上海 知識産権の専門化審判
新メカニズムが試行
【出典:国家知識産権局ウェブサイト】
2015年12月28日、上海知識産権法院は設立1周年を迎えた。この一年、技術の集結力を高め、影響力のある知識産権事件を取り扱っただけでなく、審判の合理化、革新についても取り組んだ。
上海知識産権法院は、「専門化した審判」を最高指導原則として定めて、「上海知識産権法院発展計画(2015-2017)」(以下、「計画」)を発表し、上海知識産権法院を、「専門化、国際化、権威性、影響力」を発展目標とした新興法院にすることを明確に打ち出した。
専門審判の新たな枠組みを構築し、知識産権事件の専門化した訴訟手続き及び審理規則を制定し、技術的事実の究明メカニズムをさらに整備し、訴訟と裁判外紛争解決とをコネクトさせるために、上海知識産権法院は、「2+1」審判モデルを試行し、「四位一体」の技術的事実の調査認定体系を構築することを決定した。
一、「2+1」審判モデル
目下、上海知識産権法院の裁判官は、上海市高級人民法院により上海市三級法院から公開選抜、選別採用され、知識産権事件の審判経験はいずれも8年以上である。但し、12名の裁判官は異なる法院から選ばれているため、審判の統一見解という問題を解決するために、上海知的産権法院は、従前の地域管轄分業に基づかず、「専門化した分業」を新たに採用し、各審判庭/合議庭間の法律適用の統一性を確保することを決めた。
「計画」によると、上海知識産権法院は、事件種類を分類基準とし、第一庭は主に専利、著作権及び独占禁止事件の審理を担当し、第二庭は植物新品種、集積回路配置図設計、ノウハウ、コンピュータソフトウェア、商標、不正競争、馳名商標認定事件の審理を担当することに改めた。
全国人民代表大会常務委員会の「北京、上海、広州における知的産権法院設立に関する決定」によると、上海知識産権法院は、知識産権に関する民事及び行政事件のみを受理するとある。知識産権の民事、刑事及び行政事件の裁判見解の統一性を確保し、知識産権の司法保護力を強化するため、2015年12月22日、上海市第三中級人民法院(以下、上海三中院)は初めて知識産権刑事事件を受理した。上海三中院は上海知識産権法院と「ボーダーレス」合議庭を組織し、知識産権審判庭の裁判官が知識産権刑事事件の審理に参加した。
詳しく述べると、上海知識産権法院は、共同で執務する特殊組織機構を利用して、「2+1」モデルにより、即ち上海知識産権法院が知識産権の民事事件、行政事件を受理し、上海三中院が知識産権刑事事件を受理することにより間接的に知的財産権事件の集中審判の実現を目指す。これは北京、広州の知識産権法院に比べ上海知識産権法院が有する独特の利点である。
上海知識産権法院は、更に自由貿易区における事件の発展傾向及び特徴に基づき、自由貿易区事件の専門合議庭設立を目指すとともに、専利、コンピュータソフトウェア等、科学技術イノベーションと密接に関連する事件種類の特徴に基づき、これに対応する専門合議庭の運営メカニズムを研究し、更に専門化した審判の整備をする。
二、「四位一体」の技術的事実の調査認定体系
上海知識産権法院は設立以来、知的産権の審判に関する専門「シンクタンク」を設置し、18名の科学技術専門家と、18名の知識産権コンサルタントを専門陪審員として特別に招聘し、受理した知識産権の民事、行政一審、二審事件は計1,586件で、996件が結審した。受理した事件の内訳は、専利事件が429件、商標事件が111件、著作権事件が894件、不正競争事件が32件、植物新品種及び集積回路配置図設計等その他の事件が120件となっている。これらの知識産権事件のうち、専利、ノウハウ及びコンピュータソフトウェアの開発に関連した事件は一審事件の92%を占めている。これら技術関連事件は事実究明が非常に困難なため、「四位一体」の技術的事実究明手段を運用する必要があり、この手段の運用によってはじめて、より専門的で、公正な裁判が確保される。
いわゆる「四位一体」の技術的事実の調査認定体系は、技術鑑定、技術調査、技術コンサルタント及び専門家陪審等の四種類の異なる主体を含み、メカニズムにより互いに組み合わさり、それぞれの役割分担及び作業メカニズムに基づいて、一体化した技術的事実の調査認定体系を作り上げている。将来、複雑な技術的事実の認定に関わる事件は、事件のニーズに応じていくつかの措置を採用する、つまり、一つの事件において技術鑑定、調査、コンサルタント及び専門家陪審の様々な組み合わせ措置を採用することで、知的産権事件の中で特に困難な技術的事実の究明問題を解決する。
「計画」によれば、技術調査官が事件の調査処理に参加するにあたっての対応規則を既に発表しており、次のステップで、技術調査官の運用メカニズムを積極的に構築して、技術的事実の認定の客観性、正確性及び効率を向上させる。
三、専門化した能力の強化
上海知識産権法院は、専門化した審判の枠組みを計画したり、専門化した審判のメカニズムを構築したりするほかに、専門化した法律制度の構築を強化することも計画している。次に「全国審判業務専門家陳恵珍裁判官執務室」は毎月26日に上海市張江園区の執務室を一般に開放し、その際、上海知識産権法院第二庭庭長の陳恵珍が法律上のアドバイスを提供する予定である。将来的には、園区内でセミナー、巡回調停を実施したいとしている。
最後に、知識産権審判の権威性及び公信力を強化するために、社会的資源の参加により矛盾を解消することも計画している。上海知識産権法院は、上海経済貿易商事調停センター等7つの社会機構と既に「多様化紛争解決メカニズム協力協定」を結ぶとともに、同済大学とも提携して、知的財産審判公信力の評価プロジェクトを開始することで、上海知識産権法院の専門化した審判の能力向上を促進させる。 |