「摩卡咖啡」は商品の普通名称であると
中国北京市海淀区人民裁判所が判決
【出典:北京晩報】
Ø 事実の概要
これは、原告の摩卡食品有限公司(以下、原告という)が被告の瑪儷琳(深圳)時尚餐飲有限公司北京支社及び瑪儷琳(深圳)時尚餐飲有限公司(以下、併せて両被告という)を訴えた商標権侵害事件である。
原告は2019年3月5日に、両被告が経営している喫茶店のメニューに「摩卡咖啡(モカコーヒー)」文字を使用しているのを発見し、当該使用行為は、自身が所有する「摩卡MOCCA 」、「摩卡咖啡」などの登録商標専用権を侵害し、関連消費者に関連商品の出所について混同を生じさせるため、商標権侵害に当たると主張した。
一方、両被告は共同で次のように弁明した。「実際に使用した「摩卡咖啡(熱飲)MOCHA(モカコーヒー(ホット)MOCHA)」文字について、その使用は商標的使用でなく、正当な使用に属する。「摩卡咖啡(モカコーヒー)」は商品の普通名称であるため、原告には他人がそれを正当に使用することを禁止する権利はない。しかも、当該文字は店舗内の物品には使用しておらず、消費者に混同誤認を生じさせないため、商標権侵害に当たらない。」
Ø 争点
両被告がメニューに「摩卡咖啡(熱飲)MOCHA(モカコーヒー(ホット)MOCHA)」文字を使用したことは、正当な使用に属するか、関連消費者に混同誤認を生じさせるか、それによって原告の登録商標専用権侵害となるか。
Ø 裁判所の判決
北京市海淀区人民裁判所は以下の理由に基づき、両被告の行為は権利侵害に当たらないと判断し、原告の請求を全て棄却するとの判決を下した。
1、「摩卡(モカ)」はコーヒーの品種の一つで、それに対応する英単語は「MOCHA」であり、これは「摩卡(モカ)」「MOCHA」の固有の意味である。原告は「摩卡(モカ)」などのシリーズ商標を登録していたが、他人がこれらの文字を商標としての使用以外に使用することを禁止する権利はない。
2、商標的使用に該当するには、使用者の主観的意図及び使用方法が、商標表示の識別機能を発揮させるもの、つまり、当該標識の出所表示機能を積極的に反映するものでなければならない。使用者が単にある言葉の固有の意味を表すためだけに使用し、関連消費者がそれによって当該商品又は役務の出所を知ることが難しい場合、このような使用方法は商標的使用と認定すべきではない。
3、両被告は「摩卡咖啡(熱飲)MOCHA(モカコーヒー(ホット)MOCHA)」文字を使用する際、いずれも店舗で販売するコーヒーの名称として使用しており、しかも原告と関連のある文字を強調したり、表示したりしていない。また、当該文字を使用する際の字体や配列方式は、メニューのほかの飲み物と完全に同じであり、商品の説明又は客観的な記述という正当な使用の範囲を超えていない。従って、両被告が当該文字を使用した行為は、商標的使用ではない。その使用方法は、関連消費者に混同誤認を生じさせることも、原告がコーヒーの供給元であると誤認させることも、更に両被告が経営する喫茶店と原告との間に特定の関連があると誤認させることもない。
Ø 裁判官が強調する点
商標の基本的な機能は、消費者が商品を購入したり、役務の提供を受けたりするときに、商品又は役務の提供者を識別しやすいよう、商品又は役務の出所を区別することである。商標法の商標権に対する保護は、本質的には商標標識の機能に対する保護であって、登録行為で固定化された商標標識自体を保護するだけなのではない。商標権者が取得するのは、法律により登録商標を特定の商品又は役務において使用できる専用権であり、商標権者には商標的使用でない使用行為を禁止する権利がない。即ち、使用行為が本件商標の識別機能及び区別機能を害しておらず、市場の混乱を引き起こすという結果も生じていない場合、この種の使用行為は商標法に禁止される範囲には含まれない。
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