中国企業が知的財産権海外戦略で直面する5つの課題
中国は企業に「海外進出」を奨励しているが、現在、知的財産権の海外戦略は依然としてニーズに十分対応できていない。企業が海外で知的財産権紛争に巻き込まれた場合、権利維持のためのコストは非常に高く、また、直面する課題には技術標準における専利(特許、実用新案、意匠を含む)、技術の導入または専利が許可査定される過程における修正などが含まれ、全ての段階で企業の対応能力が試される。
国家知識産権局保護協調司長の黄慶司長は次のように述べた。
一、現在、中国企業の海外専利戦略は依然として非常に薄弱である
企業の知的財産権保護意識は明らかに向上しているが、例えば、半導体、通信技術、ハイエンド機器製造などの国際競争が熾烈で技術集約度の高い分野において、中国企業の海外知的財産権の蓄積は依然として薄弱で、価値のある専利はあまり多くなく、このことが企業の「海外進出」を妨げる障壁の一つとなっている。
WIPOの統計によると、2013年の中国から外国へ出願された特許出願数は29,211件あり、中国の出願人が出願した特許出願の総数の僅か3.98%であった。一方、アメリカ、日本、ドイツ及び韓国から外国へ出願された特許出願数は、それぞれ214,072件、201,528件、110,914件及び63,552件で、その国の出願人による特許出願の総数に占める割合は、それぞれ42.65%、42.58%、60.0%及び28.43%で、中国企業の外国出願数と先進国を比較すると、明らかに大きな開きがあることが分かる。
この他、中国企業がM&Aや新規出願等の方法によって海外専利を取得した状況もあまり多くない。2013年の外国における中国専利出願の許可査定件数が10,970件なのに対し、その年の貨物の輸出額は2兆2100億ドルで、極めて不均衡な状態にある。製品は「海外進出」しているものの、専利がそれに追いついていないことで、企業がイノベーション成果を模倣されるリスクに晒され、専利というカードが不足しているため競争において不利な状況に直面する可能性がある。ただ、このような不利な状況は年々好転傾向にある。中国の外国への専利出願数は毎年急速に成長しており、2014年の中国のPCT出願数は前年比14.2%増の2.6万件であった。
二、現在中国が抱える5つの知的財産権問題
(一)海外の知的財産権訴訟の脅威
「337調査(米国の関税法第337条による調査)」などの貿易紛争及び各種知的財産権訴訟のような海外の知的財産権裁判の賠償金額は非常に高く、しかもますます高額になる傾向にあり、訴訟コストも驚くほど高額である。米国を例にとると、企業の知的財産権訴訟費用は平均で500万ドルにも及び、言語などの要素も加えると費用は更に高くなる。このため、中国企業は国際化していく過程において、知的財産権紛争で訴訟を提起しなければ高額な賠償金を払わなければならない虞があり、訴訟を提起すれば、高額な訴訟費用を支払わなければならないというジレンマに往々にして陥っている。
(二)技術標準における知的財産権障壁に対する対策の欠如
技術標準における専利障壁は電気通信及び半導体などの分野で最も顕著である。ある標準は大量のコア専利に関連しており、サプライチェーンに組み込みたければ、標準を採用する必要があるが、標準を採用すれば専利使用許諾に及ぶことになる。しかし、中国企業はこの方面の問題に対する意識、能力、手段のいずれもまだ非常に弱い。
(三)技術導入の過程で絶え間なく起こる知的財産権問題
中国企業は技術導入又は専利使用許諾過程において多くの知的財産権問題に遭遇する。例えば、契約中に不合理な技術実施制限が盛り込まれたり、その技術を基にした改良の禁止や改良により生じた知的財産権は有することができないなどの制限条項が盛り込まれたりすることである。このほか、専利使用許諾料の徴収方法も不合理なものがある。例えば、相手方はある一つの部品の専利しか持っていないのに、中国企業に対し機械全体の価格の割合に基づいて使用許諾料を要求したり、また、外国企業が中国企業に売った又は使用を許諾した知的財産権に無効又は非必須の専利が混じっていたりする。
(四)知的財産権の付加価値が実用化できない
企業が「海外進出」していく過程において、知的財産権戦略に欠けるために、製品の知的財産権付加価値を実用化することができず、利潤率が低くなり、延いては損になる。例えば、中国の太陽光発電(つまり、太陽光発電システム)企業が2012年に輸出した製品の粗利率は1%以下になり、価格戦に陥ってしまい、これは知的財産権貿易調査及び反ダンピング調査に非常に繋がりやすくなる。
(五)知的財産権保護が一定レベルに達していない
現在、中国の多くの企業が「海外進出」する過程において、他人に模倣され又は権利侵害されて損失を被っている。調査によると、貿易相手国において自身の製品が他人に模倣されたことで輸出に影響が出た割合は24%に達し、また海外で他人に模倣され権利侵害されたために訴訟を提起して自発的に権利保護をした割合は29%であった。
三、企業の知的財産権が不利な立場にある原因として以下の点が挙げられる。
(一)企業自身の認識力不足。
(二)企業が入手できる海外の知的財産権情報には限りがある上、言語障壁があったり手続きに精通していなかったりする。
(三)高レベルな知的財産権に対し専門サービスが追いついていない。
(四)リスクの防止やコントロールが一定レベルに達していない。
四、企業の「海外進出」に対する中国政府の支援方法
(一)企業の認識力不足については、政府が一連の研修を行う。
(二)海外情報の入手困難な問題については、政府が企業の国際化発展のための知的財産権情報プラットフォームを構築し、必要な海外知的財産権動向の情報、環境情報、法律情報、実務情報などをまとめて整理し、2015年に正式に利用可能にする。また、企業が他国の知的財産権制度を理解し、利用するための一連の実務ガイドラインを作成した。
(三)高レベルな知的財産権に対し専門サービスが追いついていない問題については、政府が一連の知的財産サービス機関養成プログラムをスタートさせる。
(四)2014年末、国務院は「国家知識産権戦略行動徹底実施計画(2014-2020)」を発表し、知的財産権戦略徹底実施について計画を出したが、そのうち企業の「海外進出」支援についても明確な計画を出した。 |