、確認、調査等の責任を有しないと判断した。
3.アリババクラウドが受け取った権利侵害苦情が規定に合致していた場合、権利侵害責任法に基づいて講じる「必要な措置」は、「削除」である必要はなく、クラウドサーバの借り主への「通知の転送」を履行することである。
1)クラウドサーバの技術的特徴に基づき、アリババクラウドが取れる「リンクの削除、遮断、切断」と同じ効果の措置は、「サーバをシャットダウンする」又は「サーバ内の全てのデータを強制的に削除する」ことである。この措置は、インターネットサービスプロバイダがクラウドサーバを介して実行する全てのインターネットの活動を直接停止するものであり、その効果は、具体的なウェブサイト、画像、動画を削除するといった性質や結果とは全く異なり、クラウドコンピューティング業界、ひいてはインターネット業界全体に深刻な影響を及ぼすため、慎重、合理の原則に合致していない。
2)最高人民法院83号指導的判例では、インターネットプラットフォームプロバイダは、有効な苦情情報のスムーズな伝達を保証しなければならず、削除措置を直接取ることが適切でない場合、「通知の転送」はインターネットサービス提供者の権利侵害者への「警告」という意図を反映しており、ある程度損害の拡大を防止するのに効果的であるため、インターネットサービスプロバイダが免責条件に達するための「必要な措置」になり得ると指摘されている。
3)現在、クラウドコンピューティングサービスはまだ発展途中であり、プラットフォームの権利侵害免責条件の設定が厳しすぎると、運営費用が増加する虞がある。また、簡単にプラットフォームに対しユーザーのデータの削除やサーバのシャットダウンを要求することも、ユーザーの、プラットフォームの正常運営とデータセキュリティに対する信頼に深刻な影響を及ぼし、産業全体の発展に影響を及ぼす可能性がある。
この事件の判決から、北京知識産権法院がインターネットプラットフォームの事件に対して以下のような考え方を持っていることがわかる。
1.権利者がインターネットプラットフォームに対して自分の権利を主張する場合は、『情報ネットワーク伝達権保護条例』及び『最高人民法院による情報ネットワークを利用した人身権益侵害に係る民事紛争事件の審理における法律の適用の若干問題に関する規定』に基づいて有効な通知を行わなければならない。通知が無効の場合、インターネットプラットフォームは、連絡、確認、調査等の責任を負う必要はなく、その結果は権利者が負うことになる、つまり、インターネットプラットフォームは、必要な措置を講じる必要がないため、間接侵害の責任を負う必要もない。有効な通知には下記の要件が含まれていなければならない。
1)正確な方法によりこれを行わなければならない。
2)内容には下記のことが含まれていなければならない。
A.権利者又は通知人の名称と連絡先。
B.直接侵害者の権利侵害に関する内容の説明、権利者が侵害を受けた権利の種類、及び必要な措置を講じてもらいたいURL。
C.権利侵害行為の初歩的な証明。
D.権利者がインターネットプラットフォームに「侵害リンクを削除する又は切断する」ことを要求する理由。
2.権利者は、インターネットプラットフォームに有効な通知を送った後、インターネットプラットフォームの性質によって、異なる結果を得る可能性がある。
1)『情報ネットワーク伝達権保護条例』に規定された客体に属する場合、すなわちプラットフォームがそのプラットフォームに保存される内容を直接コントロールできる場合、権利者は、インターネットプラットフォームに対し「通知―削除」の規定を実行するよう要求することができる。
2)インターネットプラットフォームがサーバのバックグラウンドを通じて、プラットフォームに保存される内容を把握することができず、権利者が主張する権利侵害行為について初歩的な確認をすることができない場合、『権利侵害責任法』を適用することになる。この場合、インターネットプラットフォームは、権利者の通知に対して「必要な措置」を講じなければならない。「必要な措置」とは、削除はできるが、直接削除することが適切でない場合、インターネットプラットフォームは少なくとも「通知の転送」をしなければならないことをいう。つまり、インターネットプラットフォームは侵害行為の継続を防止するために、権利者の苦情を直接侵害者に通知し、直接侵害者に「警告」を行う必要がある。
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