中国 貴州茅台酒廠集団
「国酒茅台」の商標登録出願を断念
【出典:中国工商管理総局ウェブサイト、企業知識産権網】
中国貴州の茅台酒は世界的にも有名である。貴州茅台酒廠集団有限責任公司(以下、「貴州茅台酒廠集団」という)は、1998年12月21日に最初の「茅台」の商標登録出願をした。出願番号/登録番号は1426531で、指定商品は第33類のアルコール飲料などである。この商標を出願してから長年、貴州茅台酒廠集団は、複数の関連商標を出願してきた。何れも第33類のアルコール飲料を指定商品としたものである。貴州茅台酒廠集団が今まで使用している「茅台」に関連する商標は以下の通りである。
2001年に貴州茅台酒廠集団は、初めて「国酒茅台」の商標登録出願をしたが、拒絶査定された。
2007年に貴州茅台酒廠集団は、再度以下の2件の「国酒茅台」の商標登録出願をしたが、再び拒絶査定された。
2010年には再度以下の4件の「国酒茅台」の商標登録出願をしたが、拒絶査定されたため、行政訴訟を提起した。
前記2010年の4件の「国酒茅台」の商標登録出願後、当時多数の酒造業者から異議申立てがなされた。貴州茅台酒廠集団は、拒絶査定通知を受け取った後、国家商標評審委員会を被告として、商標評審委員会の不登録とする復審決定の取り消しと、決定のやり直しを求めて北京知識産権法院に行政訴訟を提起した。それと同時に異議を申立てた酒造業者、五糧液、剣南春、郎酒、汾酒など31社の酒造業者も被告として併せて訴えた。
▓ 「国酒茅台」は長年継続的に使用されている事実によって商標登録が許可されるか。
貴州茅台酒廠集団は、「貴州茅台酒廠集団は中国で著名な白酒メーカーであり、会社のウェブサイトには、「国酒茅台」の文字が複数ある。また、テレビでも、「国酒茅台が時間をお知らせします」で始まるコマーシャルがよく流れており、既に茅台酒イコール国酒になっている。これは、貴州茅台酒廠集団が「国酒茅台」の商標登録出願を諦めない理由である。」と主張した。
しかしながら、商標評審委員会は、「貴州茅台酒廠集団は、「国酒」を広告用語として使用したに過ぎず、このことと「国酒」を商標として使用することを同等に論じることはできない。「国酒茅台」は貴州茅台酒廠集団の登録商標でないだけでなく、「国酒茅台」については、常に様々な紛争と疑問が存在する。これも、貴州茅台酒廠集団が長年、何度「国酒茅台」を商標登録出願しても、拒絶されてきた原因である」と指摘した。
事実、「国酒茅台」が商標登録できるかどうかのポイントは、「国酒茅台」の商標登録が成功した場合、他の酒造業者が販売する酒類商品の販売に必ず影響が生じる点にある。つまり、この商標の紛争は、実際には、企業間のブランドイメージの競争であり、各酒造業者にとって、貴州茅台酒廠集団による「国酒茅台」の商標登録出願は座視できないことなのである。
▓ 「国酒」の定義について
「国酒」とは何か。一体どう定義するのか。それは、商標登録を認めるか否かに大きな影響を与える。貴州茅台酒廠集団からすれば、長期にわたり大量に「国酒茅台」を使用しているので、長期使用の事実があるだけではなく、消費者も既に「国酒茅台」に対してある程度のイメージと認識を持っていると考えるだろう。しかしながら、他の酒造業者からすれば、「国酒」の商標登録が許可された場合、貴州茅台酒廠集団以外の中国の酒造業者の利益を害することになる。それは、「国酒」が「中国の最高の酒」の意味であると消費者に誤認を生じさせるからである。これは間違いなく消費者の製品品質に対する認知に影響を及ぼし、市場に不公平な競争を生じさせることになる。
商標評審委員会は決定書のなかでも、「「国酒茅台」という商標の中の「国酒」の用語には、「国内最高の酒」、「国家級の酒」という品質に対する評価の意味が含まれている。貴州茅台酒廠集団が提出した証拠は、「国酒」が他の更に強い意味を有することを証明することができない。当該文字を貴州茅台酒廠集団が登録商標の構成要素として独占的に使用した場合、市場の公平な競争秩序に悪影響が生じやすくなる」と指摘した。
商標評審委員会の指摘に対して、貴州茅台酒廠集団は、答弁書で「「国」という文字自体には、元々「国家の」「国家級」の意味が含まれているが、そこから「国酒」に「国内最高の酒」という意味があると推論することはできない。いわゆる「国家級の酒」とは一体どういう意味なのかも、実際には曖昧である。「国酒茅台」は、一つのまとまりであって、この商標の組み合わせ全体から理解しなければならない。「国酒茅台」の中の「国酒」の二つの文字は、「中国白酒の典型的な代表の一つ」を意味するはずである。「国酒茅台」は、既に社会で長年使用されており、関連の統計結果でも、「国酒茅台」の使用は他の同業の酒造業者の利益を害する不正なものでないことが分かる。」と主張した。
ただ、広告と消費者心理学の観点からすると、消費者は元々「国家的」、「市場で一番の」などのような言葉を容易に信じる傾向にある。これは中国広告法に、「国家級」、「最高級」、「最高」などのような用語の使用の禁止規定がある理由でもある。商標法でも、「指定商品に、商品の品質特徴を直接に表示したもの又は欺瞞性を有しているもの、更には市場の公平的な競争秩序を害するもの、又は政治的に悪影響を及ぼしやすいものは、拒絶査定しなければならない」と規定されている。したがって、商標評審委員会が「国酒茅台」の商標登録の拒絶査定を維持する決定を下したことは、妥当である。
▓ 「国窖」、「国粋」、「国礼」、「国薬公」などは商標登録できるか。
貴州茅台酒廠集団はさらに「最初の文字が「国」である商標の登録は先例がないわけではない。実際に、「国窖」、「剣南国宝」などは、「国酒茅台」とともに市場で長年併存しており、薬品、茶業分野でも、「国礼」、「国粋」、「国薬公」などの商標が既に登録を認可されている。審査基準の一致性原則に基づき、「国酒茅台」の登録も認可するべきである。」とも主張した。
これに対して、商標評審委員会は、「2010年に発表された『「中国」を含む商標の及び最初の文字が「国」である商標の審査審理基準』によると、「国+商標の指定商品名称」を商標として出願する場合、又は商標中に「国+商標の指定商品名称」が含まれる場合、「誇大な宣伝で且つ欺瞞性を帯びている」、「悪影響を及ぼす」ことを理由として、拒絶査定すべきであり、最初の文字が「国」であるものの、「国+商標の指定商品名称」でないものは、区別して取り扱わなければならないとある。
本件において、「酒」は商品名称であるため、「国酒」は間違いなく前記の『「中国」を含む商標及び最初の文字が「国」である商標の審査審理基準』の規定の範囲内に含まれる。しかし、「礼」、「窖」、「粋」などは商品名称ではないため、同等に論じることはできない。」と説明した。
このような結果について、学者のなかには「「国礼」、「国粋」、「国窖」は、この酒が国家を代表することを暗に意味し、国家が特定の企業を保証したも同然で、市場の他の競争者にとって不公平だから商標登録に適していない。貴州茅台酒廠集団が「国酒茅台」を登録できないなら、商標審査の一致性を理由として、商標評審委員会に、「国礼」、「国粋」、「国窖」などの商標の無効を求めて、無効審判を請求することができる。」と考えるものもいる。
▓ 他の酒造業者も「国酒」の商標を出願したことがある。
実際、商標権の争いはブランドの争いである。貴州茅台酒廠集団だけが「国酒茅台」のような商標登録出願をしたのではなく、他の酒造業者も「国酒五糧液」、「国酒酚酒」などの商標登録出願をしたことがある。貴州茅台酒廠集団が何度も「国酒茅台」の商標登録出願をした目的は、商品のボトルと包装に「国酒茅台」の文字を使用したかったためである。これができれば、露出度と宣伝において、テレビ、ウェブサイト、印刷広告よりも効果的であり、最高のブランドイメージを作り上げることもできる。
▓ 貴州茅台酒廠集団は、最終的に「国酒茅台」の商標登録出願を断念
何回もの試みに失敗した後、貴州茅台酒廠集団は2018年に企業構造を改めて調整し、グループ内の51の子会社を整理したほか、ブランドイメージの管理も強化した。「国酒茅台」を商標として登録することができないため、品質とブランドイメージから着手し、「国酒茅台」を各種の広告宣伝に継続的に使用して、「国酒茅台」を消費者の心に根付かせる。また包装には「国酒」の二文字を使用することはできないが、国酒の要素を利用してブランドの地位を確立することを目指すとした。これは貴州茅台酒廠集団の新しい対応の方向性である。
同時に、2018年8月13日に、貴州茅台酒廠集団は同社のウェブサイトで、「国酒茅台」の商標登録出願を断念し、関連する訴訟を取下げ、並びに国家知識産権局商標評審委員会に公開で謝罪する旨を発表した。 |