混同誤認又は商標の希釈化
―商標法第30条第1項第11号の 前段、後段における
「著名」の異なる定義付け―
商標法第30条第1項第11号には、他人の著名な商標又は標章と同一又は類似し、関連公衆に混同誤認を生じさせる虞があるもの、或いは著名な商標又は標章の識別力又は信用を損なう虞があるものの場合は、登録することができないと明記されている。
商標の主な機能は、特定の商品又は役務の出所を識別することにある。つまり、消費者に将来同様の需要が発生したときに、過去の消費経験を素早く思い出して、所望の正確な商品を見つけられるよう、消費者に購入しようとする商品又は役務を正確に識別させることである。そのため、商標の識別機能を損なったり、元々購入するつもりのない商品を購入するように消費者を誤導したりすることは、法律上許されない。著名な商標の識別力及び混同誤認の問題に関しては、特にそうである。言い換えれば、他人の著名な商標又は標章と同一又は類似する商標(以下「後願商標」という)の登録が、その著名な商標(以下「先行商標」という)の識別機能を損ない又は消費者に混同誤認を生じさせる虞がある場合、商標法では、このような同一又は類似する後願商標の登録を認めていない。また、保護を受ける商標は識別力を有していなければならないが、それは商標が商品又は役務の出所を指し示し且つ他人の商品又は役務と区別する特性を有していなければならないことを意味しており1 、後願商標が、先行商標の識別力を減損(希釈化ともいう)させ、先行著名商標の有する他人の商標又は役務と区別する強烈な特徴を減殺させるものの場合、法律はそのような後願商標の登録を禁止している。
商標法施行細則第31条には、商標法にいう著名とは、関連の事業者又は消費者に既に広く認知されていると認定するに足りる客観的な証拠があるものをいうと規定されている。言い換えれば、施行細則では、商標が使用される「関連」の事業者層に知られていることが著名の要件として採用されているが、「他の分野の一般消費者に知られている」という要件は採用されていない。前者は著名性が比較的低いものであり、後者は著名性が比較的高いものに属すると考えられる。
最高行政裁判所は、商標異議事件の上訴審の101(2012)年度判字第47、48号の判決において「(改正前)商標法第23条第1項第12号(現行の商標法の規定と同じ)にいう著名とは、関連の事業者又は消費者に既に広く普遍的に認知されていると認定するに足る客観的な証拠があるものをいい、下級裁判所が、商標の著名性が一般公衆に広く普遍的に認知されているほど高い場合に始めて第23条第1項第12号後段の規定が適用できると認定したことには何の根拠もない」との見解を示した。この判決では、条文の字句に対し厳格な文理解釈が行われた。つまり、法文の字句通りの意味を適用し、先行商標が希釈化される虞がある場合、当該先行商標の著名性が既に関連の事業者、消費者に知られている程度に達していることを証明できれば、商標法における著名な商標に関する保護を受けることができ、証明できなければ、後願商標の登録が認められるとしたのである。
それ以来、実務界では商標法施行細則第31条における商標法第30条第1項第11号の「著名」に対する定義について議論が行われた。その法律問題の核心は「著名な商標又は標章の識別力又は信用を減損する虞に関する保護は、その商標又は標章が一般消費者に普遍的に認知されている必要があるか」である。そのため、最高行政裁判所は2016年11月の第1回庭長(裁判長)裁判官合同会議で議案として取り上げて討論を行った。合同会議では、その議案について肯定説と否定説とに意見が分れた。
肯定説は、「双方の商標の商品又は役務のマーケットセグメンテーションが異なり、営業上の利益対立も顕着でない場合、消費者はそれを同一又は関連する出所由来のものと誤解することはないものの、係争商標が登録されると、引用商標の識別力又は信用が損害を受ける虞がある。これは商標希釈化に関する保護規定によって解決すべき問題である。このような商標保護は営業上の利益対立が顕着でない市場に跨ることから、自由競争に大きな影響を及ぼし、特定の文字、図形、記号又はこれらの組み合わせを独占する危険性がある。このような危険を減らすために、商標希釈化に関する保護は著名性が比較的高い商標に限るべきである」というものである。
一方、否定説は、文理解釈のとおり、施行細則第31条における商標法第30条第1項第11号の著名に対する定義について、関連の事業者、消費者が認知していれば、それで充分であるというものである。
合同会議では肯定説が採用され「商標法第30条第1項第11号の前段、後段における著名な商標の著名性は、異なる解釈とする。前段は混同誤認の虞の状況に適用し、関連消費者のみに知られている商標と解釈するべきであり、後段は商標希釈化の状況に適用し、関連消費者のみならず一般消費者に知られる程度にまで達した商標でなければならないと解釈すべきであり、そうして始めて立法目的に合致するとともに、消費者と商標権者の保護バランスが保たれ、市場の公平な競争を維持することができる。したがって、商標法施行細則第31条に規定する「著名」の定義は、「目的に応じた縮小解釈」とし、商標法第30条第1項第11号の前段にのみ適用して、商標法第30条第1項第11号の後段における著名な商標には適用すべきではない」との決議がなされた。
これ以後、裁判所は商標法第30条第1項第11号の前段、後段に関わる事件の審理では、著名性の要求で高低異なる基準を採用するようになった。最高行政裁判所が商標異議事件について下した106(2017)年度判字第608号判決がその1例である。最高行政裁判所はその判決で「商標登録が商標法第30条第1項第11号の後段に違反するか否かを判断する際、いわゆる著名な商標が「一般消費者に広く」普遍的に認知されていると認定するに足りる客観的な証拠があるものの場合は、商標法施行細則第31条を適用しない。下級裁判所は後願商標の101(2012)年の登録出願前に、先行商標の指定役務に表わされた信用が既に関連の事業者及び消費者に広く認知されていると認定したが、一般消費者に広く認知されているか否かについての判断は行わなかったため、前掲の判断基準とは異なる」との見解を示した。また、ここ数年の知的財産裁判所106(2017)年度行商訴字第76、87、88、89、90号などの判決における「著名」の定義でも、異なる判断基準が採用されている。
上述をまとめると、商標法第30条第1項第11号前段は「混同誤認」を規範するものであり、前段でいう著名とは関連消費者の間で著名であるもの(低い著名性と考えられる)をいい、その目的は関連範囲内の公衆を保護することにある。一方、後段は「商標の希釈化」を規範するものであり、後段でいう著名とは、一般消費者の間で著名であるもの(高い著名性と考えられる)をいい、基準を引き上げるとともに、著名な商標の区分を跨いだ独占排他権を制限しており、その目的は著名な商標自体を保護することにある。著名な商標の権利者が本規定の後段に基づいて権利行使するときは、後願商標の登録を確実に防止するためにも、分野を跨いで公衆に周知されたことを証明できる証拠をより多く準備し提出すべきである。
1 商標識別力審査基準、P1参照。
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