2016年 中国における商標関連の
行政不服審査の典型的な2つの事例の分析
情報のソース:国家工商行政管理総局商標評審委員会法務通信総第69期(2017年4月)
中国国家工商行政管理総局商標評審委員会は2017年6月12日に2016年中国における商標関連の行政不服審査の典型的な6つの事例を発表した。関連業者及び国際商標の業務に従事する者の参考として、以下のとおり、うち2つの事例について分析を行った。
(一) 韓国の大韓民国恆通株式会社廈門代表処(駐在員事務所)が商標局の下した登録出願不受理決定を不服として行政不服審査を請求した事例
韓国の大韓民国恆通株式会社廈門代表処(以下、請求人という)は2016年6月14日に「posekin」について商標登録出願をするとともに、その出願人適格を証明するために外国(地区)企業常駐代表機構登記証を提出した。2016年7月5日及び7月7日に、商標局は『商標法実施条例』第十八条の規定により、商標登録出願の受理要件を満たさないことを理由として、当該商標登録出願を受理しない決定を下した。請求人は商標登録出願の出願人適格を有すると主張して、商標局の下した不受理決定の取消しを求めて工商総局に対し行政不服審査を請求した。
本件のポイントは、請求人が商標登録出願の出願人適格を有するか否かである。『商標法』第四条の規定によれば、商標登録出願の出願人適格は自然人、法人またはその他の組織であることである。また、商標登録出願の目的は生産・営業活動での使用において、その商品または役務の出所を区別させることができるようにすることにある。
工商総局は以下の三つの理由により、請求人が商標登録出願の出願人適格を有しないと認定した。
(1)『外国企業常駐代表機構登記管理条例』第二条「本条例にいう外国企業常駐代表機構(以下、代表機構という)とは、外国企業が本条例の規定に基づいて、中国国内で設立した当該外国企業の業務に関連する非営利活動に従事する事務機構のことをいう。代表機構は法人格を有しない。」の規定により、請求人は法人格を有しないと判断した。その理由は、請求人が出願人適格を有することを証明する文書として外国(地区)企業常駐代表機構登記証を提出したためである。
(2)最高人民裁判所による『「中華人民共和国民事訴訟法」の適用の若干問題に関する意見』第四十条には「民事訴訟法第四十九条に規定されたその他の組織とは、法律により設立され、一定の組織体制及び財産を有するが、法人格を有しない組織をいい、次に掲げるものを含む。(1)法律に基づき登記し営業許可証を取得した私営独資企業、パートナーシップ組織(2)法律に基づき登記し営業許可証を取得したパートナーシップ型の共同経営会社(3)法律に基づき中国の営業許可証を取得した中外合作経営企業(4)民政部門の登記許可を得て社会団体登記証を取得した社会団体(5)法律に基づき設立され、営業許可証を取得した支社等(6)中国人民銀行、各専門銀行が各地に設立した支社等(7)中国人民保険会社が各地に設立した支社等(8)登記許可を得て営業許可証を取得した郷鎮、町、村の経営する企業(9)本条に規定される条件を満たすその他の組織」と規定されている。請求人は、中国国内に設立された外国企業で、該企業の業務に関連する非営利活動に従事する事務機構であり、上記のその他の組織の規定を満たしていないため、その他の組織としての資格も備えていないという結論を導き出すことができる。
(3)『外国企業常駐代表機構登記管理条例』第十三条及び第十四条の規定により、代表機構は市場調査、展示、宣伝活動、連絡活動などに従事することができるが、生産・経営活動には従事できない。即ち、請求人は中国で生産・経営活動に従事してはならないことを意味している。
上記の理由により、工商総局は、請求人が自然人、法人またはその他の組織ではなく、生産・経営活動に従事してはならず、確かに商標登録出願の出願人適格を有していないため、商標局の下した不受理決定には法的根拠があり、不当ではないと認定し、商標局が下した元の登録出願不受理決定を維持した。
(二)北京唐人坊文化発展有限会社が商標局の下した異議申立不受理決定を不服として行政不服審査を請求した事例
商標局は総第1483期〔商標公告〕に登録第16140960号「唐娃娃」商標(以下、係争商標という)の初歩査定の公告をした。その法定の異議申立期間は2015年12月14日から2016年3月13日までであった。北京唐人坊文化発展有限会社(以下、異議申立人という)は2016年1月25日に商標局に係争商標に対する異議申立を行った。商標局は、審査の結果、『商標法』第三十三条及び『商標法実施条例』第二十六条の規定により、異議申立人は申立人適格を有していないと認定して、2016年3月9日に係争商標の異議申立に対し不受理とする決定を下した。異議申立人は2016年3月10日に当該案件の補充資料を提出し、その後2016年4月1日に、商標局が証拠補充期間の満了前に異議申立不受理の決定を下したことは、手続きが適法でないと主張して、商標局の異議申立不受理の決定の取消しを求めて行政総局に行政不服審査を請求した。
本件のポイントは、商標局の下した異議申立不受理の決定が適法か否か、適当か否かである。
『商標法』第三十三条により、初歩査定の公告をされた商標について、先行権利者、利害関係者は公告の日から3ヶ月以内に商標局に異議を申立てることができる。即ち、法定の異議申立期間(3ヶ月)というのは、異議申立の理由及び申立人適格の証明書類などを含む異議申立書類を提出することを異議申立人に対し要求する期間であるというだけではなく、同時に異議申立人が手続きの権利を享受する期間でもあるため、商標局はそれを保障しなければならない。ところが、実務上、商標局は異議申立人の最初に提出した異議申立資料を根拠として異議申立を受理するか否かを決定することが往々にしてある。商標局は、最初に提出された異議申立資料に基づいて不受理の決定をした後に、法定期間内に異議申立人が資料を補充した場合、当該補充資料が審査結果に対し実質的な影響を及ぼすものか否かを考慮し判断しなければならない。提出された補充資料が法律の規定を満たすものであれば、商標局は受理しなければならない。ただし、補充資料が受理条件を満たさない場合は、手続きに瑕疵があっても、異議申立人の権利に実質的な影響を及ぼさないため、商標局は前になした不受理の決定を維持することができる。
本件について、行政総局は審査の結果、商標局が法定の3ヶ月の異議申立期間満了前の3月9日に異議申立不受理の決定を下し、しかも3月10日に異議申立人が提出した補充資料を審査しなかったことは、手続きが適法ではなく、当該異議申立人の異議申立の権利に対し実質的な損害を与えたと認定して、2016年6月8日、商標局のした異議申立不受理の決定を取消した。
以上をまとめると、異議申立人の手続的、実体的権利を保障するために、商標局は3ヶ月の異議申立期間が満了してから、受理するか否かの決定を下さなければならない。異議申立人が期間内に申立人適格の要件を満たす証拠資料を提出した場合、最初の提出か、証拠補充としての提出かに関わらず、商標局はいずれも受理しなければならない。 |