中華人民共和国―薄弱な職業倫理
鴻海グループの投資会社である富士康の法務長、虞彪弁護士は、2007年8月25日開催の「第一回両岸(台湾と中国大陸)企業の革新発展のための論壇会」上,「法律面から見た自主創新(革新)と知識財産権」の主題で発表、演說した。特に、中国大陸企業の深刻な不正競争と悪質なヘッドハンティングの問題は、中国で自主創新において、台湾企業が直面する最大の脅威、困難であり、富士康のように、中国大陸に長年にわたって深く根を下ろす企業ほど、そうした困難に直面している、と論じた。 虞弁護士の指摘によると、台湾企業が大陸で受ける困難は二つあり、ひとつは、不正競争と悪質なヘッドハンティング、もう一つは、中国では、立法は厳格だが司法のコンプライアンスが確立できていない事である。大陸企業には職業倫理や文化が欠落しており、職業倫理における規範がほとんどない。そのため、台湾企業が創造した技術や商品、商業秘密等が漏洩されるという状況が深刻であり、また同時に、苦労して育成した人材も、同業者による悪質なヘッドハンティングによって奪われるという事態が生じる。会議に出席した北京の清華大學副教授である鄭勝利氏によると、福建、浙江、昆山等、臨海地域での調查では,大陸企業により台湾企業の研究開発員を、悪質に引き抜くという状況が「かなり深刻」であり、一例として、漳州の台湾企業、燦坤が育成した大陸国籍の研究開発員たちが大勢引き抜かれたため、この地は、大陸の民営企業に「第二の人材育成基地」とさえ呼ばれている。こうした悪質な人材の引き抜き行為は、間接的に商業機密の漏洩につながり、台湾企業だけでなく外資企業の損失につながる上に、惡性循環の結果,最終的には、必然的に中国大陸の企業にとっても痛手になるはずである。 中国大陸が抱えるもう一つの深刻な問題は、立法は厳粛だが、法令遵守が為させていないことだ。多くの法執行者は、法律の認識があまく、執行能力をもたない上に、一つの法律に対し複数の執行標準があるため、台湾企業はどれを基準とすべきなのか分からない。目下、中国大陸への投資は、日増しに成熟しており、台湾企業が中国大陸で優勢を保てるかどうか、より一層大きな挑戦に直面している。中国大陸の税金納付優遇政策の調整、輸出にかかる税払い戻しの減少、持続する人民元の値上がり、高汚染または豪奢な産業の抑制、全体の運営コストの増加、もしくはベトナムやインドなど不動産提供の優待による台湾企業への誘引等を含む全てが、台湾企業の中国大陸への投資に重大な変化をもたらしている。こうしたことから、虞弁護士は会議中、中国のこれらに関わる部門が、知識財産権を保護する公平で安全に競争できる基盤を提供するよう、また台湾企業には、利益追求に慎重になるようにと呼びかけた。 上記の問題に対し、中国は、2007年6月29日に「中華人民共和国労働合同法(以下、労働合同法に省略)」を通過、公布した。それによると、雇用者と被雇用者は、雇用者の商業秘密を守るべく、知識財産権に関連する秘密保持事項の具体的な規定を定め、雇用者と被雇用者が合同に労働する中で、雇用者の営業秘密および知的財産権関連の秘密保持事項を厳守するよう約定している。また、秘密保持義務を負う被雇用者に対し、雇用者は、合同労働において、秘密保持協定中に、被雇用者の競合禁止条項を定めることができ、また、労働契約の解除または終結後は、競合禁止の期限内は、毎月被雇用者に経済的補償を与える。一方、被雇用者が競合制限の約定に違反する場合、約定により雇用者に対し違約金を支払わなければならない。しかし、中国は、職業倫理の規範に欠け、法令厳守が為されていない状況である為、労働合同法が2008年一月1日より施行後、被雇用者が意のままに転職するのを、より一層保護する結果となってしまわないかどうか観察が必要である。また、台湾企業の研究成果の保護と、苦労して育成した人材の引き抜き防止には更なる工夫が必要である。