中国 知的財産権事件の訴訟管轄
【出典:法制網】
中国では、近年、専利権、商標権、著作権などの知的財産権の出願件数が急速に成長しており、それに伴って訴訟案件の件数も著しく成長している。ここでは、中国の知識産権法院の審級管轄及び広域管轄の問題についてまとめた。
ü 審級管轄
全ての法院が第一審の知的財産権民事事件を審理できるわけではなく、『最高人民法院による地方各級人民法院の第一審知的財産権民事事件の管轄基準調整に関する通知』によると、高級人民法院、中級人民法院、最高法院が指定する基層法院と軍事法院のみが管轄権を有する。これらの法院の管轄基準については、下記の表を参照されたい。
下記の図1を見ると、特許の平均認容額が一番高く、これは実用新案の2.5倍、意匠の5.3倍である。しかしながら、請求額に対する認容額の割合(図2参照)を見ると、実用新案の請求額に対する認容額の割合は29.99%で一番高く、特許より4.75%も高く、意匠より14.69%も高い。
ü 特別地域管轄--北上広(北京・上海・広東)三大知識産権法院
Ø 立法経緯
n 2013年11月、『中共中央による改革の全面的深化における若干の重大問題に関する決定』で、知識産権法院の設立が検討された。
n 2014年6月、中央改革全面深化指導チームの第3回会議で、『知識産権法院の設立に関する方案』が審議・可決された。
n 2014年8月、第12期全国人民代表大会常務委員会第10回会議で、『北京、上海、広州における知識産権法院の設立に関する決定』が可決された。
n 2014年10月、最高法は、『最高人民法院による北京、上海、広州知識産権法院の事件管轄に関する規定』を公布した。
Ø 設立
n 2014年11月6日、北京知識産権法院が正式に設立。
n 2014年12月21日、広州知識産権法院が正式に事件を受理。
n 2015年1月1日、上海知識産権法院が正式に運営開始。
Ø 管轄
1. 知識産権法院は、所在する市の管轄区域内の下記第一審事件を管轄する。
①専利、植物新品種、集積回路配置図設計、ノウハウ、コンピュータソフトウェアの民事事件及び行政事件。
②国務院部門又は県級以上の地方人民政府がなした著作権、商標、不正競争などに係る行政行為に対して訴訟が提起された行政事件。
③馳名商標の認定に係る民事事件。
そのうち、広東省は広域的な管轄を実施し、広州知識産権法院は広東省内の①、③に規定された事件を管轄する。
2.当事者が、知識産権法院の所在する市の基層法院が下した第一審著作権、商標、技術契約、不正競争などの知的財産権の民事及び行政の判決、裁定に対して提起した上訴事件は、知識産権法院が審理する。
3. 北京知識産権法院の専属管轄範囲
主に下記の第一審権利付与、権利確定に係る事件。
①国務院部門の権利付与、権利確定に係る裁定又決定を不服とした知的財産権の権利付与、権利確定に係る行政事件。
②知的財産権の強制許諾に係る行政事件。
③知的財産権の権利付与、権利確定に係るその他の行政行為により生じた行政事件。
Ø 成果
北京知識産権法院は2014年11月に設立されてから、各種知的財産権事件2万件余りを受理し、1.3万件余りが結審した。2016年の一年間で、北京知識産権法院は、各種知的財産権事件の第一審事件を8,305件、第二審事件を2,330件、再審事件を3件受理した。
また、北京知識産権法院は、例えば、高通(Qualcomm)と魅族(Meizu:中国の電気機器メーカー)の独占禁止及び専利権侵害に係る一連の紛争、アップルと北京知的財産局の専利権侵害に係る行政処分紛争、「中国好声音」の商標権侵害及び不正競争に係る紛争などの難しく、複雑で、影響力のある事件の審理を担当している。
ü 知的財産権事件の広域管轄法廷
2016年10月、最高法院は知的財産権の広域管轄を拡大させ、2017年3月までに、南京、蘇州、成都、武漢の四地域に知的財産権事件の広域管轄法廷を設立するよう求めた。
1月9日に、四川省全省の知的財産権の民事事件及び行政事件などを受理する成都知識財産権審判廷が正式に運営を開始した。
Ø 1月19日に、南京、蘇州知識財産権法廷が正式に設立された。
南京知識財産権法廷:南京、鎮江、揚州、泰州、塩城、淮安、宿遷、徐州、連雲港市の管轄区域内で発生した専利などの技術関連第一審知的財産権の民事事件を審理する。
蘇州知識財産権法廷:蘇州、無錫、常州、南通市の管轄区域内で発生した専利などの技術関連の第一審知的財産権の民事事件を審理する。
このほか、南京、蘇州知識財産権法廷は、上記各市の管轄区域内で起こった訴訟対象額300万人民元以上の第一審の一般的な知的財産権の民事事件及び上記各市の管轄区域内で発生した第一審知的財産権行政事件なども審理する。 |