中国 広州知識産権法院の
二審判決で、リスティング広告の
収入は違法所得との判決
【出典:中国裁判文書網、新浪網】
▓ 番号:(2017)粤73民終199号
2018年5月8日、広州知識産権法院は、広州華進聨合専利商標代理有限公司(以下、「華進聨合公司」という)が広州北標知識産権代理有限公司(以下、「広州北標公司」という)、深圳北標知識産権代理有限公司(以下、「深圳北標公司」という)、北京百度網訊科技有限公司(以下、「百度公司」という)を対象に、商業賄賂による不正競争に関わる紛争で訴訟を提起した事件について、二審(終審)判決を下した。
ü 事実要約:
2015年華進聨合公司は、百度で「華進聨合専利商標代理有限公司」を入力して検索をし、検索結果で表示された「[公式サイト] 華進聨合専利商標代理有限公司北標商標登録公式サイト入口」をクリックしたところ、華進聨合専利商標代理有限公司のウェブサイトではなく、北標知識産権代理有限公司のウェブサイトにアクセスしてしまうことを発見した。
これについて、華進聨合公司は、北標知識産権代理公司のウェブサイトの運営に関わる会社に不正競争の疑いがあると考え、広州北標公司、深圳北標公司と百度公司を被告として、(1)広州北標公司、深圳北標公司は、華進聨合公司に経済損失及び権利維持のための合理的な費用の計30万人民元を支払うこと、百度公司は連帯して賠償責任を負うこと(2)影響を除去するために、広州北標公司、深圳北標公司、百度公司はメディアに謝罪声明を1ヶ月間掲載すること(3)広州北標公司、深圳北標公司、百度公司は本件の訴訟費用を負担することを求める訴訟を広州市天河区人民法院に提起した。
ü 広州市天河区人民法院一審判決(2017年2月)
(1) 華進聨合公司、広州北標公司及び深圳北標公司は何れも『中華人民共和国不正競争防止法』(1993年)第2条第3項に規定する事業者であり、事業範囲には何れも知的財産権代理業務が含まれており、競争関係が存在する。
(2) 事件に係る行為は不正競争を構成し、法律が適用されるか。
事件に係るキーワードは、深圳北標公司が設定したものである。深圳北標公司が無断で華進聨合公司の名称である「華進聨合専利商標代理有限公司」をキーワードとして百度のプロモーションサービスに追加した行為によって、華進聨合公司の関連情報を知りたい消費者が、百度検索エンジンで同社の名称を検索したときに、トップページの一番目立つ位置に広州北標公司及び深圳北標公司のウェブサイトへのリンクを表示して、消費者を広州北標公司及び深圳北標公司のウェブサイトにアクセスするよう誘導し、消費者に華進聨合公司が、広州北標公司及び深圳北標公司となんらかの関係があると誤解を生じさせ、それによって広州北標公司及び深圳北標公司の取引きの機会が増加し、華進聨合公司の取引きの機会が減少して、華進聨合公司の正当な利益が害されることとなった。広州北標公司と深圳北標公司の上記行為は、市場競争における信義則に違反し、無断で他人の企業名称を使用した不正競争を構成するため、法律により損失に対する賠償と影響除去の民事責任を負うべきである。
(3) 広州北標公司、深圳北標公司及び百度公司は責任を負うべきか。
事件に係るキーワードは、深圳北標公司が設定したものであるが、事件に関わる百度プロモーションは有料のプロモーションサービスであるため、百度公司はこの種のプロモーションサービスに関して高い水準の審査義務を負うべきである。事件に係るキーワードの「華進聨合専利商標代理有限公司」は、広州北標公司及び深圳北標公司のウェブサイトと何の関連性もないことから、一審法院は、百度公司が事件の権利侵害行為について適切な審査義務を果していないため、広州北標公司及び深圳北標公司と連帯して責任を負うことが妥当であると認定した。
(4) 賠償額はどのように認定するか。
華進聨合公司が、広州北標公司、深圳北標公司、百度公司の侵害行為により受けた損失又は広州北標公司、深圳北標公司、百度公司が侵害行為により得た利益額を証明する証拠を提出せず、華進聨合公司が提示した賠償額が明らかに高すぎるため、一審法院は華進聨合公司の知名度、不正競争行為の性質と情状、主観的な過失程度、経営規模及び華進聨合公司が侵害行為を制止するために支払った費用の合理性及び必要性などの要素を総合的に考慮し、事情を斟酌して賠償額を確定した。
(5) 広州北標公司、深圳北標公司及び百度公司の権利侵害の情状を考慮して、一審法院は、『広東知識産権報』に謝罪声明を掲載(掲載回数は1回)して、影響を除去するのが妥当であると判断した。
一審判決の概要は次の通りである。(1)広州北標公司及び深圳北標公司は判決の発効日から10日以内に、華進聨合公司の経済損失に対する損害賠償金計12万人民元を連帯して支払う。(2)百度は前記賠償金について、連帯責任を負う。(3)被告は『広東知識産権報』に謝罪声明を掲載しなければならない(掲載回数は1回)。
当該事件の判決が言い渡されてから、広州北標公司、深圳北標公司及び百度公司はこれを不服として、それぞれ広州知識産権法院に上訴を提起した。
ü 広州知識産権法院の二審判決:
(1) 広州北標公司及び深圳北標公司の不正競争行為で負うべき賠償責任及び金額は、原判決を維持する。
(2) 百度が提供するリスティング広告サービスの当該事件における責任問題について、二審判決は、百度公司が他人の不正競争行為にリスティング広告サービスを提供して料金を徴収したことは、「客観的に広州北標公司及び深圳北標公司の不正競争行為実施を幇助したことになり、これはインターネットの健全な発展に反するものである。また百度公司が本事件のインターネットサービスにおいて徴収したサービス料5,600人民元は、実際には、そのサービス対象者が権利侵害行為に従事したことで得たものであり、違法所得に属するため、法律により没収し国庫に上納すべきである」とした。
また、二審法院は「リスティング広告は、検索エンジンの自然検索結果に対して人為的に干渉し、結果に応じて料金を徴収するビジネスモデルである。百度を含む各種検索エンジンサービス事業者は、リスティング広告サービスを利用する主体の利用行為が違法か否か、また共同侵害を構成するか否かについて、「合理的な注意義務」のみを負う」とした。
本件において、二審法院は百度公司の提供するリスティング広告サービスに対して法的なラインを明確に引いた。すなわち、違法行為にリスティング広告サービスを提供してはならず、提供した場合、サービスの収益は違法所得と判断され、法律により没収されることになる。
しかしながら、実際には、例えば、検索エンジンに「アマゾン」と入力すると、検索結果の最上位に「天猫(Tmall)」が表示される。このように相手の影響力を利用し、対応するリスティング広告サービスのキーワードを設定して、相手のユーザートラフィックを不正に傍受する行為はよくみられる。既に発効した多くの判決では、この種のキーワードの設定行為は不正競争行為と認定されたが、検索エンジンサービス事業者については、「削除通知」義務によって保護されているため、対応する事件で責任を負うと判断されたことはほとんどない。
広州知識産権法院の判決の論理からみると、Google、百度、搜狗などを含む各種検索エンジンサービス事業者は、他人の不正競争行為にリスティング広告サービスを提供し且つ料金を徴収した場合、違法行為を幇助することで収入を得たと疑いがあるため、この種の収入は違法所得と認定され、国に没収される可能性がある。したがって、この判決は検索業界に「大きなショック」をもたらした。
百度公司を例にとると、百度の2018年第1四半期の決算報告では、百度の営業収益は、209億人民元(約33.3億ドル)で、前年比31%増であった。また、百度の第1四半期のインターネット事業収益は172億人民元(約27.4億ドル)で前年比23%増であった。そのうち、百度の決算報告に記載された「インターネットマーケティング」サービスは、内容や出所のほとんどが俗称「リスティング広告サービス」であり、当該業務は百度の営業収益の約80%を占めていると推測される。
前記発効した判決で確定した規則により、百度を含む検索エンジン事業者がキーワードの設定策略を調整または変更しなかった場合、様々なリスクに直面することになる。そのリスクとは、一、リスティング広告の設定によってさらに多くの不正競争訴訟が発生する可能性がある。二、同様の紛争が増えれば、百度が没収される違法所得も増えることになり、百度の事業収益が大きな打撃を受ける可能性が出てくる。
そのため、中国の検索エンジン業界全体は、広州知識産権法院のこの二審判決に高い関心を寄せている。
参考:
http://wenshu.court.gov.cn/content/content?DocID=1cc5d8a8-d472-4bb2-a849-a90c00960aea&KeyWord=%E4%B8%8D%E6%AD%A3%E5%BD%93%E7%AB%9E
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