広東省高等裁判所が一審で奇虎に500万人民元の損害賠償金支払いの判決
広東省高等裁判所は2013年4月25日、「騰訊(インターネットメッセンジャーソフト-Tencent QQの提供会社)」と「奇虎360(全名:Qihoo 360 Technology、インターネットセキュリティソフトの提供会社)」の不正競争事件の一審判決を下した。判決では、奇虎が不正競争法に違反したと認められ、奇虎に対して、騰訊に経済損失及び合理的な権利維持費として500万元を支払い、かつ奇虎360の公式ウェブサイト及び関連メディアへ謝罪広告を記載することが命じられた。該事件は中国国内のインターネット分野における不正競争紛争事件では損害賠償額が最高の事件例である。
事件の事実概要:
1. 騰訊QQは中国国内で最も普及している無料通信ソフトで、1999年2月から利用が開始され、中国国内の個人向けパソコンの通信市場においてはトップに位置している。しかし、騰訊QQのユーザーからは、QQがユーザーのハードディスク上のQQのプログラムとは関係のないソフトやユーザーの個人資料をスキャンし、ユーザーのプライバシーを侵害しているのではないかとの疑念の声が上がっていた。騰訊は2010年11月5日にQQがユーザーのハードディスクをスキャンした事実を認めたが、「正常なセキュリティチェック」と主張した。また、QQそのものにもセキュリティ上の問題がある程度存在しており、QQのアカウントが盗まれるという事件が頻繁に発生した。
2. 2006年7月27日、奇虎は「360安全衛士(ウィルス対策ソフト)」を発表し、2007年に奇虎が360ウィルス対策ソフトのテスト版の提供を開始したところ、騰訊のゲームソフトが誤検知され、削除されたことがあった。
3. 2007年9月、騰訊QQに付属の「QQ軟件管理」と「QQ医生」が「QQ電脳管家」に自動アップグレードされた。これは奇虎の「360安全衛士」と機能が非常に類似したウィルス対策ソフトである。
4. 2010年9月、奇虎は「360隠私保護器(360プライバシーセキュリティーツール)」を発表し、公式ウェブサイトにおいて、パソコンにインストールされているソフトについてユーザーのプライバシーを侵害しているものを検出することができると宣伝した。
5. 2010年10月29日、奇虎はさらに「360扣扣保鑣」を発表し、QQユーザーのパソコンを全面的に保護することができると表明した。
6. 2010年11月3日、騰訊は《QQユーザーへの手紙》として、「奇虎360」ソフトをインストールしているパソコンでQQソフトを利用することができない、つまり、2種類のソフトは併用できず、QQは奇虎360の安全ブラウザとも併用できないと発表した。また、騰訊は「奇虎360」がトロイの木馬方式でQQに侵入し、その機能を改ざんしたことを発見したと発表した。
7. 2010年11月4日、奇虎は「360扣扣保鏢」の回収を発表した。その後、奇虎は「360安全ブラウザ」の自動更新により、ブラウザのUser-Agentプロパティのデフォルトを360SEからIEに変更し、それによりQQの不併用検査を回避して、ブラウザが正常にQQに入るようにした。これについて、騰訊は奇虎の「360安全ブラウザ」がその他のブラウザを偽装し一種の詐欺行為を行ったものと考えた。
8. 2010年11月5日、騰訊は金山、傲遊、可牛、百度、捜狗の5社のソフトウェア会社と北京において合同記者会見を開き、奇虎とは提携せず、奇虎360シリーズのソフトとはいずれも併用しないようにすると発表した。その後、捜狗は併用停止計画には参加していない旨を発表した。
9. 2010年、「奇虎360」と「騰訊QQ」のソフトウェア会社2社は、互いを不正競争法に違反したとして訴えた。この紛争は「3Q大戦」とも呼ばれた。最終的に中国の工信部と公安部が介入し、2社のソフトウェアは併用が可能となった。2010年11月21日、騰訊と奇虎はそれぞれ自社のウェブサイト上でユーザーに謝罪した。
10.2011年4月26日、北京市朝陽区裁判所は、騰訊が訴えた奇虎360の不正競争事件の裁判で、奇智ソフトウェア(北京)有限会社、北京奇虎科技有限会社及び三際無限インターネットテクノロジー有限会社に対し、360プライバシーセキュリティツールの発行・利用停止と、30日間の謝罪広告記載と、権利侵害行為により騰訊が被った不利益に対する損害賠償金40万人民元(損害賠償請求額400万元の10分の1)の支払いと、360のウェブサイト上の権利侵害に係る文言の削除を命じる一審判決を下した。騰訊は損害賠償金40万元を慈善事業に使用すると発表した。
11.中国社会科学院は「奇虎「360扣扣保鏢」は、ソフトウェアが国際的なプラグインの定義に合致しておらず、会員機能をハッキングし、著作権者の標識関連情報の権利を侵害し、ユーザーの知る権利を間接的に侵害するなど、多くの不法行為に係っている」と指摘した。
12.2011年8月、騰訊は奇虎会社が不正競争法に違反したとして広東省高等裁判所に再び訴訟を提起した。2012年4月18日、奇虎側も、広東省高等裁判所に騰訊を独占禁止法違反で訴え、騰訊が3Q大戦期間中に独断でサービスの利用を停止し、QQ軟件管家のアップグレードと称してQQ医生をインストールさせ、QQの市場地位を乱用して、ユーザーにインストールしていた360ソフトを強制的に削除させることでユーザーの自主選択権を剥奪し、取引の制限と抱き合わせ販売を行ったとして、騰訊に1.5億元を超える賠償金を請求した。
13.2013年4月25日、広東省高等裁判所は、奇虎には、ウィルスをスキャンする又はユーザーを保護するという名目で、他人のインターネットサービスが提供する合法ソフトに侵入し、無断で他人のソフトを改ざんし、他人の合法的な営業を妨げる権利はなく、また、奇虎が自社の商品及びサービスを騰訊QQソフトウェアインターフェースに埋め込み、QQの多くのユーザーに自社の商品を宣伝して、360ソフト及びサービスの利用者を開拓しようとしたことは、騰訊に深刻な経済損失を与えただけでなく、自己の取引機会も増やそうとするものであり、誠実信用、公正競争の原則に反し、不正競争法に違反すると認定した。
14.奇虎は、広東省高等裁判所の判決は不公平なもので、すでに最高人民裁判所に上訴したと発表した。 |