「云(stylized)」商標出願の拒絶査定処分に対し、知的財産裁判所が知的財産局に敗訴の判決
ケイマン諸島のAlibaba Group Holding Ltd(以下、アリババグループ)は、2011年7月15日に「云(stylized)」商標について、当時の商標法施行細則第13条に定められた商品及び役務区分表の第9類、第16類、第35類、第36類、第38類、第39類、第41類、第42類の商品/役務を指定商品/指定役務として、知的財産局に登録出願をした。知的財産局は審査の結果、係争商標の図案は、商品の関連消費者に、商品を表彰する標識であると認識させるに足るものではなく、かつ他人の商品と区別できるほどの識別力を有していないため、拒絶査定すべきであるとして、2012年6月21日付第0339911号査定書で拒絶査定の処分を下した。アリババグループはこの処分を不服として、訴願を提起したが、経済部が2012年10月3日付経訴字第10106112930号で棄却の決定を下したため、アリババグループは知的財産裁判所に行政訴訟を提起した(101年度行商訴字第178号)。
◎知的財産局が登録を不許可とした理由
1. 本件商標は、1文字の「云」を商標図案として、商標の使用について各種商品及び役務を指定して登録出願した。消費者に与える認識、印象は無形のインターネット機能を運用して商品及び役務を提供するというものであり、商標とはみなされず、商標の出所識別機能を備えない。
2. 現在、台湾と中国の文化及び経済交流は頻繁に行われ、多くの人は簡体字をある程度理解している。「雲」もよくある字だが、一般の消費者は「云」と「雲」が同義語であると容易に理解できる。例えば「体」と「體」、「台」と「臺」などは、いずれもよく見かける簡体字である。商標の識別力の有無、強弱は通常、商標が実際に使用される状況や時間の経過によって変化するが、特に、今日のマーケティング手法の目まぐるしい変化や、デジタルメディアテクノロジーの急速な発展により、商標の形態及び使用方法は絶えず発展し、識別力の判断に極めて大きな影響を与えている。今日、クラウドテクノロジーの発展に伴い、「雲(クラウド)」の一字は既に各種の記述文字との組合せがよく見られ、それはインターネットで提供される商品又は役務であることを表彰している。例えば、「雲空間(クラウドスペース)」、「雲遊戯(クラウドゲーム)」、「文件保全雲(文書のクラウド保存)」、「郵件服務雲(クラウドメールサービス)」、「商務辦公雲(ビジネスクラウド)」等である。
3. アリババグループの創業者である「馬云」氏の知名度は高いものの、登録第01431363号の「馬云」は既存の語彙又は事物を援用したものではなく、それ自体特定の既存の意味を含まない独創性のある商標に属し、本件の商標図とは異なる。登録第01480915号の「Alibaba cloud logo」については、本願のデザインの意図とは異なるものに属し、また「商標審査個別案件拘束の原則」により、本件を登録すべきとする論拠として援用してはならない。
4. 本件商標は既にシンガポール、香港などで登録査定された事実があるが、各国それぞれ国情も、法制度も異なるので、本件を登録すべきとする論拠としてはならない。
◎アリババグループの主張
(一)係争商標は先天的識別力を有する
1.係争商標は任意的標識である
「云」は固有の意味を持ち、指定商品又は指定役務の記述的文字ではない。中国語の「云」は固有の語彙であり、特定の意味を持つ。これらの意味と、係争商標が商標使用において指定する各種商品及び役務とは何の関係性もなく、指定商品又は指定役務そのもの又は品質、機能又はその他特性を説明するものではなく、指定商品又は指定役務の関連情報を伝えるものでもないため、識別力を有する任意的商標に属する。
また、係争商標図は、デザインされていない単純な文字ではなく、特殊なデザインが施された文字デザイン図で、人に丸くてユニークという印象を与えるものである。その図形化されたデザインは、消費者に容易にブランドの図案であるとの印象を与え、容易に商標とみなされるため、商品又は役務の品質、特性などを記述した説明的文字であると誤認させることはない。
2.係争商標は暗示的標識である
(1)「云」は「雲」ではない:商標が識別力を有するか否かの判断は、我が国の民衆を基準とすべきである。中国の簡体字では確かに「雲」は「云」と表記されるが、「雲」の意味は決して「云」と同一というわけではない。しかも、台湾で使用されている文字は繁体字であり、台湾の消費者は係争商標図の「云」を見たとき、「云」の意味を「言う」、「のように」、「等々」等と考え、天空の雲を意味するとは考えない。
(2)「云」は「雲端科技(クラウドテクノロジー)」ではない:たとえ我が国の消費者が「云」を見たときに、「雲」の簡体字であると認識したとしても、中国語の1文字「雲」は、一般消費者の理解からすると、天空の雲を意味するはずである。インターネットテクノロジーに関連する文字を組み合わせて使用しない限り、中国語の1文字「雲」だけでは、人は「雲端科技(クラウドテクノロジー)」を意味しているとは考えない。
たとえ消費者が高度な想像、思考を働かせて「云」が「雲端科技(クラウドテクノロジー)」の意味を表すと推定し、係争商標の商品又は役務が無形のインターネット機能の運用により提供されるものを表していると更に推測したとしても、これらの状況は暗示的商標に属するもので、商標の識別力を有しており、登録してはならないものではない。
(二)係争商標は後天的識別力を有する
1.係争商標はアリババグループによる広範な使用で、取引上既にその商品又は役務の識別標識となっており、後天的識別力を有している。
2.アリババグループの創業者兼CEOである「馬云」氏は、世界的に知名度が非常に高い。権利保護のために、その氏名である「馬云」は既に台湾で第1431636号として商標登録されている。また、その名前の「云」のデザインは、二つの異なる形態で商標登録出願されており、そのうち一つは既に、第1480915号として商標登録され、もう一つが、即ち係争商標である。
3.アリババグループは既に広く係争商標図を使用している。
(1)アリババグループは2011年7月28日から係争商標の第一代目「阿里云」スマートフォンの正式な販売を開始した。消費者から高い支持を得て、2012年5月までの販売台数は既に100万台を突破した。2011年10月からアリババグループは「阿里云」携帯の販売広告を始め、既にインターネット上に広がり、再生回数は100万回を超えている。2011年10月24日に中国の杭州で、第1回「中国インターネット無線化トップ会議及び阿里云開発者総会」が開かれた際に、アリババグループは係争商標を使用したタブレットPC及び次世代「阿里云」携帯電話等の関連情報を発表し、各大手メディアやウェブサイトは紙面を大きく割いて詳細に報道した。アリババグループの関連ウェブサイトでも紹介されている。
(2)係争商標は、手提げ袋、封筒、ファイル、前述の総会スタッフの食事券や招待状、スタッフの制服、英文のサービスガイド、卓上カレンダー、USBメモリケース、雑誌及び商品カタログ等の物品にも使用されており、これによって、アリババグループの商品及び役務の信用が表彰されている。現在、台湾と中国は、文化・経済交流も頻繁で、インターネットでの情報伝達速度は非常に速いことから、台湾の消費者は既に係争商標を知っているはずである。
4.係争商標は使用されていることにより、既にアリババグループの商品又は役務の識別商標となっている。
アリババグループが提出した「阿里云」携帯電話及び「阿里云」タブレットPCには、いずれも極めて大きく且つ鮮明な文字で商標図が表示されており、またアリババグループの商品、ウェブサイトのいずれにも係争商標の図案が各種物品に表示されていることを示す写真がある。したがって、消費者は係争商標がアリババグループの商品及び役務を表彰する標識であると認識することができる。
(三)二つの商標には差別待遇の疑いがある
アリババグループは2011年10月16日に登録した第1480915号「Alibaba cloud logo」の商標権を取得した。該商標図は中国語の1文字「云」のみで構成され、かつ係争商標と同様に第9、16、35、36、38、39、41、42類の商品及び役務を指定商標及び指定役務としている。字体のデザインは多少異なってはいるが、消費者に与える印象は同じ中国語の1文字の「云」であり、当該商標と係争商標の状況は完全に同じであると言える。知的財産局が、当該商標の登録を許可したにも関わらず、係争商標の登録を許可しないのは、明らかに正当な理由が無く、差別待遇の状況を有し、行政手続法第6条の平等原則に反している。
(四)係争商標は、同じ中国語を使用するシンガポールと香港において既に登録査定されていることから、係争商標は識別力を有し、商標の登録要件を満たしていると言える。
◎知的財産裁判所の審理の結果
知的財産裁判所は、審理の結果、訴願決定及び原処分を取消すとともに、係争商標登録出願について、該裁判所が下した判決の法的見解に基づき、別途処分を下すべきとして、知的財産局に対し敗訴判決を下した。判決の理由は以下の通りである。
1. 係争商標は2011年7月15日に登録出願し、2012年6月21日に「登録をすることができず、拒絶査定すべき」との査定が下されたが、それに対し訴願決定及び原処分の取消と、原処分を下した機関に係争商標の登録許可を命じることを求めた行政訴訟を提起した。この訴訟は性質的に義務付け訴訟に属し、適用すべき法律は口頭弁論終結時を基準とする。本事件は2013年3月6日に口頭弁論が終結したため、係争商標の出願を登録すべきか否かの判断は、2011年6月29日に改正公布され、2012年7月1日に施行された商標法に基づき判断されるべきである。
2. アリババグループが出願した2つの商標(登録第1480915号商標及び係争商標)は、いずれも中国語の「云」を有する共通の図形で、字体のデザインは多少異なっているが、消費者に与える印象は同じ中国語1文字の「云」であり、前者が既に登録査定されていることから、知的財産局がこの図形に相当の識別力があると認めたことが分かる。したがって、係争商標の中国語の「云」文字での出願登録について識別力に欠けると判断したことは、法令及び行政の自己拘束の原則に従っておらず、恣意的であることが疑われる。
3. 中国語文字の「云」は、国語日報辞典に5種類の解釈がある。審査の結果、これらの意味は、係争商標が商標使用を指定する各種商品及び役務とは何の関連もなく、指定商品又は指定役務そのもの又はその品質、機能又はその他特性を説明するものでもなく、また指定商品又は指定役務の関連情報を伝えるものでもなく、識別力を有する任意的商標であるとすべきである。
4. 係争商標図は、デザインの施されていない単純な文字ではなく、特殊 なデザインが施され、毛筆書体の丸く平らではない書き方で表現され、丸くてユニークという印象を与える。その図形化されたデザインは、消費者に容易にブランドの図案であるとの印象を与え、容易に商標とみなされ、それが商品又は役務の品質、特性等を記述した説明的文字であると誤認させることはない。しかも、中国語の「云」という文字は、上記の商品及び役務とは直接的、密接的な関連がなく、当該中国語の「云」文字が、善意の競合他社の一般の取引過程において、商品又は役務そのもの又はその品質、機能又はその他の特性に関する説明の表示に用いられる可能性のあるものでもない。したがって、係争商標図形は明らかに相当な識別力を有し、その認識度は低いとは言えず、その他の第3者の同類商品の特色とは明らかに異なり、他人が提供する商品又は役務と区別するに足るものである。
5. 係争商標は、当時の商標法施行細則第13条に定める商品及び役務区分表第9類の商品だけを指定しているのではない。その他の類別の商品及び役務が「雲端(クラウド)」商品又は役務と直接的、密接的に関連しているため識別力を有さないと判断した、その判断基準はどういったものなのか、知的財産局はその区別を明確にしていない。つまり係争商標が全ての指定商品及び指定役務において、いずれも識別力を有しないとする認定は誤りである。
6. 中国語の1文字「云」は、一般消費者の理解によれば、天空の雲を指す。インターネットテクノロジーに関連した文字を組み合わせて使用しなければ、中国語の1文字「雲」は人に「雲端科技(クラウドテクノロジー)」を意味しているという印象を与えることはない。知的財産局が、係争商標図の「云」は「雲端科技(クラウドテクノロジー)」であると解釈し、更に消費者に与える認識、印象は無形のインターネット機能が提供する商品及び役務であり、それは商標とは見なされないと認定したことは、推測の域を出ず、思考の飛躍の結果である。たとえそうであるとしても、この種の商標は暗示的商標であるとすべきで、依然として商標の識別力を有している。
7. 後天的識別力の獲得については、国内の関連消費者の認識を判断基準とすべきである。アリババグループが提出した新聞報道資料及びウェブサイトの内容は、いずれも中国メディアの阿里云の報道であるが、どれも我が国における実際の「云」商標の使用及び運営の報道ではない。その態様は、ほとんどが「阿里云aliyun.com」若しくは「aliyun.com」等との組み合せで、しかもホームページ又は梱包箱にしか使用されていないことから、消費者は、「阿里云」が商品又は役務の出所を示すものと理解はするが、一方、単独の「云」の文字が商品又は役務を表しているとする関連の証拠資料は数量が限られており、使用日付もないため、係争商標が長期に亘り大量に使用されることにより後天的識別力を獲得したと主張することは難しい。
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