中国 最高法院が
「傍名牌(有名ブランドへの便乗)」
のaopu奥普商標に対し無効の判決を下す
【出典:中国企業知的財産権網】
2017年8月2日に中国の最高法院は、後願商標の「奥普aupu」を勝訴とし、先行商標である傍名牌の「奥普aopu」商標を無効とする判決を下した。
一、事実の概要
ü 新エネルギー会社(中国語:新能源公司)は、第1737521号登録商標「aopu奥普」(出願日:2001年3月27日、登録公告日:2002年3月28日、存続期間(2002年3月28日~2022年3月27日)の商標権者であり、金属製タオル掛け、金属製固定式タオル用ディスペンサー、金属製建築材料、家具用金属製部品、金属製非電子錠、金属製家具、窓用金属製部品、ねじ、金庫及び金属製箱を含む第6類の商品について商標を使用することが許可された。
ü 杭州奥普電器有限会社は下記商標の商標権者(全て文字商標)である。
商標名称
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区分
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登録番号
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出願日
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登録日
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存続期間
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奧普
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11
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730979
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1993/09/04
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1995/02/21
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2015/02/21-2025/02/20
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奧普
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11
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1187759
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1997/04/16
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1998/06/28
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2008/06/28-2018/06/27
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AUPU
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11
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1803772
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2004/04/23
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2002/07/07
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2012/07/07-2022/07/06
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奧普
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6
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3338892
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2002/10/17
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2004/03/21
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2014/03/21-2024/03/20
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AUPU
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6
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4217092
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2004/08/12
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2006/12/21
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2016/12/21-2026/12/20
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そのうち、登録番号第1187759号及び第1803772号の商標は、2008年に通常使用権(non-exclusive license)が奧普衛厨会社に許諾された。奧普衛厨会社は、「AUPU奧普®」が付された金属製パネルを生産・販売しており、当該金属パネルの側面には「AUPU」のマークがプレスされている。
二、一審の判決
一審の法院は、「侵害被疑物品である金属製パネルの保護フィルム全体に「AUPU奧普」の文字が印刷されている。その標識は、奧普衛厨会社が製品の包装において別途に半透明のビニールテープで覆っているが、依然として識別可能であり、しかも、製品の覆われていない部分では「AUPU奧普」の標識がはっきり見える。奧普衛厨会社が侵害被疑製品上に「AUPU奧普®」を表示した行為は、商標の使用とみなすべきである。係争商標が使用を許可された商品区分は金属製建築材料である。侵害被疑製品は金属製パネルであり、金属製建築材料に該当する」との見解を示した。
侵害被疑製品は金属製建築材料に属し、新エネルギー会社の係争登録商標の使用が許可された商品の範囲内にある。商標民事事件司法解釈の第九条、第十条の規定により、奧普衛厨会社は金属製パネル製品に「AUPU奧普」の文字をはっきりと表示しており、係争商標と比べたとき、漢字の「奧普」は全く同一で、英語の文字の「AUPU」と係争商標の「aopu」は一文字しか違わず、商標の称呼機能から判断すると、両方とも発音は「奧普」で同一であり、字形からみると「AUPU奧普」と「aopu奧普」の両者は類似に属し、一般の消費者の注意力では容易に混同誤認を生じるため、楊艶と奧普衛厨会社が金属製パネル製品上に「AUPU奧普®」商標を使用した行為は、新エネルギー会社の係争商標の専用権侵害にあたる。
Ø 一審の法院は、「商標の類似判定方法」を採用し、まず、被疑商標が商標的使用に該当するか否かに対して認定をし、続いて商標の指定商品の区分について判断すると同時に、係争商標と対比を行い、最後に商標の指定商品の区分が同一であること、係争商標に類似することをもって混同の可能性を直接推定して、「直接混同」であると判断したが、消費者の注意力の程度など実際の混同の証拠は考慮しなかったため、判決の結果に偏差が生じた。
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三、二審判決
二審の法院は、「奧普衛厨会社が、「aupu奥普」の標識が係争商標に類似することを明らかに知りながら、生産及び販売する金属製パネルに使用したことは、係争商標の専用権侵害にあたる。係争商標に比べ、奧普衛厨会社の電気製品類の登録商標「奥普」はより高い知名度を有しており、消費者が、奧普衛厨会社が生産して楊艶が販売する被疑金属製パネルの出所を新エネルギー会社と誤認する可能性は低い。だが新エネルギー会社が生産・販売する金属製パネルの出所を奧普衛厨会社と誤認し、又は、両者の間になんらかの関連性があると考える可能性は高い。これは必然的に、係争商標の消費者に対する影響を低減させ又は消滅させ、新エネルギー会社による係争商標の専用権の合法的な行使を妨害し、合法的な利益に対し損害を与えるものである」との見解を示した。
Ø 二審の法院は、奧普衛厨会社の電気製品類の登録商標「奧普」がより高い知名度を有し、新エネルギー会社の係争商標の認知度はより低く、奧普衛厨会社のこの種の行為は消費者に出所の混同、又は関連関係の混同を生じさせるとして、「逆混同」であると判断した。
「混同理論」と「希釈化理論」は『商標法』の二大基盤である。「混同理論」には「直接混同」と「逆混同」がある。「直接混同」は、後発使用者が先行商標から不正な利益を得ることを防止するためのものであり、「逆混同」は、後発使用者による先行商標の不正使用を阻止し、先使用者の標識及び信用が、「覆われてしまう」または、「埋もれてしまう」結果が生じるのを防ぐためのものである。
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四、再審判決―最高法院の見解
新エネルギー会社が本件において権利を主張する基礎についての判断は次のとおりである。知的財産権を保護し、イノベーションを奨励する目的と比例原則に基づき、知的財産権の保護範囲及び強度は、特定の知的財産権のイノベーション及び貢献度に比例しなければならない。保護範囲と強度をイノベーションの貢献度に比例させてはじめて、真のイノベーション奨励が可能となり、比例原則の条件を満たすことができる。商標権の保護強度は、そのあるべき顕著性と知名度に比例していなければならない。本件の係争商標は中国語文字及びピンインの2つの部分から成り、その中の中国語文字の「奧普」は造語であり、より強い固有の顕著性を有しており、且つ、杭州奧普電器有限会社、奧普衛厨会社の屋号と完全に一致している。
原審法院で判明した事実によれば、「奧普」の文字商標は1995年に奧普衛厨会社の関連企業が第11類の商品において登録許可を得た。2001年6月に「奧普」商標は、既に杭州市の著名商標と評価された。その後、「奥普」商号は、浙江省の有名商号と認められ、「奥普」シリーズ商標は浙江省の著名商標と評価されるとともに、司法裁判で「馳名商標」と認められた。従って、係争商標の出願日の前に、杭州奧普電器有限会社、奧普衛厨会社及びその関連企業に使用されたことにより、「奧普」シリーズ商標は、係争商標が使用を許可された「金属製建築材料」の商品と関連性が非常に高い浴覇(一種の多機能暖房機)などの電気製品において、既により高い知名度を有している。一方、新エネルギー会社は係争商標を譲受した後は、主に、凌普会社に授権する形で係争商標を使用してきた。
本件の証拠から分かるように、凌普会社が係争商標の使用において、何度も規定に違反して使用したり、「奧普」の文字を強調表示したりして、工商行政管理部門から処罰を受けたり、司法機関に不正競争行為であると認定されており、その信用に便乗した相手は、まさに市場で既により高い知名度を有する奧普電器の製品である。凌普会社の商標の使用行為に対して監督責任を有し、そして凌普会社と共同原告として本件訴訟を提起した新エネルギー会社は、凌普会社の上述の行為を知っていたはずである。新エネルギー会社は本件において、正当な使用行為を通じて、係争商標が法的保護を受けるのに十分な顕著性及び知名度を生じたことを証明する証拠を提出しなかった。
このことから、係争商標の「奧普」の文字の顕著性及び知名度は、実は奧普衛厨会社及びその関連企業の使用行為に由来することがわかる。係争商標は「金属製建築材料」においては、登録商標専用権を有するが、その権利の保護範囲及び保護強度は、新エネルギー会社の当該商標の顕著性及び知名度に対する貢献度に合致していなければならない。
次に、被疑標識の使用方法が市場の混同を招く結果をもたらすか否かについて、原審法院で判明した事実によれば、杭州奧普電器有限会社が先行権利を有する状況については、第11類の「浴室装置」などの商品において、「奧普」及び「AUPU」の登録商標を有しているほかに、杭州奥普電器有限会社は、第6類の「建築用金属板、金属製仕切り板(建築)」において、「1+N」、「1+N浴頂(日本語訳:浴室天井)」、「浴頂」等の登録商標を有し、第11類の「浴室装置」などの商品において、「1+N」、「1+N浴頂」、「浴頂」などの登録商標を有している。上述の商標の登録査定日はいずれも本件の侵害被疑行為が発生した日よりも早い。また、侵害被疑製品の販売場所について、新エネルギー会社が侵害被疑製品の購買による公証を行った場所は、奧普衛厨会社の販売代理店の店内であった。
その店の看板には、顕著な方法で「奧普」及び「1+N浴頂」の文字が使用されている。侵害被疑製品の標識の使用状況については、権利侵害商品の外包装に、「製品名:普通パネル」が表示されているほか、製造業者である奧普衛厨会社の企業名称の完全な名称、「1+N浴頂」、「浴頂」の商標図もはっきりと表示されている。外包装を取り外すと、パネルの側面に「AUPU奧普®」、「1+N浴頂」及び奧普衛厨会社の企業名称の完全な名称が見える。このことから分かるとおり、侵害被疑製品の販売場所は、奧普衛厨会社の正規代理店であり、その店の上には、奧普衛厨会社の屋号及び登録商標が顕著に表示されている。
侵害被疑製品の外包装及び製品自体には、はっきりと奧普衛厨会社の企業名称の完全な名称及び杭州奧普電器有限会社が第6類の商品において有する「1+N浴頂」などのその他の登録商標が表示されている。これにより、一般消費者は奧普衛厨会社が販売場所と侵害被疑製品上に表示した上記の情報から、商品の出所をはっきりと区分でき、侵害被疑製品の出所が新エネルギー会社であると誤認する結果を生じることはなく、新エネルギー会社の係争商標が有する商業的信用に便乗して害を与える結果を生じることもない。ここで指摘する必要があるのは、商標法が保護しようとするのは、商標が有する商品及び役務の出所を識別及び区別する機能であり、登録行為で固定化された商標標識自体に限らない点である。
従って、商標標識自体の類似は、侵害行為が成立するか否かを認定する際の決定的要素ではない。使用行為が係争商標の識別及び区別機能を害さず、これによって、市場の混同を招く結果も生じない場合、この種の使用行為は商標法で禁止された範囲に入らない。従って、奧普衛厨会社が被疑標識を使用する行為は、係争商標の商標権侵害にはあたらない。これにより、楊艶が侵害被疑製品を販売する行為も侵害行為にあたらない。一審、二審の法院の認定には過ちがあり、本院はこれを是正する。
Ø 最高法院の判決ポイント
1.商標法が保護しようとするのは、商標の商品及び役務の出所を識別及び区別する機能であり、登録行為で固定化された商標の標識自体に限るものではない。従って、商標の標識自体の類似は侵害行為が成立するか否かを認定する際の決定的要素ではない。もし使用行為が係争商標の識別及び区別機能を害しておらず、これによって、市場の混同を招く結果も生じていない場合、その使用行為は商標法で禁止された範囲に入らない。
2.知的財産権の保護及びイノベーションの奨励の目的と比例原則に基づくと、知的財産権の保護範囲及び強度は、特定の知的財産権のイノベーション及び貢献度に比例していなければならない。保護範囲と強度をイノベーション貢献に比例させることによってはじめて、真のイノベーション奨励、創造の促進が可能となり、比例原則の条件を満たすことができる。商標権の保護強度は、その有する顕著性と知名度に比例していなければならない。
3.商標法が保護しようとするのは、商標に化体した信用であり、商標の標識自体ではない。よって、商標権侵害が「商標混同」によるのか、「商標希釈化」によるのかに関わらず、最終的な判断基準はいずれも、「商標に化体した信用が害されたか否か」である。知的財産権の保護範囲及び強度は、特定の知的財産権のイノベーションと貢献度に比例しており、同様に、商標の保護範囲は柔軟的なものであり、その保護強度は、有する顕著性と知名度に比例するべきである。「商標混同」の権利侵害において、商標標識の類似判定は、侵害行為が成立するか否かを認定する際の必要条件であるが、十分条件ではない。混同の可能性のみが「商標混同」の必要且つ十分条件である。
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最高人民法院は『行政裁定書』において、「「奧普aopu」の商標登録には悪意があり、「奧普aupu」が既に馳名商標になっている状況で、奇彩会社が「奧普」商標を含む係争商標を登録出願し、その後企業名称を変更し、「奧普」の商標文字を企業名称の屋号の部分にするとともに、業務範囲を浴覇製品と関係性のある衛生用品、タオル掛け、金物部品の製造、販売に変更した。このことから分かるように、奇彩会社の係争商標の登録出願、企業名称の変更、業務範囲の変更など一連の行為の目的は、「奧普」標識の資源を取り込み、杭州奧普の引用商標の信用にただ乗りすることである」と指摘した。
2009年11月に、杭州奧普は商標評審委員会に「奧普aopu」商標の無効宣告を請求した。約6年間の審理を経て、2015年7月に商標評審委員会は、杭州奧普の引用商標である「奧普aupu」商標を馳名商標と認定したものの、証拠が不十分であること、5年の紛争請求期間を経過していること、係争商標が登録を許可された金属製建築材料と引用商標が使用を認められた指定商品は類似していないため、誤認混同を生じないこと、係争商標と引用商標の共存時間が長く、13年間の安定した市場秩序が既に形成されたことを理由として、係争商標「奧普aopu」の登録を維持する決定を下した。
杭州奧普はこれを不服として、北京知識産権法院に行政訴訟を提起した。2016年6月、北京知識産権法院は審理を経て、杭州奧普の引用商標「奧普aupu」は馳名商標であり、係争商標「奧普aopu」の登録には悪意があり、5年の紛争請求期間を越えて保護を行うことができ、第6類の「金属製建築材料」と、馳名商標が使用を許可された浴覇などの商品とは密接な関係があり、係争商標の登録及び使用は市場の混同誤認を容易に引き起し、安定した市場秩序を形成することができないと認定して、商標評審委員会の決定を取消した。2017年3月2日、北京市高級人民法院は、現代新エネルギー会社などの上訴を棄却し、北京知識産権法院の判決を維持した。
その後、雲南奧普と現代新エネルギー会社は判決を不服として、最高人民法院に上訴した。最高人民法院は再審請求を却下し、この7年にも及ぶ「奧普」商標の訴訟の判決が確定した。判決の結果は、傍名牌の企業に対する抑止効果を有するだけでなく、企業が自らの権益を守るよう促すものとなった。製品に対する侵害行為が発生した時には、行政手段と司法の権利保護を通して、侵害者に侵害行為を停止させるだけでなく、損害賠償を主張する事もできる。既に商標登録出願された傍名牌行為に対しても、すぐに異議申立し又は無効を請求することで、商標の侵害を阻止することができる。
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