中国
2016年専利調査報告を公布
【出典:国家知識産権局ウェブサイト】
中国国家知識産権局は2015年末時点で有効な専利を保有する専利権者及びその有効な専利に対して調査を行った。その報告の概要は下記のとおりである。
一、専利保護の満足度が低め
8割以上の専利権者は、中国の知的財産権保護を強化すべきと考えている。そのうちの6割は徐々に強化していくべきと主張し、2割は大幅強化が必要と考えており、様々なタイプの専利権者がいるが、その見解はおおよそ同じである。個人の専利権者は、その他のタイプの専利権者より、知的財産権保護に対する要求がより強く、28%の個人の専利権者が知的財産権保護について大幅な強化が必要であると考えている。
専利権者の中で中国政府による専利保護に対して満足している人の割合は56.2%しかなく、専利行政法執行により権利を保護しようとする専利権者が増えている傾向にあり、専利管理機関による自発的な取り締りを希望する人が61.3%、自ら専利管理機関に通報すると答えた人が51.3%であった。ただし、協議で解決すると答えたのはわずか25.8%、直接法院に訴訟を提起すると答えたのはわずか23.6%で、司法ルートを選択する割合が低いことを示している。
過去5年の専利調査データによると、各タイプの専利権者が専利権を侵害された割合は顕著に減少しており、2015年に最も減少したが、2016年には企業と高等教育機関の専利権者が専利権を侵害された割合が少し上昇し、科学研究機関及び個人の専利権者が専利権を侵害された割合は減少し続けている。
専利権侵害紛争が生じた場合、一番難しいのは立証であり、この要素も専利権者の専利司法保護に対する満足度に直接影響している。専利権者が現在の専利司法保護に対して最も不満に感じている三つの点は、1.立証が困難(50%以上)、2.審理期間が長すぎる(34.3%)、3.判決の執行が難しい(27.6%)。
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企業
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高等教育機関
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科学研究機関
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個人
|
全体
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訴訟前差止の
獲得が難しい
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18.5
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6.5
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15.8
|
14.8
|
17.6
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立証が困難
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52.8
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56.5
|
53.7
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49.1
|
52.7
|
審理期間が長すぎる
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34.1
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35.5
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31.7
|
36.9
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34.3
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賠償金額が低い
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22.0
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25.7
|
12.0
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23.3
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21.9
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判決の執行が難しい
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26.4
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35.2
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39.0
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32.2
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27.6
|
訴訟費用が高すぎる
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18.2
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24.8
|
8.7
|
19.4
|
18.2
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合計
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172.0
|
184.2
|
160.8
|
175.7
|
172.4
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表1 現在の専利司法保護に対して最も不満に感じている点(単位:%)
法院が決定した専利権侵害事件の賠償額について、約5割の専利権者が「賠償なし」、28.9%が「10万人民元以下」、18.8%が「10~50万人民元」と答えた。地方調査研究のインタビュー調査によると、訴訟費用は1件約40~50万人民元のため、ほとんどの事件は勝訴しても、賠償額で専利訴訟のコストを補うことができない。また、「専利を売却する場合の売却予想価格」の調査では、企業が予想する専利の売却価格は平均10~50万人民元で、司法ルートによる権利侵害問題解決にかかるコストが、企業の専利売却予想価格を上回っていることが分かる。
二、専利実施率は安定して緩やかに上昇し、企業の専利産業化は比較的高い傾向
2006年から2016年までの中国の専利実施率は約57%~75%であった。2013年から専利実施率は74.1%となって上昇を続けたものの、その後下降し始め、2014年には69.2%になり、2015年にはさらに57.9%にまで下降したが、2016年は上昇に転じて61.8%になった。
同一年度内で比較してみると、2016年の専利実施率は61.8%で、そのうち、企業の専利実施率(67.8%)が最も高く、専利の種類別では、意匠の実施率(65.8%)が最も高かった。
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企業
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高等教育機関
|
科学研究機関
|
個人
|
全体
|
特許
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65.7
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16.2
|
29.2
|
46.1
|
52.9
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実用新案
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68.0
|
11.7
|
38.4
|
34.8
|
62.9
|
意匠
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39.1
|
10.1
|
60.9
|
55.6
|
65.8
|
合計
|
67.8
|
12.1
|
42.4
|
42.1
|
61.8
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表2 専利実施率(単位:%)
専利産業化率をみると、中国の産業化率は46%で、専利権者が企業のもの(51.5%)が最も多く、専利の種類では意匠の産業化率(52.4%)が最も高かった。
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企業
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高等教育機関
|
科学研究機関
|
個人
|
全体
|
特許
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48.1
|
5.1
|
14.4
|
28.7
|
36.7
|
実用新案
|
50.6
|
3.1
|
20.6
|
22.0
|
46.2
|
意匠
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55.8
|
2.4
|
43.6
|
41.1
|
52.4
|
合計
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51.5
|
3.3
|
25.3
|
28.0
|
46.0
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表3 専利の産業化率(単位:%)
専利実施率は専利権者が保有する専利の数によって異なる。専利保有量が増加した場合、専利実施率は先に上昇してから下降する傾向にある。特許を例に挙げると、1~2件の特許を保有する場合の実施率は55.3%であり、10~29件の特許を保有する場合の実施率は64.7%(最も高い)だが、100件以上特許を保有する場合の実施率は41.1%しかない。
産業化率と専利保有率の相関関係も前記と同じ傾向を示している。1~2件の専利を保有する場合は産業化率が低く(40%以下)、100件以上専利を保有する専利権者の産業化率も40.4%しかなく、その間の件数の産業化率がもっとも高かった。3つの専利の種類別(特許、実用新案、意匠)の産業化率も明らかに類似した傾向を示している。
有効専利を一定数以上保有する専利権者では、専利の数が多ければ多いほど、未実施専利の割合が高くなる。専利を実施する以外に、このような専利権者は専利を利用して技術を蓄積し、商品基準を確立し、商品のイメージを形成し、宣伝効果を上げ、専利を利用して資本を交換したりまたは交渉カードにしたり、競争相手を押さえ込む又は封鎖するなど、比較的高いレベルの専利の使用方法を実施している。
企業の規模も専利実施率と一定の正比例の関係を有する。大型企業は専利を実施する意向がより強く、専利を実施できるリソースもより多く有しているため、大型企業の専利実施率は比較的高い。零細企業の有効の特許、実用新案及び意匠の実施率は50%~60%に集中し、その他の規模の企業の対応する専利類型の実施率よりも低い。
企業でみると、企業の意匠の産業化率は企業の規模と正比例の関係がある(企業規模が大きいほど、意匠の産業化率が高くなる)。発明と実用新案は前記の単峰型分布を表しており、中型企業の産業化率は、その他の大企業・零細企業より高い。
高等教育機関の有効専利の実施率は12.1%しかなく、企業の60%以上の実施率をはるかに下回っている。また、高等教育機関の有効専利の産業化率も3.3%しかなく、全国平均の46.0%をはるかに下回っている。専利の譲渡と許諾では、専利許諾率は3.3%(全国平均は8.1%)、専利の譲渡率は1.9%しかなく、全国平均の5.4%よりも低い。
三、零細企業の専利はリスクが高く、イノベーション成果の実用化が困難
中国では、専利は質権を設定できるが、零細企業は資金サポートを獲得する優利な地位になく、技術イノベーション成果を実用化するのは困難で、保有する専利が権利侵害に遭うリスクが高く、専利権を維持するのも困難である。調査結果によると、中国政府が企業に資金を援助する場合に明らかに「マタイ効果」があり、規模が大きい企業ほど、政府からの研究開発と出願の助成を受けやすい。
研究開発活動について中国政府から援助を受けた割合は、大型企業が50.9%、零細企業は35.7%である。保有している有効専利が政府から専利出願の助成を受けた割合は、大型企業が45.8%、小型企業が28.1%、零細企業は29.2%しかなく、大型企業と比べ、小型及び零細企業の専利は資本転換が困難で、実施及び産業化が難しい。ただし、これは、小型及び零細企業の専利に市場性がないことを意味しているのではなく、実際、企業規模が小さければ、資本に限りがあるため、技術革新の成果及び市場のニーズから外れて販路が見つからないという割合は小さくなる。
また、企業規模が小さければ小さいほど、有効な融資ルートに欠け、その後の産業化生産に必要な資金をサポートすることができず、または営業販売ルートを構築するコストが高すぎて負担できないという現象が顕著になる。全体から見ると、「他の市場主体による自己のイノベーションの模倣を効果的に阻止できない」という問題は、大型・小型・零細企業のいずれにとっても同じ悩みである。
零細企業の専利は権利侵害に遭うリスクが高く、企業が専利権を侵害された割合は19.5%であり、そのうち零細企業は24.5%で最も高い。企業規模が小さいほど、権利侵害にあった時に「措置をとらない」ことを選ぶ傾向にある。過半数の零細企業は権利侵害にあった時に、何も措置をとらなかったが、実際には措置を取ることを試みる努力はしたことがある。企業と中国政府が最も係り合う業務は行政法執行である。行政法執行では、零細企業が47.3%を占め、大形企業の40.6%よりも明らかに高い。小型・零細企業が措置をとらない理由は「苦情を出せるところがない」ことであり、小型・零細企業が専利権を維持する困難さがここから見て取れる。
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