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中国 
最高人民法院、ディオール(Dior)
香水瓶の立体商標行政紛争事件で
一、二審判決を取消す

 

【出典:中国企業知識産権網】

 フランスの有名ブランドであるディオール(Dior)の「ジャドール」香水瓶(右図参照)は、国際商標登録出願をして、商標登録を受けた後、中国を領域指定した。係争商標出願は、国際登録第1221382号商標であり、出願人はパルファン・クリスチャン・ディオール(Parfums Christian Dior)(以下、「ディオール社」という)、指定商品は第3類の香水等である。

 香水の商標は中国では未登録

 20148月、ディオール社は「ジャドール」の香水瓶について、国際登録出願をし、『標章の国際登録に関するマドリッド協定』、『標章の国際登録に関するマドリッド協定の議定書』の関連規定に基づいて、WIPO国際事務局(以下、国際事務局という)を通じて、オーストラリア、デンマーク、フィンランド、イギリス、中国などを領域指定した。

 2015713日、元国家工商行政管理総局商標局(以下、商標局という)は、国際事務局に「出願に係る商標は識別力に欠ける」という理由で、全ての指定商品の中国を領域指定した商標登録出願を拒絶するとした拒絶査定書を送付した。ディオール社はこれを不服として、商標評審委員会に復審(拒絶査定不服審判に相当)を請求したが、商標評審委員会は拒絶査定を維持する決定を下した。

 その後、ディオール社は、「ディオール社の出願に係る商標は、既に国際登録出願手続きにおいて、商標行政管理部門が審査の基礎とした普通商標ではなく、色を指定した立体商標であると確定しているため、訴訟に係る決定の審査の基礎は明らかに誤っている。また、出願に係る商標は、デザインがユニークで、中国市場で既に広く宣伝され、使用されており、多くの国で商標登録されているので、中国での登録も認められるべきである。」ことを理由として、行政訴訟を提起した。しかし、中国の一審、二審法院は何れもディオール社の主張を認めなかった。ディオール社は二審の判決を不服として、中国最高人民法院に再審を請求した。

 中国最高法院は商標評審委員会の決定を棄却

 2018426日、中国最高法院は、ディオール社と商標評審委員会の商標拒絶査定復審行政紛争事件について、公開審理を行って判決を言い渡した。最高人民法院は判決で、「商標評審委員会が下した訴訟に係る決定は、行政手続きの正当性原則に違反しており、行政行為の相手方の合理的な期待利益を害するおそれがあり、一審、二審法院がこれを是正しなかったのは不適切である。」との見解を示して、一審、二審の判決を取消し、商標評審委員会に係争商標に対して改めて復審の決定を下すよう命じる判決を下した。

 裁判での双方の主な論点は二つあり、一つは、訴訟に係る決定が法定手続きに違反するかどうか、もう一つは出願に係る商標が識別力を有するかどうかである。

 法定手続き違反の点について、最高人民法院は、審理した結果、「商標局は、ディオール社が国際登録手続きにおいて商標の類型に対して出した声明を正確に記載しておらず且つディオール社に合理的な補正の機会を与えなかった。当事者の請求及び事実の根拠が欠けている状況で、直接出願に係る商標の類型を普通商標に変更し、ディオール社に不利な審査結果を出した。商標評審委員会が、ディオール社が明確に異議申立をしたにもかかわらず是正しなかったことは、行政行為の相手方の合理的な期待利益を害するおそれがあり、行政手続きの正当性原則に違反する。」との見解を出した。

 出願に係る商標が識別力を有しているか否かの問題について、最高人民法院は、審理した結果、「商標評審委員会は中国を領域指定した商標登録出願に対し、審査をやり直さなければならない。商標局、商標評審委員会は審査をやり直す際に、出願に係る商標の識別力と使用により獲得した識別力、そして、審査基準の一致性原則という二つの要素を考慮しなければならない。」とした。

 本件の意義:平等に国内外の企業を保護

 最高人民法院は判決において、「ディオール社は既に『標章の国際登録に関するマドリッド協定』などの規定に基づき、出願商標の国際登録手続きを完了し、中国商標法実施条例に規定された必要な声明及び説明責任を果たしており、出願書類で一部の図面などの形式的要件のみが不足しただけである。このような場合、商標行政管理部門は、商標の国際登録手続きの特殊性を十分に考慮し、国際公約の義務を積極的に履行するという理念を持って、出願人に合理的な補正の機会を与え、ディオール社の中国国内における商標国際登録出願人の合法な権益を十分、平等に保護しなければならない。」と指摘した。

 本件について、最高法院が原判決を取消したことは、中国が『標章の国際登録に関するマドリッド協定』の中国国内における国際公約の義務を積極的に履行していることを反映しており、しかもちょうど世界知的所有権の日にこの事件の公開審理及び判決の言い渡しが行われたことも非常に意義がある。本件の判決により、商標の国際登録、領域指定に関する手続き及び実体的問題がより明確になり、今後中国の商標行政管理部門がどのように正確に関連手続き、規範を適用して、商標国際登録出願を処理するかに対して重大な影響を与えることになり、中国国内手続きと国際手続きとの協調及びその処理についても重要な参考的意義を持っている。

 分析:中国の国際商標登録関連手続きは改善が必要

 実のところ、本件が一部図面の欠落などの形式的要件で、中国で商標権を取得できない理由は、主に『標章の国際登録に関するマドリッド協定』と中国国内の法律との連結問題という手続き上の問題に関わっている。

 『標章の国際登録に関するマドリッド協定』及びその他の関連する国際公約の規定により、中国では商標出願人が国際出願登録を通して中国を出願対象国に指定すること、すなわち領域指定することが認められている。中国商標法実施条例(以下、『本条例』という)の第43条には、商標出願人は、商標がWIPO国際事務局の国際登録簿に登録された日から3ヶ月以内に、元国家工商行政管理総局商標局(以下、商標局という)に対し本条例第13条に規定する補充書類を提出しなければならないと規定している。実務上では、一般的に、商標局が国際登録出願を受理した後、商標出願人は商標局に対し上記条例第13条に規定する補充書類を提出することができる。

 現在の手続きでは、中国商標局は国際商標登録出願の審理手続きを開始する時に、商標出願人に直接知らせないため、出願人は当該国際登録出願が中国国内に移行して審査手続きが開始された正確な時期を即時に知ることができない可能性が高い。出願人が国際出願の拒絶を知った時には、恐らく上記第43条に規定する期間が満了間近となっているか若しくは既に満了している。こういう場合、商標出願人は最初の段階で審査手続きに参加できず、補充書類を提出することができない結果になる可能性がある。本件の場合、ディオール社が審査手続きにおいて、定められた期間内に立体商標の正投影図を提出しなかったのは、こういう状況にあった可能性が非常に高い。

 商標局、元国家工商行政管理総局商標評審委員会(以下、商標評審委員会という)または法院が、出願人が中国商標法実施条例第43条に規定する3か月の期限を遵守しなかったことを理由に、その出願を拒絶した場合、確かに行政法執行の正当な手続き原則に違反することになる。中国最高人民法院は国際公約の精神に則り、判決において、この手続きの連結問題を指摘し、商標評審委員会に商標出願人の手続き上の利益を保障することを求めたことは、非常に必要且つ合理的なことである。国際商標登録手続きと中国国内の手続きとの連結制度を改善するための具体的な選択はたくさんある。例えば、国際登録出願人に中国国内審査手続きの開始日及び補充書類の提出期限を即時に通知したり、出願が拒絶された後に出願人が提出する補充書類ついて緩和することなどである。

 この事件は、国際商標登録と中国国内の関連手続きとの連結問題に対して、細かく再検討するきっかけとなり、特別な意義がある。

 

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