中国
電子商取引法成立、2019年1月1日より実施
【出典:新華網】
中国では、2018年8月31日の第13期全国人民代表大会常務委員会第5回会議で審議の結果、『電子商取引法』が可決した。この法律は、2019年1月1日より正式に施行される。施行後は、ネットショッピングの混乱した状態が効果的に規制され、消費者の権益が保護されるものと期待される。
近年、中国の電子商取引は急速に発展し、毎年の平均成長率は30%を超えている。2015年の中国の電子商取引額は既に20兆人民元を超え、ネット小売販売額は3.88兆人民元であった。そのうち実物商品のネット販売額は3.23兆人民元に達し、社会消費財の小売総額の10.8%を占め、2015年の中国の電子商取引市場規模は世界一位となった。中国の電子商取引の従事者数は2,690万人に達し、インターネットの中国の経済成長に対する貢献率は7%に達した。ここ数年、多くの全国人民代表大会の代表が電子商取引の立法化を加速させるよう提案していた。2013年12月から全国人民代表大会財政経済委員会は立法作業を開始し、草案を繰り返し検討、修正して、2018年にようやく完成させた。
『電子商取引法』は、総則、電子商取引事業者、電子商取引契約の締結と履行、電子商取引の紛争解決、電子商取引の促進、法的責任及附則などの7章計89条からなる。
1. 『電子商取引法』の規範範囲:第2条
電子商取引は「インターネットなどの情報ネットワークを通じて商品又はサービスの取引を行う経営活動」と定義されている。この定義における情報ネットワークには、インターネット、モバイルネットワークなどがある。商品取引には、有形商品取引と無形商品取引(例えば、デジタル商品)がある。サービス取引とは、サービスの取引をいう。経営活動とは、営利を目的とする商業活動をいい、上記の商品取引、サービス取引及び関連する経営サービスの補助活動が含まれる。
立法化にあたっては、電子商取引の実際の分野を可能な限り網羅し、同時に他の法律法規と効果的に連結することを考慮して、更に「法律、行政法規に商品の販売又はサービスの提供について規定がある場合は、その規定を適用する。金融類の商品やサービス、情報ネットワークを利用したニュース情報、映像音楽番組、出版及び文化商品などの提供に関するサービスには本法を適用しない」と規定している。
2. 電子商取引事業者:第9条
電子商取引事業者とは、インターネットなどの情報ネットワークを通じて商品販売又はサービス提供の経営活動に従事する自然人、法人及び非法人組織をいい、電子商取引プラットフォーム運営者、プラットフォーム内の事業者及び自らが構築したウェブサイトや、その他のネットワークサービスを通じて商品販売又はサービス提供を行う電子商取引事業者などがそれにあたる。
電子商取引プラットフォーム運営者とは、電子商取引において、双方又は複数の取引当事者のためにインターネットにおける経営場所の提供、取引のマッチング、情報配信などのサービスを提供して、双方又は複数の取引当事者が独立に取引活動を展開できるようにする法人又は非法人組織をいう。
プラットフォーム内の事業者とは、電子商取引プラットフォームを通じて、商品の販売又はサービスを提供する電子商取引事業者をいう。
『電子商取引法』では、特にプラットフォームに関する詳細な規定に重点を置いて、電子商取引事業者について上記の明確な規定を定めている。安全で安定したサービスを提供するために、プラットフォーム運営者に対し審査実施を要求しているほか、オープンで透明性のある方法によるプラットフォーム取引規則の制定や、重要な情報の開示、取引記録の保存なども求めている。微商(「微信」(We Chat)を利用して商品やサービスの宣伝や販売をする企業や個人)を管理対象にしたことも今回のポイントの一つである。
3. 電子商取引契約の締結と履行:第3章
電子商取引とそのサービスには、主に電子契約、電子決済と宅配物流がある。電子契約については、既存の法律規定を基に、電子商取引の当事者の行為能力の推定に関する規則、電子契約の締結、自動取引情報システムなどの内容を規定している。電子商取引の当事者の契約締結と履行については、本章と『中華人民共和国民法総則』、『中華人民共和国契約法』、『中華人民共和国電子署名法』などの法律の規定を適用する。電子決済について、条文では電子決済サービス提供者と利用者の法的権利と義務を規定している。宅配物流については、宅配物流は法律に基づいて電子商取引のためのサービスを提供するものと規定し、また、電子商取引の配達過程における安全性とサービスの問題について規範している。
4. 電子商取引に関する紛争解決:第4章
主に次の3つの点について規定している。1つ目は電子商取引プラットフォーム運営者の保証メカニズム構築責任、2つ目は消費者の権利の保護、3つ目は紛争の解決である。
5. 電子商取引の促進:第5章
電子商取引の発展は、産業政策の計画、策定に組み込んで、電子商取引イノベーションの発展を促進させるべきであり、国は電子商取引のインフラと物流ネットワークの構築を推進しなければならない。電子商取引の安全性を維持するために、国は公共データの共有メカニズムを構築し、電子商取引の信用評価を実施しなければならない。国は、クロスボーダー電子商取引の発展を推進するほか、クロスボーダー電子商取引活動の特徴に適した税関、徴税、検査検疫などの業務の電子化を推進し、倉庫保管・物流、税関申告、検査申告などのサービスを提供し、クロスボーダー電子商取引に関する国家間の交流及び協力を促進しなければならない。
法案の中で、比較的重要な規定は以下の通りである。
電子商取引法第38条:電子商取引プラットフォーム運営者は、プラットフォーム内の事業者が販売する商品又は提供するサービスが人身や財産の安全を保障する条件を満たさないこと又はその他消費者の合法的な権益を侵害する行為があることを知り又は知るべきであったにもかかわらず、必要な措置を講じなかった場合、法律によりプラットフォーム内の事業者と共同で連帯責任を負うものとする。
ü 無断で低評価を削除した場合、最高50万人民元の罰金に処する
多くのネットショップ消費者は購入する前に、購入するかどうかの参考として先ず他の消費者のレビューをみる習慣がある。しかし、多くのショッピングプラットフォームでは、商品に対する高評価しか表示されず、或いは、消費者が評価していないのにシステムが高評価を出している。たまに消費者が低評価を残したとしても、売り手側又はプラットフォーム側によって無断で削除されている。将来、このような低評価の無断削除行為は、法律によって規制される。
電子商取引法第39条:電子商取引プラットフォーム運営者は、プラットフォーム内で販売されている商品又は提供されているサービスに対して評価する手段を消費者に提供するために、健全な信用評価制度を構築し、信用評価規則を公開しなければならない。
電子商取引プラットフォーム運営者は、そのプラットフォーム内で販売されている商品又は提供されているサービスに対する消費者の評価を削除してはならない。
上記の規定に違反した場合、第81条第1項第4号では、市場監督管理部門が期間を定めて是正を命じ、2万人民元以上10万人民元以下の罰金に処することができ、事情が深刻な場合は、10万人民元以上50万人民元以下の罰金に処することができると規定している。
ü 消費者の知る権利を保障するため、「高評価の操作」を厳しく禁じる
淘宝では、売り手による「星5つ評価をつけると2元のキャッシュバック」といった行為がよく見られる。一部の売り手はこのような小さな恩恵を利用して、高評価をつけるよう消費者を誘導し、また、一方では報酬を払って「サクラ」による高評価の操作を行っている。将来、このような行為は何れも禁止される。
電子商取引法第17条:電子商取引事業者は、消費者の知る権利と選択権を保障するために、全面的に、偽りなく、正確に、速やかに、商品又はサービスの情報を開示しなければならない。電子商取引事業者は、架空の取引、ユーザー評価の捏造などの方法で、虚偽の又は人に誤解を与える商業宣伝を行って、消費者を欺き、誤導してはならない。
ü リスティング広告による消費者の誤解を回避するために「広告」を明示する
電子商取引のウェブサイトには、よく商品の総合ランキングやお奨めの商品ランキングがあり、消費者はこれらのランキングを基に購入する商品を決めていると言える。しかしながら、これらのランキングは、実際、電子商取引プラットフォームの収入の大部分を占める商業広告であり、消費者を引き付けるための手法である。ネットショッピングプラットフォームが広告宣伝プラットフォームとなった場合、消費者の利益が損なわれ、電子商取引市場の健全な発展にリスクをもたらすことになる。
これに対し、電子商取引法第40条では「電子商取引プラットフォーム運者は、商品又はサービスの価格、販売数、信用など様々な方法で、消費者に商品又はサービスの検索結果を示さなければならない。リスティング広告の商品又は役務については、明確に「広告」と表示しなければならない」と規定している。
ü 電子商取引事業者は、消費者の権利保護に関する立証問題解決について効果的に対応する必要がある
苦情の電話がつながらない、効果的な証拠を見つけるのが難しいといった問題を抱えるネットショッピング消費者は少なくない。ネットショッピングの権利保護は運に頼るしかないのだろうか。このような問題を解決するために、電子商取引法では特定の章を設けて、電子商取引の紛争処理・解決について規定している。
電子商取引法第59条の規定によると、電子商取引事業者は、便利で効果的な苦情、通報メカニズムを構築し、苦情、通報などの情報を公開し、速やかに苦情、通報を受理し処理しなければならない。第62条の規定によると、電子商取引に関する紛争の処理において、電子商取引事業者は、契約と取引記録の原本を提供しなければならない。また、第60条の規定によると、電子商取引に関する紛争は、協議による和解、調停、又は関連部門への苦情、仲裁の申立、又は訴訟提起などの方法により解決することができる。第63条の規定によると、電子商取引プラットフォーム運営者は、オンライン解決メカニズムを構築し、紛争解決ルールを制定し公開することができる。
ü 「ダブル11」の宅配は無期限に延長してはならない
毎年「ダブル11」の特売セール日になると、大量の注文により宅配で道路が渋滞し、なかなか荷物が届かず利用者の生活に影響が出ていた。実際は、どんな理由であれ、それを言い訳にしてはならない。売り手は配達時間を約束し、輸送中のリスクと責任を負わなければならない。
電子商取引法第20条:電子商取引事業者は、承諾或いは消費者との約定という方法に従って、時間通りに消費者に商品又はサービスを届け、且つ商品の輸送中のリスクと責任を負わなければならない。ただし、消費者が他の宅配物流サービスを選択した場合は、この限りでない。
ü 微商を監督管理の対象に入れ、「大数拠殺熟」、「店大欺客」などの現象を根絶
近年、モバイルソーシャルメディアは、日常生活の一部になり、微商もそれに伴って急速に発展してきた。電子商取引法では、このような微商について、電子商取引事業者の定義を拡大して、微商、ライブ配信プラットフォームなどを監督管理対象に組み入れ、電子商取引プラットフォームとプラットフォーム内の事業者の連帯責任を細分化し、電子商取引プラットフォームの審査義務を加重した。電子商取引企業とプラットフォームを規範化して、「大数拠殺熟(ビッグデータを利用した得意客に対する価格差別)」、「店大欺客(規模の大きい店が顧客に対し高圧的となる)」、などの現象の根絶を目指す。
電子商取引法第18条:電子商取引事業者は、消費者の趣味嗜好、消費習慣などの特徴に基づいて商品またはサービスの検索結果を提供する場合、個人の特徴に対応しない選択肢も提示して、消費者の合法的な権益を尊重し平等に保護しなければならない。
第19条:電子商取引事業者は、商品又はサービスを抱き合わせ販売する場合、顕著な方法で消費者に注意を促さなければならない。抱き合わせ商品又はサービスを黙認同意した選択肢としてはならない。
上記の規定に違反した場合、第77条では、市場監督管理部門が期限を定めて是正するように命じ、違法所得を没入し、5万人民元以上20万人民元以下の罰金に処することができ、事情が深刻な場合は、20万人民元以上50万人民元以下の罰金に処することができると規定している。 |