台湾 最高裁判所による
並行輸入品の商標権の国際消尽論
に関する判決
商標権不存在確認訴訟
判決番号:最高裁判所108(2019)年台上字第397号民事判決
判決日:中華民国109(2020)年1月16日
上告人:哿鑫国際股份有限公司
被上告人:紅創意有限公司
【事件概要】
これは商標権不存在確認事件である。上告人の哿鑫国際股份有限公司(以下、上告人という)は2016年1月7日に米国の「PHILIP B社」の公式サイトで、商標「PHILIP B」(以下、係争商標という)を付した真正品(以下、係争商品という)を仕入れた後、自社の公式サイトや台湾ヤフオクなどのプラットフォームで販売していた。被上告人の紅創意有限会社(以下、被上告人という)は係争商標の台湾の商標権者であり、自身が保有している商標権を保護するため、上告人の販売している米国の正規メーカーの係争商品が、自身が保有している台湾の商標権を侵害していると通告した。
これに対して、上告人は2016年に、被上告人が台湾で登録を受けた係争商標について、権利侵害行為不存在確認訴訟を2回提起し、上告人の行為は商標法第36条第2項の規定により保障されているはずであると主張した。つまり「真正品の並行輸入の正当性」及び「商標権の国際消尽論」を強調し、被上告人には上告人に対して商標権を行使し、商標権侵害行為を指摘する権利はないと主張した。
本事件は知的財産裁判所の第一審と第二審の判決(105(2016)年民商上字第14号民事判決書)により、本事件の国内外の係争商標権者は同一人でなく、しかも上告人に対して商標権を行使できないのは米国の「PHILIP B社」であって、台湾の商標権者である被上告人ではないため、上告人が輸入商品を販売した行為は、商標法第36条第2項の規定により保障されるものではないと認定され、上告人敗訴の判決が下された。上告人は第二審の判決を不服として最高裁判所に上告した。最高裁判所は原判決とは異なる見解を示して原判決を破棄し、当該事件を知的財産裁判所に差戻して再審理するよう命じる判決を下した。
【最高裁判所が原判決を破棄し差戻した理由】
一、 台湾商標法第36条第2項には「登録商標を付した商品が、商標権者又はその同意を得た者により国内外の市場において取引され流通した場合、商標権者は当該商品について商標権を主張することができない。但し、商品が市場に流通した後、変質、毀損が発生するのを防ぐため、又はその他の正当な事由がある場合はこの限りではない」と規定されている。その立法趣旨によれば、この規定が商標権の国際消尽論を採用すること、つまり商標権者は、その同意を得て市場において流通している商品に対し、同条項の但し書きに該当する事情がない場合、最初に販売された市場が国内か外国かに関係なく、該商品に対して再び権利を主張することができず、真正品の並行輸入の正当性が明確に規定されていることがわかる。
二、 商標権者は、同一の図案について自ら又は他人に許諾して異なる国で商標登録出願した場合、属地主義の概念においては異なる商標権であるが、図案が同じであり、本質的に排他的権利の発生が同一の権利者に由来している場合、異なる国の商標権者は、相互に許諾関係又は法律関係があれば、商標権の権利消尽の効果は許諾によって登録された商標権者に及ぶ。
三、 PHILIP B社は米国で登録された係争商標の商標権者であり、被上訴人が台湾で当該商標の商標権者として登録することに同意した。係争商標を付した係争商品は海外の正規メーカーから仕入れたものである。係争商品が海外の正規メーカーによって販売され市場に流通した後、変質、毀損を生じる虞又はその他の正当な事由がある等の状況がない場合、係争商品に付された係争商標の商標権の権利消尽の効果は、PHILIP B社の同意を得て台湾で同一の図案の商標権を取得した商標権者(即ち被上告人)に及ばないのだろうか。原判決では、これを検討せずに、商標権者は係争商品が最初に販売され又は流通した時に報酬を得ておらず、商標法第36条第2項に規定する権利消尽は国内外の商標権者が同一人である状況のみ適用されるとして、上訴人に不利な判断を下したことは、間違いがないとは言えない。
四、 給付判決は、その給付範囲を明確にしなければならない。原告が積極的な作為と消極的な不作為を含む給付の訴えを提起するときは、その請求の趣旨に給付範囲を明確に表明しなければならない。本事件の上訴人は、被上訴人に対し係争商品について商標権を主張してはならないこと、及びその販売行為の禁止を主張してはならないことを求めているが、係争製品の範囲、その範囲の明確性について、本事件が差戻されて再審理されるときには、この点も併せて注意しなければならない。 |