中国
シャネル社が「ダブルC」
商標権の侵害を主張するも、第二審で敗訴
【出典:中国知識産権資訊網、法院検索システム】
最近のシャネル株式会社(以下、シャネル社という)の「ダブルC」商標に関する商標訴訟は下記の通りである。
▓ 事実
シャネル社は、葉孟宗が経営するジュエリーショップで販売されている商品がシャネル社の登録商標第G1189929号(即ち、よく見かける「ダブルC」の商標。以下、「係争商標」という)の商標権を侵害した疑いがあると主張して、法院に訴訟を提起した。広東省広州市海珠区人民法院(以下、「海珠法院」という)は、葉孟宗が商標権を侵害していると認定し、シャネル社へ経済的損失等に対する賠償として計6万人民元の支払いを命じる判決を下した。葉孟宗は第一審判決を不服として、広州知識産権法院に上訴を提起した。広州知識産権法院は、審理した後、葉孟宗はシャネル社の商標権を侵害していないとの第二審判決を下した。
当該事件の第一審の訴訟が提起される前に、原広東省広州市海珠区工商行政管理局(以下、原海珠区工商局という)は、葉孟宗による侵害商品の販売行為に対して8万人民元の罰金を科した。葉孟宗は既に罰金を支払い、処罰決定に対して復議の申立て又は訴訟の提起をしなかった。
実務では、他人の商標を自社商品の形状とし、当該商品を生産、販売することが、商標権者の商標権を侵害することになるかどうか、また商品の形状は商標侵害の対象となり得るかどうかなどの問題について、ずっと論争がある。商品の形状が登録商標に類似する場合、当該商品が商標権侵害に当たるかどうかを判定するには、先ずそれが商標的使用に当たるかどうかを判断し、次に消費者を惑わせ、混同を生じさせ、消費者に侵害疑義商品が商標権者の商品であると誤認させる状況が存在するかどうかを判断する必要がある。
2014年7月、葉孟宗はジュエリーショップを設立して、「周百福」ブランドのジュエリーを販売するようになった。2016年6月7日、原海珠区工商局はある会社からの情報を受け、葉孟宗が経営する店舗に対して検査を行ったところ、侵害疑義商品を発見した。シャネル社の代理人が現場で鑑定を行い、当該商品が係争商標の商標権を侵害していることを確認した。同じ日に、原海珠区工商局は立案して取り締まることを決定した。2016年9月30日、原海珠区工商局は『行政処罰決定書』により、葉孟宗による商標権侵害を認定し、8万人民元の罰金及び関連商品の没収を決定した。
続いてシャネル社は、商標権侵害を理由として、葉孟宗に対して経済的損失などに対する賠償として10万人民元の支払いを求めて、海珠法院に訴訟を提起した。これについて、葉孟宗は、「事件に関与した店舗は香港周百福珠宝国際集団有限会社のブランド「周百福」の加盟店であり、販売する商品は周百福に送って検査に合格した後、周百福のタグを付けるため、関連商品にはシャネル社の登録商標を使用していない。また、事件に係る商品は計8件で、定価はわずか6,000人民元程で、しかも販売されたこともないため、シャネル社に何ら損失を与えていない」と主張した。
▓ 第一審判決
海珠法院は、審理した結果、「原海珠区工商局は『行政処罰決定書』により、葉孟宗がシャネル社の商標権を侵害したと認定した。したがって、葉孟宗の店舗が係争商標の商標権を侵害したというシャネル社の主張を認める。当該店舗は既に登録が抹消されているため、葉孟宗が経営者として当該店舗の債務を弁済する責任を負わなければならない。海珠法院はシャネル社の登録商標と商品の知名度、葉孟宗の権利侵害状況及びその事業の性質、事業範囲、事業規模、権利侵害の期間、権利侵害のエリア、侵害商品の価値などの要素を総合的に考慮し、事情を斟酌して葉孟宗に対し、シャネル社へ6万人民元の賠償金を支払うよう命じる判決を下す」とした。
▓ 第二審の判決結果:第一審判決の決定取り消し。
第一審の判決後、葉孟宗は判決を不服として広州知識産権法院に上訴を提起した。葉孟宗は、シャネル社の代理人が現場鑑定を行って上訴人の商品(以下、係争商品という)を商標権侵害と認定した手続きには公信力がなく、また葉孟宗は行政処罰に対して復議の申立又は訴訟の提起をしておらず、行政機関の法執行に瑕疵などがある可能性があると主張した。
広州知識産権法院は、審理した後、以下のような判断を下した。
第二審の争点は、葉孟宗が経営する店舗が販売する係争商品は、シャネル社の商標権を侵害するかどうか、すなわち法律により商品の形状を商標権侵害であると認定することができるかどうかである。
これについて、商標的使用に該当するかどうかが、商品の形状が商標権侵害に該当するかどうかを確定するための基礎となるはずである。当該事件において、係争商品を購入する場所は葉孟宗が経営するジュエリーショップであり、当該ショップは周百福ブランドの加盟店でもある。当該事件の全体的な状況を総合的にみると、葉孟宗が経営するジュエリーショップが係争商品を販売していたときに、当該商品がシャネル社の登録商標に似ていることを利用して顧客を引き付けて商品を販売したなどの商標的使用を証明する充分な証拠を、シャネル社は提出しなかった。したがって、葉孟宗が経営する店舗が係争商品を販売することは、商標的使用に該当するという第一審判決の認定は客観的ではなかったため、法律に基づいて是正する。
次に、公衆に混同、誤認を生じさせることに当るかどうかが、商品の形状を商標権侵害として認定できるかどうかに直接に影響する。当該事件においては、葉孟宗が経営する店舗が係争商品を販売していたときに、消費者に誤認を生じさせたことを証明する証拠もなく、葉孟宗がその商品をシャネル社の商品として宣伝し、標記することによって、消費者にそれがシャネル社の商品であると誤認させて購入させたことを証明する証拠もなく、また一般的な知識水準を有する一般消費者が当該店舗の係争商品を購入する時に、購入するものがシャネル社の商品であると思いこむ情況が存在することを証明する証拠もない。
さらに、商品の形状が登録商標権を侵害するかどうかの認定は法律に基づいて厳しく認定しなければならない。当該事件においては、葉孟宗が経営する店舗が係争商品を販売するときに、シャネル社の登録商標に似た商品の形状を「商標的使用」して、シャネル社の商品であると消費者に誤認を生じさせる状況が存在することを証明する証拠がない以上、法律に基づき被告が商標権侵害に該当すると認定することはできない。
▓ 論評
本件の第二審の判決は、業界から高い関心を集めた。中国の学者・専門家は、第二審の処理に関する考え方は審判理念の革新の表れと考えている。商標、商品包装、装飾などの商業的標識の知的財産権については、保護範囲の区別性と柔軟性を両立させなければならず、そのためには商業標識間で充分な距離を保ちつつ、社会公衆が権利範囲外で自由に参考にし模倣することができるようにさせる。商標権侵害を認定するときは、権利者の利益と社会の公共利益のバランスを図り、商標権者の権利を不適切に拡大することによって市場秩序の規範の安定性に影響を与えることがないようにしなければならない。
しかし、国際化の観点からすると、第二審判決は、「他人の平面商標の立体化」が商標権侵害に該当する可能性を否定し、また「商品形状は商標的使用でない」、「公衆に混同・誤認を生じさせなければ権利侵害に該当しない」などの正しいようでいて正しくない理由で第一審の判決結果を否定している。もし第二審判決の理由が成立したら、全ての権利侵害の偽物は商標的使用でなくなり、消費者にとって、商品の販売価格に天と地の差があれば混同誤認を生じる可能性がないため、商標権侵害にならないとしたら?このような荒唐無稽な結論で納得させることは難しいだろう。広州知識産権法院の第二審判決は、ただメーカーの剽窃模倣行為を正当化するための言い訳に過ぎない。 |