酸梅湯(中華圏の一種飲料)を販売する男性、尤得城氏は、有名歌手である陳明章の同意を得ずに、「陳明章」の三字の名で会社を設立し、更に、2002年に知的財産局に商標を出願、酸梅湯など第32類商品への使用を指定し、2003年4月1日に商標を獲得した。尤氏は、「陳明章」の三字およびその写真を紙容器の上に印刷し、台北縣淡水鎮に「陳明章酸梅湯」店を開設した。つまり、「陳明章」の知名度を商業行為に利用したのである。
陳氏がこの件に気づき、消費者の誤認を避けるよう、2008年に、弁護士を通して、該酸梅湯およびそれに関する商品に、「陳明章」の文字を使用して「陳明章酸梅湯」を淡水で販売してはいけないと要求したが、その要求の書簡は退けられた。尤得城氏は、陳氏にロイヤリティを支払うつもりだと述べたが、双方の交渉は同意に至らなかった。そこで、陳氏は、士林裁判所に訴訟を起こし、尤氏が「陳明章」の三字およびその肖像を使用して酸梅湯などに関係する商品を販売しないこと、また、「陳明章」の商標を、譲渡することを請求した。これに対し、士林裁判所は、尤氏に敗訴の判決を下した。
尤氏は、答弁中、陳明章氏は(尤氏が設立した)「陳明章社」の株主で、会社は、合法的に成立したし、商標も合法的に登記、登録したので、尤氏は使用する権利を有している、と述べた。陳氏は、会社設立への参与を否認し、今まで、尤氏の会社名および商標の使用に、自分の氏名および肖像を授権すると同意したことはない、と述べた。
士林地方裁判所は審理後、尤氏は、漫画化した陳明章のデザインや陳明章という氏名を酸梅湯の紙容器上に印刷し、明らかに陳氏の姓名および肖像を商業販売手段として利益を追求し、民法第18条の人格権保護および第19条姓名権保護の規定に基づいて、すでに陳氏の権利を侵害していると認めた。もし、歌手の陳氏が本当に会社の株主であるとしても、尤氏は、その氏名および肖像を商業行為に使用することに対し、陳氏の同意を得たと証明できない。よって、判決は、尤氏の敗訴となり、尤氏は今後、酸梅湯の販売に「陳明章」を使用することができなくなり、該商標は、陳氏本人に譲渡すべきである。
商標法第23条第15号の規定によると、商標デザイン中において、他人の肖像または著名な氏名、芸名、ペンネーム、あだななどを有する場合は、その者の同意を得て出願、登録する場合を除いて、商標に登録できない、とある。このことから、商標デザイン中の姓名と出願者が異なり、権利侵害が発生し、真の権利人が、紛糾解決のため再度起訴を起こす必要のないように、出願人が、既に当該者から商標出願の同意を得ていることを証明するために、主務機関は、標出願人に対して、同意書を提出するよう要求するべきである。