中国 深センの某知的財産権会社が代理する14000件以上の
米国商標登録出願を米国特許商標庁が強制的に取消
2021年3月に、米国のHodgson Russ法律事務所は、クライアントの登録商標の定期管理作業を行った際に、米国特許商標庁(以下「USPTO」という)の運営しているシステムにおいてクライアントが登録出願したことがなく、しかも虚偽の連絡先情報が記載されている新規商標登録出願案を発見して、直ちにUSPTOに当該詐欺的な商標登録出願事件を通報した。USPTOの公開情報によると、当該詐欺的な商標登録出願は中国の出願人による出願で、米国弁護士の名義を無断で使用し、サインをした後で商標登録出願をしたことが分かった。それだけでなく、USPTOが調査を行っている最中に、ほかの米企業からも類似の通報があり、当該中国の出願人が他人名義を冒用して他の米企業に係る10件の商標登録出願をしたことが明らかになった。USPTOの商標局(Office of the Commissioner for Trademarks)は、同年5月に、出願中の関連の商標登録出願の手続きを終了させると共に、当該出願人がUSPTOに商標登録出願することを永久に禁止する制裁措置を講じた。
またほかにも、USPTOは、同年6月8日に中国深センの某知的財産権会社の代表者に対し、当該会社が代理する米国商標登録出願に存在する虚偽の第三者のサインなどについて合理的な説明を提出するよう求め、米国東部標準時間の6月22日午後5時までに返答がなかった場合、USPTOが当該知的財産権会社及びその代表者に制裁措置を講じる内容の123ページにも及ぶ「理由提示命令(Order to Show Cause)」を発した。このニュースは発表されてすぐに、中国の知的財産業界及び多くの商標出願人の高い関心を集めた。
近年、中国の出願人による海外への商標登録出願件数は、驚くほどの勢いで成長し続けており、2015年から2020年までの間で、中国の出願人による米国への商標登録出願件数は7.5倍に増加した。また、ニューヨーク大学法学部の知的財産権法の教授であるBarton Beebe氏の統計によると、USPTOが2020年に受理した中国からの商標登録出願は171,000件にも達し、平均すると新規出願の4件に1件が中国からの出願であることが分かった。このような商標登録出願の驚くほどの急成長は、中国の中央及び地方政府が商標登録出願への補助金政策を持続的に実施したことで引き起こされた数多くの使用を目的としない悪意の登録及び詐欺的な商標登録の現象と無関係でないほか、ここ数年、中国で急成長し且つ積極的に海外進出している越境電子商取引事業者(以下、「越境EC事業者」という)とも密切な関連がある。
eコマース調査会社のマーケットプレイス・パルス(Marketplace Pulse)が発表した《Marketplaces Year in Review 2020》 によると、「Amazon(アマゾン)のベストセラー商品の販売事業者のうち、中国の販売事業者の割合は、2016年5月の11%から、2020年末には42%に成長した。実は、Amazonは、プラットフォームに出品する販売事業者にAmazonブランド登録(Amazon Brand Registry)プランを提供している。販売事業者は、対応するサイトの国や地域の登録商標を取得していれば、ブランド登録に登録することができる。ブランド登録した販売事業者は、所有するブランドが侵害や模倣されたりするのを防ぐなどの保護を得られるだけでなく、プラットフォームの消費者から商品に対する信頼をさらに得やすくなる。越境EC事業者は、Amazonのルールの下、プラットフォーム内の自社のランキングを上げるために、積極的に商標登録出願して登録商標を取得せざるを得ない。深センは中国の代表的な越境EC事業者の拠点として知られている。6月にUSPTOによって制裁措置を講じられた深センの某知的財産権会社が代理した14000件以上の米国への商標登録出願は、多くの越境EC事業者が海外進出する際の激しい競争の現状を反映しているのかもしれない。
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