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台湾 最高行政裁判所の
108年裁字第529号行政裁定
―商標「拖神」は商標「好神拖」及び
「超神拖」と類似を構成する―



商標の無効審判(中国語「評定」)事件

判決日:中華民国1082019)年329

上訴人:拖神国際股份有限公司

被上訴人:経済部知的財産局

訴訟参加人:帝凱国際実業股份有限公司

これは商標の無効審判をめぐる商標行政訴訟事件である。訴訟参加人の帝凱国際実業股份有限公司(以下、帝凱国際という)は、上訴人の拖神国際股份有限公司(以下、拖神国際という)の所有する商標「拖神」(係争商標)の登録が、商標法第30条第1項第10号の規定に違反しているとして、2件の「好神拖」及び「超神拖」を引用商標として無効審判請求をした。経済部知的財産局(以下、知財局という)はこの無効審判請求案を審査し、係争商標の登録を取消すべきとの処分(中台評字第1050166号商標評定書)を下した。拖神国際はこれを不服として訴願を提起したが、経済部は訴願を棄却する訴願決定(経訴字第10606314640号訴願決定)を下した。拖神国際はその訴願決定を不服として知的財産裁判所に行政訴訟を提起したが、知的財産裁判所は棄却の判決(107年度行商訴字第21号行政判決)を下した。拖神国際はなお、これを不服として最高行政裁判所に上訴を提起した。最高行政裁判所は当該事件を審理後、上訴棄却の判決を下した。

 

一、上訴人拖神国際の主張:

  1. 【混同誤認の虞に関する審査基準】第5.2.3条と第5.2.5条の規定によると、両商標の類似度が「関連する消費者に混同誤認を生じさせる虞がある」程度に達しているか否かを判断するにあたっては、商標の全体観察原則に合致すべきで、分離抽出して判断してはならないとある。原判決では、全体観察原則を示しているにもかかわらず、類否を判断する際に、帝凱国際の所有する商標「好神拖」から「神拖」2文字を抽出して係争商標と比較をした。これは明らかに分離判断の方法でもって両商標は類似し区別し難いと認定しており、法律の不適用及び判決理由の矛盾という違法性がある。

  2. 原判決では、独立した字義と標語を構成している「好神」の2文字を分離し抽出しただけで、「神拖」を引用商標の主要部分と認定した理由について言及しなかった。これは【混同誤認の虞に関する審査基準】第5.2.6.6.条の規定及び台湾の消費者の流行語や説明語の使用習慣及び使用経験に反している。

  3. 係争商標と引用商標は、文字数、字体、字形、デザイン、色及び全体の配列による表現方式の点において、普通の知識経験を有する一般の消費者が時と場所を異にした隔離的観察をしたときに、両商標は明らかに異なるものであると簡単に識別できる。また、係争商標は社名をはっきりと表示しており、それにほかの標章と併用する表示方式であるため、一般の消費者にその出所を混同誤認させる可能性はない。係争商標を使用している実際の商品の包装や社名などの客観的要素も、引用商標と混同誤認を生じさせる可能性はない。

  4. 帝凱国際はかつて、拖神国際の使用する係争商標が引用商標と類似しているとして、商標法違反で告訴したことがある。しかしながら、その後、桃園地方検察署(以下、桃園地検署という)及び高等検察署知的財産検察分署(以下、高検署知財分署という)は消費者の角度から、実際に両者の間に混同誤認を生じる可能性がないと認定した具体的な理由を説明した。

  5. 拖神国際は世界で最初のハンドプレス回転モップの発明者であり、帝凱国際の信用にただ乗りする意図もなく、その必要もない。加えて、社名を商標として使用していることから、既に商品の出所を正確に伝えており、善意により係争商標を登録出願し使用したことに属するため、商標登録の保護を受けるべきである。

二、最高行政裁判所が上訴棄却の判決を下した理由:

  1. 商標法第30条第1項第10号本文における「関連する消費者に混同誤認を生じさせる虞がある」とは、両商標が同一又は類似であることによって、同一の又は類似する商品又は役務の関連する消費者に、両商標が同一のものである、或いは両商標の商品又は役務が同一の出所に由来するものである、或いは両商標を使用する者の間に関連会社や使用許諾などの関係があると誤解させることを意味する。両商標に混同誤認を生じる虞があるかどうかを判断するときは、単一の要素に合致しただけで認定できるわけではなく、参酌要素を総合して認定しなければならない。

  2. 商標の「主要部分」とは、消費者の注意をひく又は事後に消費者の印象に残るものである。商標図案の「識別力」有無の判断においては、商標図案の主要部分が重要な地位を占めるが、分離抽出して観察をするのではなく、商標図案が表わす外観全体について総合的に判断しなければならない。また、商標図案の類否判断にあたっては、両商標の外観、観念及び称呼について観察しなければならない。

    係争商標の図案は、立体的な陰影がある中国語文字「拖」と「神」の2文字からなり、横書きの中国語の呼唱方式では、左から右へ読む「拖神」と、右から左へ読む「神拖」がある。一方、「好神拖」と「超神拖」の両商標図案は、人に深い印象を与え且つ実際の取引で呼唱される同じ文字の「拖」と「神」があり、しかも横書きの中国語を「拖神」と呼唱しても、或いは「神拖」と呼唱しても、いずれも消費者に「神奇拖把(不思議なモップ)」という印象を与えるため、両商標は全体的に外観、観念及び称呼において近似している処があり、類似を構成する商標に属すはずで、しかも類似程度が高い。

    係争商標と引用商標の指定商品はいずれも一般的な清掃用品で、性質も同一又は近似しており、用途、機能、消費者層などの要素において共通する又は関連する処がある。一般の社会通念及び市場の取引状況によれば、関連する消費者にその商品が同一の又は同一ではないが関連のある出所に由来するものと誤認させやすいため、両者は同一の又は類似度が高い商品に属するはずである。

  3. 「好神拖」と「超神拖」は、既存の語彙又は事物を援用し、清掃用品を指定商品としている。これは、商品の品質や機能を暗示する意図があり、暗示的商標に属するが、相当の識別力を備えているので、消費者はそれを商品の出所を指示し区別する標識とみなす。また中国語の「神拖」と「拖神」の2文字を含む字句の組合せとして登録査定され且つ現在も有効に存続しているのは、拖神国際と帝凱国際が出願したものだけである。従って、「好神拖」と「超神拖」は相当の識別力を備えている。

    帝凱国際が提出した広告宣伝販売及び報道記事の使用証拠によって、「好神拖」と「超神拖」の商品が関連する消費者に熟知されていることを証明することができる。一方、拖神国際の提出した使用証拠は受賞歴などであり、商品が関連する消費者に熟知されているか否かを判断することができない。従って、先登録の商標「好神拖」と「超神拖」に対して当然より手厚い保護を与えるべきである。

    拖神国際は、係争商標の登録出願は善意によるものに属すると主張し、モップなどの関連商品の各国での特許証書及び受賞の報道記事などの資料を提出した。しかしながら、当該資料は補佐的参酌要素の一つであり、商標法第30条第1項第10号に規定している主要な参酌要素ではない。


  4. 以上をまとめると、両商標は類似度が高いこと、指定商品は同一の又は類似度が高いものに属すること、「好神拖」と「超神拖」は相当の識別力を備えていること、それに調査の結果、「拖神」により手厚い保護を与えなければならない具体的な証拠と「拖神」の出願が確かに善意によるものである具体的な証拠がないことがわかる。従って、「拖神」の登録は商標法第30条第1項第10号の規定が適用される。

  5. 最高行政裁判所の44年判字第48号及び59年判字第410号の判例の趣旨によれば、行政訴訟は刑事判決で認定された事実及びその法的見解の拘束を受けないため、検察官が下した不起訴処分の拘束はなおさら受けない。また、桃園地検署、高検署知財分署は、両商標が文字数、称呼、外観において完全に一致していないことだけで、混同誤認を生じる虞はないとの判断を下したが、これは、総合的に判断しなければならないとする裁判所の実務見解とは異なっているうえ、当該事件は再議の申立てが却下された後、裁判所に審判を求める申立がなされたため、当該不起訴処分はまだ確定していない。従って、当該不起訴処分は、両商標が類似し且つ関連する消費者に混同誤認を生じさせる虞があるとの事実に影響を及ぼさない。

 

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