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中国 美術館が許諾を得ずに寄贈された
著作物を使用することは著作権侵害に該当


【出典:中国打撃侵権仿冒工作網】

【案件番号】(2017)陜01民初52

【判決要旨】

  1. 著作権者の身分について疑義を申立てる場合、証拠を提出して証明しなければならない。提出しない場合、写真著作物のフィルムを提供した者を著作権者と認定することができる。
  2. 撮影記録及び手紙は、単独で著作権者と認定するための根拠とすることはできない。
  3. 受贈者は著作物の使用者として著作物の寄贈を受けた際に、著作物寄贈者の同意を得ていても、審査の注意義務を負う。
  4. 受贈者が許諾を得ずに、自分の開催する展示活動及びその編集する書籍に、著作権者の著作物を使用することは、著作権侵害に該当する。
  5. 損害賠償額を決定する法律要件の一つは、行為者に主観的過失があること。

【事実の概要】

 王子雲は、中国の著名な美術史家、美術教育家、画家、彫刻家であり、中国の現代美術教育と美術考古学のパイオニアである。任之恭は王子雲の長女である王薔の夫である。201639日に、陝西省美術博物館(以下、「美術館」という)は、王子雲の次女王倩、長男王芃と有償寄贈同意書を交わした。王倩と王芃は、王子雲の美術考古資料のフィルム及び写真を美術館に寄贈し、著作物の所有権、出版権も一緒に寄贈した。王倩は、写真、フィルム、光ディスクなどの資料は、全て本人が所有し保有していたものであり、寄贈物の物権の帰属及び真実性は合法であることを保証した。美術館は、手付け金を支払って寄贈物を受け入れた後、宣伝、展示、複製、編集発行等の権利を有することとなった。美術館は、王倩に寄贈に対する表彰金を支払った後、「雲開華蔵―陝西省美術博物館所蔵王子雲作品及び文献展」を開催し、『雲開華蔵』上・中・下の三冊の書籍を編著した。美術館と王倩、王芃が交わした寄贈収蔵契約の内容は、「王倩と王芃は、自発的に王子雲の美術考古研究活動史料を美術館に寄贈する。寄贈物は、フィルム2,652枚、写真2,354枚の計5,006作品である。王倩と王芃は、これらのフィルムと写真が法律の規定により本人が合法的に所有したものであり、寄贈したフィルムと写真はいずれも王子雲本人の生前の収蔵品であり、詐欺、偽造等の状況は存在しないことを保証する。美術館は、王倩と王芃に表彰金220万人民元を支払う。美術館はフィルムと写真を受け取った後、展示権、出版権、編集権及び情報ネットワーク送信権を有する」というものであった。

 任之恭は、美術館が許諾も得ず、署名も掲載せずに、自身の著作物を無断で使用し、著作権を侵害したとして、美術館の侵害停止と謝罪を求めて法院に訴訟を提起した。裁判で、任之恭は、自身が係争写真の著作権者であることを証明するために、撮影時の記録及び手紙、係争写真と同時期に撮影したその他の写真を提出した。これに対し、美術館は、「展示会を開催する時、王薔は王子雲の子女の代表として今回の展示会を許可した。寄贈者は、自身が所有する父親の残した写真を美術館に寄贈する時、寄贈写真の署名者について約定しなかったため、美術館は合法的に写真の展示、出版等の権利を有している。また、美術館が国を代表して王子雲の歴史文献資料について行った「救済的」な収蔵行為に過失はない」と主張し、任之恭の訴訟請求を棄却するよう求めた。

 西安市中級人民法院は審理した結果、「任之恭は、王子雲のポートレート写真のフィルムを2枚所有しているので、任之恭がこの2枚の写真の著作権者と認定することができる。その他の16枚の写真については、任之恭はフィルムを所有していないため、その写真の著作権者と認定することができない。美術館は許諾を得ずに、展示会及びそれが編著した『雲開華蔵』書籍に、任之恭の2枚の写真を使用し、その上署名がないことについて、払うべき審査義務を果しておらず、任之恭の著作権を侵害したため、権利侵害行為を停止し、損害賠償しなければならない。美術館に対する『人民日報』への謝罪声明の掲載という任之恭の請求については、美術館の権利侵害行為が任之恭の名誉を毀損したことを証明することができないため、これを認めない。」として、美術館に対し任之恭の著作権への侵害行為の停止並びに任之恭への損害賠償(侵害行為を抑止するための合理的な費用を含む)として3,000人民元の支払いを命じ、任之恭のその他の訴訟請求を棄却する判決を下した。判決が言い渡された後、任之恭はこれを不服として、上訴を提起した。陝西高級人民法院は、原決定を維持する判決を下した。

【裁判官の見解】

一、著作権法上の写真著作物の権利者の認定基準

 写真著作物とは、機械を利用して感光材料或いはその他の媒体に、客観的物体の姿形を記録した芸術作品、例えば、人物写真、風景写真などをいう。著作権の取得方法は主に登録による取得と自動的取得の2種類がある。

 中国の著作権法では、著作権の取得について自動的取得制度を採っている。当該法律には、「中国の公民、法人又はその他の組織の著作物は、発表されたかどうかにかかわらず、本法により著作権を享有する」と規定されている。

 著作権者とは、著作物について権利を享有する者であり、原始的主体と継承的主体がある。著作権の原始的主体とは、著作物を創作した者をいい、著作者はその創作行為によって、著作権を享有する。著作権の継承的主体とは、譲受、相続、受贈及びその他の方法によって、著作権の原始的主体から著作権を取得した者をいう。

 中国の著作権法には、「反対の証拠がなければ、著作物上に署名している公民、法人又はその他の組織を著作者とする。」と規定している。裁判実務においては、反対の証拠がなければ、著作物上の署名と著作権登録証書を、著作権者を認定する際の一応の証拠とすることができる。著作者が実際に著作物を創作したと証明できる資料、例えば文学作品の手稿などはもちろん著作権者の身分を証明する証拠とすることができる。写真著作物の場合、著作権者を認定する最も直接的な証拠は、著作物上の署名及び著作権登録証書である。

 一般的に、編纂出版された写真著作物、展示された写真著作物には、著作者の署名が入っている。技術の発展に伴い、インターネット及び印刷物においては、写真著作物にウォーターマークを入れる方法で署名する写真家が増えている。また、自分の著作者としての身分を証明するために、自分の写真著作物について著作権登録する写真家もいる。

 署名や著作権登録証書がない場合に、写真著作物の著作者であることをどう認定するかが、裁判実務における難点の一つである。文学著作物の手稿と同様に、写真著作物のフィルムは、創作過程の証明とすることができ、反対の証拠がなければ、フィルムの所有者を写真著作物の著作権者と認定することができる。

 本件の場合、任之恭が写真の権利者であることを証明する証拠として提出した2枚の写真のフィルム及び18枚の写真の撮影記録及び関連する手紙のうち、2枚の写真のフィルムは、任之恭がその2枚の写真の著作権者であると認定することができるが、残りの16の写真については、任之恭が証拠を提出することができなかったため、自身が著作権者であることを証明することができない。

二、受贈著作物の著作権に対する受贈者の審査注意義務

 注意義務とは、義務主体が自己の行為によって他人に損害を与えないように、慎重且つ注意深く行動する義務をいう。注意義務は、行為者に自身の行為が法律規定に違反し、他人に損害をもたらす危険な状態にあることを予見した又は予見できる場合に、合理的な作為又は不作為の形式によって、この種の危険な状態を排除することを求めるものである。

 中国の著作権法には、著作物の使用者に対して「審査注意義務」と「合理的注意義務」が規定されている。受贈者には著作物の使用者として著作物を受贈する際に、審査義務が有る。受贈者は、後続の使用においての権利侵害のリスクを避けるために、寄贈者が寄贈された著作物の著作権を享有するかどうかを詳細に確認しなければならない。写真著作物の場合、受贈者は署名、著作権登録証書、フィルムなどから、著作権者を確認することができる。原始的著作権者でない場合、著作権を承継した証拠、例えば、譲渡契約書、フィルムなどを確認する必要がある。

 本件では、美術館が王倩と王芃の寄贈を受ける過程で、王倩と王芃は、寄贈物を合法的に所有したことを保証する保証書及び声明書を確かに作成したが、寄贈物を所有することは、著作権を有することを意味しているわけではない。しかも王倩と王芃は、任之恭が著作権を享有する2枚の係争写真のフィルムを美術館に提出しなかった。美術館の過失は、係争写真の著作権者について審査をしなかったことである。よって、美術館が開催した展示会及び編著した『雲開華蔵』書籍に任之恭が著作権を享有する2枚の写真を使用したことは、果たすべき審査注意義務を怠ったことに該当する。

三、行為者の主観的過失は賠償額を考慮する法律要件

 許諾を得ずに他人の著作物を使用する行為は、法律に別途規定がある場合を除き、著作権侵害に該当する。一般的に、行為者に主観的過失があるかどうかは、その権利侵害行為の認定に影響を及ぼさないが、損害賠償額の確定には影響を及ばす。

 理論的には、知的財産権の侵害行為は絶対権の損害であるため、侵害行為に対する不作為請求権を認めなければならない。この種の請求権の成立には、一般的に2つの条件がある。一つ目は不法行為の客観的存在、二つ目は、権利が侵害される実際の危険又は同一の加害者が同一の権利者に対し繰り返しもしくは継続的に侵害する危険の存在である。この種の請求権の成立条件では、行為者の主観的要件は考慮されない。法院は、著作権者が被告による不法行為の実施を証明できれば、不作為請求権を認めなければならない。したがって、美術館に主観的過失があるかどうか、国を代表して著作物を収蔵するかどうかは、権利侵害に該当するかどうかの判断基準ではなく、権利侵害責任と賠償額の決定においてのみ考慮される。

 権利侵害の損害賠償の原則は、損害賠償の目的及びその実現条件によって決まる。権利侵害の損害賠償は、被害者の損失を補償することを一般的な目的とし、加害者を抑制することを社会的な目的としており、全額賠償原則が権利侵害の損害賠償の基本原則である。知的財産権の損害賠償も当該原則に従う、すなわち権利侵害者はその知的財産権侵害行為によって被害者が被った全ての損失を補償しなければならない。

 知的財産権侵害に係る損害賠償も、一定の責任帰属の根拠又は責任帰属の原則というものが存在する。外国の知的財産権法では、大半が過失の存在の有無は、権利侵害認定の前提ではなく、賠償責任の免除又は軽減の前提であると規定されている。中国の知的財産権法にも類似の規定があり、行為者の主観的過失は「権利侵害行為の情状」として、権利者への賠償額に影響を及ばす。北京高級法院が発表した『北京市高級人民法院による著作権侵害事件に関する審理ガイドライン』にも「悪意の権利侵害に該当する場合、法定賠償限度額内で、原告の請求を認めるか又はできるだけ高い賠償額を決定することができる」と記載されている。

 本件では、美術館は2枚の写真の著作権侵害行為に対して賠償責任を負い、美術館の主観的過失についての法院の考慮も反映された。

 

 
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