北京知的財産法院が技術調査官を配置
2015年10月22日、中国の北京知的財産法院は「技術調査室設立会議」を開催し、最初に任命された37名の技術調査官及び27名の技術専門家の名簿を発表した。これまで、中国は「技術調査官」を配置しておらず、訴訟の当事者双方がそれぞれ専門家を、訴訟代理人の関連意見陳述をサポートする補助員として雇って、関連意見を述べていたが、ハイエンドテクノロジーの困難な問題を解決することができず、また効率もよくなかった。したがって、北京知的財産法院は、日本、韓国、台湾の知的財産裁判所における「技術審査官」制度を参考にして、「技術調査室」を開設し、「司法補助員」として訴訟に参加するための「技術調査官」を配置することにした。
2014年8月31日の第12期全人代常務委員会第10回会議で、北京、上海、広州に知的財産法院が設置することが可決され(法釈[2014]12号)、2014年11月3日から実施されることになった。北京知的財産法院は、2014年11月6日に運営を開始した最初の知的財産法院であり、従前に北京市の各中級人民法院が管轄していた民事及び行政事件を集中的に管轄し、主に知的財産事件を審理し、知的財産権に関連した民事事件も審理する。当該法院は、一審法院でもあり二審法院でもあり、また初審法院でもあり上訴法院でもある。そのため、案件数は非常に多く、案件の難度も高い。
「最高人民法院による北京、上海、広州知的財産法院の事件管轄に関する規定」によれば、北京知的財産法院が審理するのは、所在市の管轄区域内における次に掲げる第一審事件である。
(一)専利、植物新品種、集積回路配置設計、ノウハウ、コンピュータソフトウェアに関する民事及び行政事件
(二)国務院部門又は県級以上の地方人民政府が行った著作権、商標、不正競争等に関する行政行為に対して訴訟を提起した行政事件
(三)馳名商標の認定に関する民事事件
また、次に掲げる行政事件の第一審も北京知的財産法院が管轄する。
(一)国務院部門が行った専利、商標、植物新品種、集積回路配置設計など知的財産権の権利付与、権利確認に関する裁定又は決定に不服があるもの
(二)国務院部門が行った専利、植物新品種、集積回路配置設計の強制実施権許諾の決定及び強制実施権の許諾使用料又は報酬の裁決に不服があるもの
(三)国務院部門が行った知的財産権の権利付与、権利確認に関するその他の行政行為に不服があるもの
当事者が知的財産法院の所在地の基層人民法院の行った第一審の著作権、商標、技術契約、不正競争などの知的財産権の民事及び行政判決、裁定に対し提起した上訴事件についても、知的財産法院が審理する。
これら知的財産事件の審理過程において遭遇する各種専門技術の問題に対し、知的財産裁判官は、一般的に関連の専門技術のバックグラウンドがないが、これらの技術問題は、裁判の鍵であるだけでなく、技術的事実を確定するにあたっての難点でもある。これらの問題を解決するため、台湾では「技術審査官」が知的財産法院の裁判官に協力することで技術的な問題点をクリアにしている。北京知的法院も、事件審理のさらなる効率化を図って、類似の制度を設立し、「技術調査官」を配置して訴訟に参加させることで、技術的な争点を正確に整理し、裁判官が当事者の意見を引き出すサポートとなるようにした。
台湾の知的財産法院の技術審査官の導入方法として、最初は知的財産局からシニア審査官が技術審査官(以下、「技審官」)として出向し、知的財産コンサルタントリストと合わせて、裁判官の参考に供されていた。技審官は裁判官の任命により訴訟に参加し且つ質問をし、当事者は技審官に対して行う説明を裁判所へ意見陳述することができ、裁判官が法的確信に基づき独立して審判を行っていた。しかしながら、外部からは技審官に対し疑念が生じていた。理由としては、技術報告が公開されず、また知的財産局で審査に参加していた審査官が知的財産法院に出向して技審官を務めた後にまた同一案件を審理することは、当事者の審級の利益を害する虞があることである。しかし、2008年から台湾では契約技審官の採用方法を公布し、審査官のほかに、一定以上勤務している各級教授、研究員、又は、国内外の珍しい特殊技術若しくは研究専門知識を有し且つ証明を有する者、又は専利師業に従事して3年以上で特許出願の取扱いが20件以上の者も、証明書を提出して契約技審官に応募することができるようにして、技審官の供給元の多様化を図った。
北京知的財産法院の最初の技術調査官はそれぞれ、知的財産局北京特許審査協力センター、業界団体、大学(大学院等を含む)、研究機関、企業や事業団体の専門技術者からなる。その役割は知的財産裁判官の「技術相談員」であり、これは台湾の技術審査官の役割とほとんど同じである。技術調査官は、在籍、雇用、交流、兼職の4種類あり、規範強化のために、「北京知的財産法院技術調査官管理弁法(施行)」及び「北京知的財産法院技術調査官就業規則(施行)」を制定した。台湾では、利益衝突を避けるため、交流、兼職の技審官を採用していない。
技術調査官のほか、台湾知的財産法院と北京知的財産法院はいずれも同時に専門家の補助、司法鑑定、専門家のコンサルティングなどその他のメカニズムでもって、裁判官の技術的問題の解決の補助としている。このほか、両岸ともに、技審官/技術調査官は、審理効率を上げるために、裁判官が複雑な技術に関する事件の専門技術用語と審理の脈絡を理解するのを補助するという裁判官の技術補助に過ぎず、事件の最終的な裁決者は裁判官であることを強調している。 |