中国 改正行政訴訟法が2015年5月1日から発効
中国の「全国人民代表大会常務委員会による『中華人民共和国行政訴訟法』の改正に関する決定」が第十二期全国人民代表大会常務委員会第十一回会議で2014年11月1日に採択された。該新法(以下、「新行政訴訟法」)は2015年5月1日から施行される。改正のポイントとその新旧条文対照表は以下のとおり。
一、「行政行為」と「行政上の不法行為の主体」の範囲を拡大:
新法第2条(第2項を増設)
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旧条文
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2. 前項にいう行政行為には、法律、法規、規則により権限を付与された組織が行う行政行為が含まれる。
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公民、法人又はその他の組織は、行政機関及び行政機関の職員の具体的な行政行為がその適法な権益を侵害したと認めるとき、本法により人民法院に訴訟を提起する権利を有する。
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二、行政の首長が出廷して応訴することを明確に規定し、当事者の訴訟権利に対する保護を強化して、行政事件の確実な解決に役立てる:
新法第3条(第3項を増設)
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旧条文
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3. 訴えられた行政機関の責任者は出廷して応訴しなければならない。出廷できない場合には、行政機関の関連業務の職員に出廷を委任しなければならない。
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1. 人民法院は、公民、法人及びその他の組織の訴訟を提起する権利を保障しなければならず、受理すべき行政事件は法律により受理する。
2. 行政機関及びその職員は、人民法院の行政事件受理について干渉し、妨害してはならない。
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三、司法権による審査の範囲を広げ、利害関係の内容を「人身権、財産権」から「人身権、財産権などの適法な権益」に拡大するとともに、その他の社会的権利、例えば社会保障権、公正競争権などの保護を強化する。今後、競争を排除又は制限する行為、行政契約に係る紛争も提訴できる範囲に入れることが可能となる:
新法第12条(8、11、12の3号を増設)
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旧条文第11条
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(8) 行政機関が行政権力を濫用して競争を排除又は制限したと認められるとき
(11) 行政機関が、政府コンセッション協議、土地家屋収用補償に関する協定等の協定を法律により履行せず、約定に従って履行せず又は違法に変更、解除したと認められるとき
(12) 行政機関がその他の人身権、財産権などの適法な権益を侵害したと認められるとき
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人民法院は公民、法人又はその他の組織が提起した次に掲げる訴訟を受理する。
(…省略)
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四、中級人民法院の管轄範囲を調整し且つ区域を跨いだ広域管轄を許可する:
新法第15条
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旧条文第14条
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中級人民法院は、次に掲げる第一審行政事件を管轄する。
1. 国務院の部門又は県級以上の地方人民政府がなした行政行為に対して訴訟を提起した事件
2. 税関処理に係る事件
3. 所管区域内における重大で、複雑な事件
4. その他法律で規定された中級人民法院の管轄する事件
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中級人民法院は、次に掲げる第一審行政事件を管轄する。
1. 特許権の確認に係る事件、税関処理に係る事件
2. 国務院の各部門又は省、自治区、直轄市の人民政府がなした具体的な行政行為に対して訴訟を提起した事件
3. 所轄区域内における重大で、複雑な事件
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第6条を増設
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高級人民法院は、最高人民法院の許可を経て、審判業務の実際の状況に応じて、若干の人民法院が行政区域を跨いで行政事件を管轄することを決定することができる。
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五、行政事件訴訟の被告の規定を調整して、被告を明確に区分し、原告が行政行為の被告を確定しやすいものにする:
新法 第26条第2、5、6号を改正
第3号を増設
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旧条文第25条第2号の規定
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2. 不服審査を経た事件について、不服審査機関が元の行政行為を維持する決定を下した場合、元の行政行為をなした行政機関と不服審査機関を共同被告とする。不服審査機関が元の行政行為を変更した場合、不服審査機関を被告とする。
3. 不服審査機関が法定期間内に不服審査の決定を下さず、公民、法人又はその他の組織が元の行政行為について訴訟を提起した場合、元の行政行為をなした行政機関が被告となる。不服審査機関の不作為について訴訟を提起した場合は、不服審査機関を被告とする。
5. 行政機関に委任された組織がなした行政行為については、委任した行政機関を被告とする。
6. 行政機関が廃止された又は職権が変更された場合、その職権を継続して行使する行政機関を被告とする。
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不服審査を経た事件について、不服審査機関が元の具体的な行政行為を維持する決定を下した場合、元の具体的な行政行為をなした行政機関を被告とする。
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六、行政訴訟の原告には「行政行為の利害関係人」を含むことを明確に規定して、原告が行政行為の相手方だけでなく、その他の行政行為と利害関係のある公民、法人及びその他の組織も含むように拡充する:
新法第25条
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旧条文第24条
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1. 行政行為の相手方及びその他の行政行為と利害関係のある公民、法人又はその他の組織は、訴訟を提起する権利を有する。
(第2、3項は改正なし、省略)
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1. 法律により訴訟を提起する公民、法人又はその他の組織を原告とする。
2. 訴訟を提起する権利を有する公民が死亡した場合には、その近親者が訴訟を提起することができる。
3. 訴訟を提起する権利を有する法人又はその他組織が存在しなくなった場合には、その権利を承継する法人又はその他の組織が訴訟を提起することができる。
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七、出訴期間を元の3ヶ月から6か月に延長することで、公民、法人及びその他の社会組織が自らの適法な権益を保護しやすくなる:
新法第46条
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旧条文第39条
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公民、法人又はその他の組織が直接人民法院に訴訟を提起する場合、行政行為がなされたことを知った日又は知るはずの日から6か月以内に提起しなければならない。
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公民、法人又はその他の組織が直接人民法院に訴訟を提起する場合、具体的な行政行為がなされたことを知った日から3ヶ月以内に提起しなければならない。
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八、知的財産権と直接関連のある条文について、新法では旧条文第54条を第69条、第70条、第72条、第77条に改正し、「維持判決」というこの種の判決形式を正式に削除した。旧法では知的財産権の行政事件における権利確認等に関する事件について、一審の判決書では、通常「XX部門の…審査決定を維持する」という判決形式を用いたが、新法では第69条の規定に基づき直接「棄却判決」とすることができる:
第69条
行政行為の証拠が確かで、法律、法規の適用が正確であり、法定手続に合致している場合、又は原告による被告に対する法的職責若しくは給付義務の履行の請求理由が成立しない場合、人民法院は原告の請求を棄却する判決を下す。
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第70条
行政行為が次に掲げる事情のいずれかに該当する場合、人民法院は取消又は一部取消の判決を下とともに、被告に対し行政行為を改めて行うよう判決を下すことができる。
(一)主な証拠が不足しているとき
(二)法律、法規の適用に誤りがあるとき
(三)法定手続に違反したとき
(四)職権を超えたとき
(五)職権を濫用したとき
(六)明らかに不適切であるとき
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第72条
人民法院は、審理を経て、被告が法定職責を履行していないことが判明した場合、被告に対し一定期限内に履行するよう判決を下す。
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第74条
行政行為が次に掲げる事情のいずれかに該当する場合、人民法院は、違法であることを確認する旨の判決を下すが、行政行為は取り消さない。
(一)行政行為は法律により取消さなければならないが、取消すことによって国家の利益、社会の公共利益に重大な損害を与える場合
(二)行政行為手続きが軽微な違法であり、原告の権利に対し実際的な影響を与えない場合
行政行為が次に掲げる事情のいずれかに該当し、取消す必要がない又は履行の判決を下す必要がない場合、人民法院は、違法を確認する判決を下す。
(一)行政行為が違法であるが、取消すことのできる内容を有しない場合
(二)被告が元の違法な行政行為を変更したが、原告が依然として元の行政行為の違法確認を請求する場合
(三)被告が法定職責を履行しない又は履行を遅延し、履行の判決を下しても意味がない場合
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旧法でも一部特殊な状況において、法院が「請求を棄却する」判決を下すことがあった。例えば、商標の権利確認等の行政事件で、法院が商標評審委員会の出した結論が正しいことを発見した場合、判決では同時に商標法第30条及び第31条を引用すべきところ、第30条のみを引用するといった法律の適用において瑕疵が存在し、この時依然として「維持判決」を用いると明らかに不適当となるため、法院は「訴えを棄却する」との判決を下していた。ただし、その根拠となるのは2000年最高人民法院による行訴法に関する司法解釈第56条第4項である。新たな行政訴訟法が実施された後は、法院は直接、行訴法第69条により「訴えを棄却する」判決を下すことができる。
新法により「訴えを棄却する」判決を下す意義は、過去の行政機関の羈束的行政モデルを打破し、伝統的、受動的な「XX部門の…審査決定を維持する」から自発的な「原告の請求を棄却する」に改めることにある。このほか、中国はこれまでずっと行政権が優位で司法権の独立中立が不十分であると非難され、過去の司法権はずっと行政権を保護する道具とされてきたが、今後は変化が出てくる可能性がある。
また、知的財産権事件に係る行政行為の多くは行政裁量であり、主務官庁は具体的情況によって出願人に特許請求の範囲、明細書又は図面を補正するよう要求し、さらには職権により補正する。しかしながら、事件が一旦法院に移ると、法院が「維持判決」を用いることで、行政機関が将来誤りを発見し自ら補正する機会が断たれる可能性があり、法院が「原告の請求を棄却する」という方法を取れば、行政機関は自ら補正できる可能性がある。結論は同じであるが、法院の判決方法によって、異なる効果が生じるのである。
最後に、「維持判決」の適用範囲及び条件は比較的厳しく、「原告の請求を棄却する」は、原告の主張する理由が不成立であればよい。そのため、将来司法権が知的財産権事件においてより発揮できる可能性がある。
2015年4月22日、最高人民法院は新たな行政訴訟法実施に伴い、「中華人民共和国行政訴訟法」の適用における若干問題に関する解釈(以下、「解釈」)を発表した。その内容は以下のとおりである。
1.解釈では、当事者の法律に基づいて提起された訴訟に関し、訴訟要件を十分に満たすと判断されるものについては、その場で立件し、その場で判断できないものは、訴状を受け取ってから7日以内に立件するか否かを決定しなければならない。7日以内に判断ができない場合は、先ず立件しなければならない、と規定している。
2.解釈では、行政訴訟の「具体的な訴訟上の請求を有する」という9つの状況を満たすことを明確に規定している。それは以下のとおりである。
(1) 行政行為の取消又は変更請求
(2) 行政機関の法定職責又は給付義務の履行請求
(3) 行政行為の違法確認請求
(4) 行政行為の無効確認請求
(5) 行政機関の賠償又は補償支払請求
(6) 行政協議に係る紛争解決請求
(7) 規則以下の規範的文書の併合審査請求
(8) 関連する民事紛争の併合解決請求
(9) その他請求の要件を満たす状況
3.解釈では再度、不服審査機関が元の行政行為を維持する決定を下した場合の被告を、元の行政行為をなした行政機関と不服審査機関とし、原告が元の行政行為をなした行政機関又は不服審査機関のみを提訴した場合、人民法院は原告に被告を追加するよう通知しなければならず、原告が追加に同意しない場合でも、人民法院はもう一方の機関を共同被告に入れるべきである、と明確に規定している。なお、元の行政行為をなした行政機関と不服審査機関が共同被告である場合、元の行政行為をなした行政機関に基づいて事件の管轄等級を決定する。
4.解釈では、当事者は、調停における民事権益の処分を、訴えられた行政行為の合法性の判断根拠としてはならない、と規定している。なお、行政訴訟において関連する民事紛争を併合審理する場合、民事紛争は単独で立件しなければならない。ただし、行政機関が民事紛争に対し下した裁決を審理するために民事紛争を併合審理する場合には、別途立件しない。
5.解釈では、2015年5月1日より前において出訴期間がまだ満了してない場合及び2015年5月1日より前において法的効力が生じる判決、裁定又は行政賠償調停書を不服とした不服申し立て、又は法院が審判監督手続きに従って再審査をする場合には、改正後の行政訴訟法の出訴期間に関する規定を適用し、2015年5月1日より前において審理が終了していない事件については、改正前の行政訴訟法の審理期間に関する規定を適用し、既に完了した手続き事項については、依然として有効である、と規定している。
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