中国が「パテントトロール規制」国家戦略計画を発表
「パテントトロール」とは、生産を目的とせず専利(特許・実用新案・意匠)を買占め、その後時機を見て訴訟などの手段により、権利侵害者から損害賠償金や実施料を得ることを目的とする会社を指す。
統計によると、ここ10年間国際的に見て、パテントトロールに関連した訴訟件数は8倍に増加しており、パテントトロールに告訴された会社も2001年では500社余りだったものが、2011年には4000社にも達し、急速な増加傾向にある。
「パテントトロール」対策として、一部の国では既にその行為を規制する措置の導入が検討されている。例えば、韓国、フランスはアメリカに専利収集を目的とした専門機関を設置しており、これら機関は政府が関わっているため、国際世論の注目を集めている。台湾もパテントプールと知的財産銀行の実現の可能性について研究を開始している。
中国もまたパテントトロール規制の必要性について検討を始めている。一般的に中国の企業は国外のパテントトロールからの攻撃をまだ受けていないと認識されているが、その主な理由としては、恐らく中国の知的財産権侵害事件で得られる賠償額が比較的低く、パテントトロール自身が製品を生産しない場合、訴訟で損失を証明することは不可能に近く、最高でも権利侵害停止という判決しか勝ち取れないことにある。現在、パテントトロールは中国において「専利購入」の戦略的段階にあり、政府が適切な時期に防衛措置を採らなければ、将来、国際専利訴訟が大規模に頻発するという事態になりかねないと一部の学者は考えている。しかし、一方で政府が規制に介入すると、パテントトロールの問題が更に複雑化してしまうのではないかと考える学者もいる。
中国の専利出願数の急激な増加に伴い、ここ数年パテントトロールも機会を窺っている。例えば、2008年にドイツで開催されたコンシューマ・エレクトロニクス展において、SISVEL社が中国の海爾、海信、東元、創維などの企業を権利侵害で告発し、携帯電話、MP3、テレビなどの出展商品が没収され、出展企業の商機に大きく影響したことがあった。
学者により、統計データを基に、中国でパテントトロールの規制を国家戦略レベルにまで引き上げることの必要性について更に分析が行われている。
一、中国の企業が専利権侵害で告訴された場合の敗訴率は7割5分
中国の知的財産権侵害事件の損害賠償額は低いものの、中国企業が権利侵害の被告となった場合の敗訴率は76.1%に達し、これは米国(米国が被告の場合の敗訴率は29%)を遥かに凌ぐ高さである。従って、中国の専利権保護の強化に伴って、中国の権利侵害賠償金の金額が全体的に上昇すれば、パテントトロールの利潤もそれに伴い上昇することになる。
二、パテントトロールが提起する専利権侵害訴訟の賠償額は一般事件の2倍以 上
パテントトロールは専利訴訟において高い専門性を有し、証拠蒐集/挙証能力にも優れているため、平均水準を遥かに超えた賠償額を獲得できる可能性がある。
調査結果では、パテントトロールが提起した専利権侵害訴訟事件の損害賠償額は、一般企業の専利権侵害訴訟事件の損害賠償額の3倍近くにもなる。2006年から2010年にかけてパテントトロールは大量の専利を購入し、絶えず訴訟攻勢を仕掛け、専利権侵害事件一件当たりに得た損害賠償額は、690万米ドルにも及んだが、一般の状況下での企業の普通の専利権侵害訴訟の損害賠償額は340万米ドルであり、パテントトロールが獲得する金額は、一般事件の2倍以上であることが分かる。
三、中国の「問題のある専利」が、パテントトロールのターゲットとなる可能性大
中国の専利出願数は既に世界第一となったが、同時に大量の問題のある専利も存在しているため、これらがパテントトロールに利用されて、大規模な権利侵害訴訟が引き起こる可能性がある。
統計によると、特許権者が権利侵害者を訴えた場合の勝訴率は71.5%で、実用新案権者の勝率は67.5%、意匠権者の勝訴率は80.4%である。
企業が被告となった時、勝訴率が低く、また特許の研究開発費が高く代替技術の研究開発が難しいことから、企業は恐らく高額な実施料の支払いを選択する可能性が高い。この点から、パテントトロールの企業攻撃において、特許が優先順位のトップにくる可能性が高い。
実用新案及び意匠は登録査定される際、実体審査を経ないため、問題が存在する可能性は特許よりも更に大きい。パテントトロールはおそらく実用新案と意匠を利用して中小企業を攻撃するであろう。特に実用新案と意匠は、主に製造が簡単で、改良が容易で、低コストの商品に関して、利益追求の余地があるため、多くの中小企業がこれらの実用新案や意匠の商品を模倣する又は自ら改良を行い、権利侵害を構成する可能性がある。
以上のデータ分析から、中国はパテントトロール規制を国家戦略レベルに引き上げる傾向にある。特に他国が専門機関を設立し専利収集を始めるとき、2つの状況が生じる可能性がある。一つは、政府が本国企業を保護することだけを目的とする場合、専利収集は本国企業を防御し保護するためだけに行われるという状況で、これは国家の貿易政策の一部分に属し、もう一つは、政府と民間が利益を争う状況で、つまりはパテントトロールの国家版である。いずれにしても、政府の介入がパテントトロールの規模拡大化を招くことには変わりない。
中国の学者は、国家によるパテントトロール規制は企業を保護する効果があると考えている。韓国の対策を参考にすると、国家が専門の知的財産管理会社を設立することで、他国又は企業に本国の技術が安価で買われてしまうことを防止でき、本国の大学及び科学研究機関のイノベーションや創造を独占できる。また、本国の専利技術の取引、転化や情報流通プラットフォームの建設も促進され、企業の専利保護能力向上にもつながる。この点からすれば、政府の介入が国家レベルのパテントトロールであると一概には言えないのである。 |