中国 知的財産権濫用による競争の排除、制限行為の禁止に関する規定を公布
【出典:工商行政管理総局ウェブサイト】
「知的財産権濫用による競争の排除、制限行為の禁止に関する規定」は国家工商行政管理総局局務会議の審議を経て可決されたので、ここに公布し、2015年8月1日から施行する。
(2015年4月7日国家工商行政管理総局令第74号 公布)
知的財産権濫用による競争の排除、制限行為の禁止に関する規定
第一条
市場の公平な競争を保護し、イノベーションを奨励し、事業者の知的財産濫用による競争の排除、制限行為を阻止するため、「中華人民共和国独占禁止法」(以下、「独占禁止法」)に基づいて、本規定を制定する。
第二条
独占禁止と知的財産権保護は、競争とイノベーションを促進し、経済運営の効率を高め、消費者の利益と社会の公共利益を保護するという共通の目標を有する。
事業者の知的財産権に関する法律、行政法規の規定に基づいた知的財産権行使行為については、「独占禁止法」を適用しない。ただし、事業者の知的財産権濫用による競争の排除、制限行為については、「独占禁止法」を適用する。
第三条
本規定における知的財産権濫用による競争の排除、制限行為とは、事業者が「独占禁止法」の規定に違反して知的財産権を行使し、独占的協定を行い、市場支配地位を濫用するなどの独占的行為(価格独占行為を除く)をいう。
本規定における関連市場とは、関連の商品市場及び関連の地域市場を含み、「独占禁止法」及び「国務院独占禁止委員会による関連市場の定義に関するガイドライン」に基づいて定義し、且つ知的財産権、イノベーション等の要素の影響を考慮したものである。知的財産権許諾などに係る独占禁止法の法執行業務において、関連の商品市場は技術市場であってもよく、特定の知的財産権を含む製品市場であってもよい。関連の技術市場とは、知的財産権行使に係る技術と、相互に置き換え可能な類似の技術との間の相互競争から構成される市場をいう。
第四条
事業者間で、知的財産権を行使する方法で「独占禁止法」第十三条、第十四条に禁止されている独占的協定を締結してはならない。ただし、事業者が、締結した協定が「独占禁止法」第十五条の規定を満たしていることを証明できる場合を除く。
第五条
事業者の知的財産権行使行為が、次に掲げるいずれかの事情に該当する場合、「独占禁止法」第十三条第一項第六号及び第十四条第三項に禁止されている独占的協定と認定しないことができる。ただし、当該協定が競争の排除、制限効果を有することを証明する反対証拠がある場合を除く。
(一)競争関係にある事業者の、その行為の影響を受ける関連市場における市場占有率の合計が20%を超えない、又は関連市場において合理的なコストにより得られる当該事業者のコントロールを受けないその他の代替技術が少なくとも4つある
(二)事業者と取引相手の関連市場における市場占有率がいずれも30%を超えない、又は関連市場において合理的なコストにより得られる当該事業者のコントロールを受けないその他の代替技術が少なくとも2つある
第六条
市場支配的地位を有する事業者は、知的財産権行使の過程において市場支配的地位を濫用して競争を排除、制限してはならない。
市場支配的地位は、「独占禁止法」第十八条及び第十九条の規定に基づいて認定及び推定する。事業者が知的財産権を有することは、その市場支配的地位を認定する要素の一つとなり得るが、事業者が知的財産権を有することだけをもって、その関連市場における市場支配的地位を有すると推定することはできない。
第七条
市場支配的地位を有する事業者は、正当な理由なく、その知的財産権が生産事業活動において必須要素である情況下で、その他の事業者の合理的な条件に基づく当該知的財産権の使用の許諾を拒絶して、競争を排除、制限してはならない。
前項の行為を認定する際には、同時に次に掲げる要素を考慮しなければならない。
(一)当該知的財産権は関連市場において適正に代替することができず、その他の事業者が関連市場の競争に参入するために必須のものである
(二)当該知的財産権の許諾を拒絶することが、関連市場の競争又はイノベーションに不利な影響を及ぼし、消費者の利益や公共の利益を害する
(三)当該知的財産権の許諾は、当該事業者に対し不合理な損害をもたらさない
第八条
市場支配的地位を有する事業者は、正当な理由なく、知的財産権行使の過程において次に掲げる取引制限行為を行って、競争を排除、制限してはならない。
(一)取引相手が当該事業者とのみ取引するよう制限すること
(二)取引相手が当該事業者の指定する事業者とのみ取引するよう制限すること
第九条
市場支配地位を有する事業者は、正当な理由なく、知的財産権行使の過程において同時に次に掲げる条件に該当する抱き合わせ販売行為を行って競争を排除、制限してはならない。
(一)取引慣例、消費習慣などに反する又は商品の機能を無視して、異なる商品を強制的にたばね売りし又は組合せて販売すること
(二)抱き合わせ販売行為を行うことで、当該事業者の抱き合わせ販売品市場の支配的地位を被抱き合わせ販売品市場にまで拡張し、その他の事業者の抱き合わせ販売品又は被抱き合わせ販売品市場における競争を排除、制限すること
第十条
市場支配的地位を有する事業者は、正当な理由なく、知的財産権行使の過程において、次に掲げる不合理な制限条件を付加する行為を行って、競争を排除、制限してはならない。
(一)取引相手に、その改良した技術の独占的グラントバックを要求すること
(二)取引相手がその知的財産権の有効性について疑義を申し出ることを禁止すること
(三)取引相手が許諾協定期間満了後に、知的財産権を侵害しない状況において、競合する商品又は技術を利用することを制限すること
(四)保護期間が既に満了となった又は無効と認定された知的財産権について、引き続き権利を行使すること
(五)取引相手が第三者と取引を行うことを禁止すること
(六)取引相手に対し、その他の不合理な制限条件を付加すること
第十一条
市場支配的地位を有する事業者は、正当な理由なく、知的財産権行使の過程において、条件の同じ取引相手に対して差別的待遇を行って、競争を排除、制限してはならない。
第十二条
事業者は、知的財産権行使の過程において、パテントプールを利用して、競争を排除、制限する行為を行ってはならない。
パテントプールの構成員は、パテントプールを利用して、生産量、市場分割などの競争に関する機密情報を交換して、「独占禁止法」第十三条、第十四条に禁止されている独占的協定を締結してはならない。ただし、事業者が締結した協定が「独占禁止法」第十五条の規定を満たすことを証明できる場合を除く。
市場支配的地位を有するパテントプール管理組織は、正当な理由なく、パテントプールを利用して次に掲げる市場支配的地位を濫用する行為を行って、競争を排除、制限してはならない。
(一)パテントプールの構成員がパテントプール以外で、独立した許諾者として特許を許諾することを制限すること
(二)パテントプール構成員又は被許諾者が、単独で又は第三者と共同でパテントプールの特許と競合する技術を研究開発することを制限すること
(三)被許諾者に、その改良した又は研究開発した技術を独占的にパテントプール管理組織又はパテントプールの構成員にグラントバックするよう強制すること
(四)被許諾者がパテントプールの特許の有効性に疑義を持つことを禁止すること
(五)条件が同じパテントプールの構成員又は同一関連市場の被許諾者に対し取引条件において差別的待遇を行うこと
(六)国家工商行政管理総局が認定したその他の市場支配的地位濫用行為
本規定におけるパテントプールとは、2又は2以上の特許権者がある種の形式により各自の所有する特許を共同で第三者に許諾する協定措置をいう。その様態は、この目的のために設立された専門の合弁会社であっても、パテントプールのある構成員又は独立した第三者に管理を委託するものであってもよい。
第十三条
事業者は、知的財産権行使の過程において、標準(国家技術規範の強制的要求を含む。以下同じ。)の制定及び実施を利用して、競争を排除、制限する行為を行ってはならない。
市場支配的地位を有する事業者は、正当な理由なく、標準の制定及び実施過程において、次に掲げる競争を排除、制限する行為を行ってはならない。
(一)標準制定に参加する過程において、故意に標準制定組織にその権利情報を開示せず、又は、明確にその権利を放棄したにも拘らず、ある標準が当該特許に関連したときに当該標準の実施者に対しその特許権を主張すること
(二)その特許が標準必須特許となった後、公正、合理的且つ非差別の原則に反し、許諾を拒絶し、商品を抱合せ販売し、又は取引時にその他の不合理な取引条件を付加するなどして、競争を排除、制限する行為を行うこと
本規定における標準必須特許とは、当該標準の実施に必要不可欠な特許をいう。
第十四条
事業者に、知的財産権の濫用による競争の排除、制限行為の疑いがある場合、工商行政管理機関は「独占禁止法」及び「工商行政管理機関による独占的協定、市場支配的地位濫用事件の取締り手続きに関する規定」に基づき調査を行う。
第十五条
事業者の知的財産権濫用による競争の排除、制限行為の疑いに対する分析、認定について、次に掲げる手順を取ることができる。
(一)事業者の知的財産権行使行為の性質及び様態を特定する
(二)知的財産権を行使する事業者間の相互関係の性質を特定する
(三)知的財産権の行使に係る関連市場を定義する
(四)知的財産権を行使する事業者の市場地位を認定する
(五)事業者の知的財産権行使行為の、関連市場における競争への影響を分析する
事業者間の相互関係の分析、認定には、知的財産権を行使する行為自体の特性を考慮する必要がある。知的財産権の許諾に関係する場合において、元々競争関係にある事業者同士は、許諾契約においては取引関係であるが、許諾者と被許諾者がともに当該知的財産権を利用して生産する製品市場においては、競争関係となる。ただし、当事者同士が許諾協定締結時には競争関係にはなく、協定締結後に競争関係が生じた場合、原協定に実質的な変更が生じない限り、競争者間の協定とはみなされない。
第十六条
事業者の知的財産権行使行為の、関連市場における競争への影響を分析、認定する際には、次に掲げる要素を考慮しなければならない。
(一)事業者と取引相手の市場地位
(二)関連市場の市場集中度
(三)関連市場への参入難易度
(四)産業慣例と産業の発展段階
(五)生産量、地域、消費者などの方面において制限を行った期間及び効力の範囲
(六)イノベーション促進及び技術普及に対する影響
(七)事業者のイノベーション能力と技術変化の速度
(八)知的財産権行使行為の競争への影響認定に係るその他の要素
第十七条
事業者の知的財産権濫用による競争の排除、制限行為が独占的協定に該当する場合、工商行政管理機関は、違法行為の差し止めを命じ、違法所得を没収し、前年度の売上高の1%以上10%以下の罰金を併科する。合意した独占的協定を実施していない場合は、50万元以下の罰金に処することができる。
事業者の知的財産権濫用による競争の排除、制限行為が市場支配的地位濫用に該当する場合、工商行政管理機関は、違法行為の差し止めを命じ、違法所得を没収し、前年度の売上高の1%以上10%以下の罰金を併科する。
工商行政管理機関は、具体的な罰金額を決定するとき、違法行為の性質、情状、程度、持続期間などの要素を考慮しなければならない。
第十八条
本規定の解釈は、国家工商行政管理局が責任を負う。
第十九条
本規定は、2015年8月1日から施行する。 |