台湾のパテントリンケージ制度の実施状況について
台湾で医薬品のパテントリンケージ制度が2019年8月20日に施行されて以来、ある程度の研究・検討できる事例が出てきている。先日、台湾知的財産研修学院は、各界への参考として、特許審査官が現行のパテントリンケージ制度の全体像、先発医薬品の特許権情報の登録の現状、およびこれまでの関連訴訟結果をまとめて執筆した記事を発表した。本稿では以下にその記事に基づいて分析する。
まず、パテントリンケージ制度の目的は、先発医薬品に係る特許権の存続期間内に、後発医薬品メーカーが後発医薬品を販売しようとする場合、当該特許権の侵害に該当するか否かを事前に明確にする制度である。具体的にいうと、主務官庁の食品薬物管理署が先発医薬品メーカーに医薬品許可証を発行したあと、当該先発医薬品の許可証の所有者は、パテントリンケージ制度の適用を受けるために、規定の期間内に先発医薬品に係る特許権の情報を提出しなければならない。2023年6月30日現在、主務官庁が構築した西洋薬のパテントリンケージ情報登録プラットフォームでは705件の先発医薬品許可証に係る特許情報が掲載されている。一方、後発医薬品メーカーは後発医薬品の許可証を申請する時に、先発医薬品に関連する特許権について、同時に主務官庁に「声明」を提出しなければならない。その「声明」について、通称「P4声明」と呼ばれる台湾薬事法第48条の9第4号には、「先発医薬品に対応する特許権は無効となるべき、または許可証申請に係る後発医薬品は先発医薬品に対応する特許権を侵害していない」と規定されており、これは先発医薬品メーカーと後発医薬品メーカーとの間で後発医薬品が先発医薬品に関連する特許権を侵害しているか否かについて潜在的紛争が存在していることを意味する。そのため、薬事法には、後発医薬品メーカーに対してP4声明を提出後20日以内に特許権者に書面で通知する義務を課し、特許権者は当該通知を受け取った後45日以内に特許権侵害訴訟を提起するか否かを選択することができると規定されている。特許権者が訴訟を提起しない場合には、後発医薬品メーカーは、将来販売しようとする後発医薬品に対し特許権者が特許権侵害を理由とした妨害排除請求権または損害賠償請求権を有しないことを確認する訴訟を提起することもできる。
2023年6月30日現在、提出されたP4声明は合計31件あり、そのうち、知的財産裁判所が作成した判決は下表の通り9件ある。先発医薬品メーカーが第一審で勝訴した件数は合計4件であり、44.4%の勝訴率は過去3年間の知的財産法院による民事訴訟の第一審勝訴率24.6%を上回っている。また、先発医薬品メーカーがP4声明を受け取って、後発医薬品メーカーを提訴した場合、主務官庁は、最長12ヶ月、後発医薬品の許可書発行を一時停止する。その12ヶ月という期間は、過去の知的財産権事件第一審の審理期間が約8ヶ月であったことを参考にし、パテントリンケージに関連する訴訟の第一審が12ヶ月以内に終結することができることを合理的に予想して決められた。その9件の判決によると、第一審は確かにすべて12ヶ月以内に終結したことが分かる。
先発医薬品
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係争特許
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先発医薬品メーカー
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後発医薬品メーカー
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資料完備日
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事件番号と判決年月日
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結果
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Ezetrol tablets 10mg
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TWI337076
TWI337083
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MSD
(原告)
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CCPC
(被告)
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2020/01/06
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109年度民専訴字第46号
2020/12/31
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原告勝訴
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Iressa film-coated tablets 250mg
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TWI271193
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AZ
(原告)
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Novartis(被告)
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2020/02/21
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109年度民専訴字第51号
2021/04/29
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原告敗訴
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Ezetrol tablets 10mg
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TWI337076
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MSD
(原告)
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TSH
(被告)
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2020/10/16
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110年度民専訴字第4号
2021/10/22
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原告敗訴
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Crestor film-coated tablets 10/20mg
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TWI238720
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AZ
(原告)
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TSH
(被告)
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2020/10/16
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110年度民専訴字第9号
2021/10/26
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第1審
原告勝訴
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111年度民専上字第9号
2022/07/21
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控訴審
原告敗訴
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Nexavar film-coated tablets 200mg
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TWI382016
TWI324928
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Bayer
(原告)
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Synmosa
(被告)
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2020/10/20
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110年度民専訴字第8号
2021/11/30
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第1審
原告敗訴
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111年度民専上字第6号
2023/06/29
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控訴審
原告敗訴
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Brilinta film-coated tablets 90mg
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TWI229674
TWI482772
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AZ
(原告)
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Standard
(被告)
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2020/11/02
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110年度民専訴字第11号
2021/10/25
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第1審
原告勝訴
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110年度民専上字第35号
2023/05/11
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控訴審
原告勝訴
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Mabthera solution for IV Infusion
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TWI380826
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Roche
(被告)
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Celltrion
(原告)
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2021/11/08
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109年度民専訴字第79号
2021/09/28
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第1審
原告勝訴
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110年度民専上字第31号
2022/05/26
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控訴審
原告勝訴
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上告審
審理中
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Rydapt 25mg soft capsule
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TWI324604
TWI302836
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Novartis
(原告)
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Lotus
(被告)
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2021/11/25
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111年度民専訴字第32号
2022/11/17
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第1審
原告勝訴
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控訴審
審理中
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Nexavar film-coated tablets 200mg
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TWI382016
TWI324928
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Bayer
(原告)
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Lotus
(被告)
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2022/04/12
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111年度民専訴字第51号
2023/04/10
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第1審
原告敗訴
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控訴審
審理中
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海外の制度を参考にしたパテントリンケージ制度導入の趣旨は、先発医薬品の特許権存続期間中にその特許情報を知らない後発医薬品メーカーによる特許権侵害のリスクを解消し、そして先発医薬品メーカーが特許権存続期間満了となるまで後発医薬品の販売を遅らせることができる制度を通して、両者の権利保護の調和を図り、バランスをとることにある。また、後発医薬品メーカーに研究開発や特許侵害回避の設計を促すため、後発医薬品メーカーがP4声明を提出した後、特許権者が特許権侵害訴訟を提起しなかった、または特許権者が提起した特許権侵害訴訟が棄却された場合、最初の後発医薬品には12ヶ月間の独占販売期間が付与される。つまり、主務官庁は独占販売期間満了前に他の後発医薬品の許可証を発行してはならない。そして、特許権者による当該制度の濫用を防止するため、後発医薬品の許可証の申請者に損害を生じさせた場合、当該申請者が特許権者に損害賠償を請求することができる措置も設けられている。パテントリンケージ制度導入の効果を分析するには、現時点で訴訟件数がまだ十分ではないが、最終的な目標は、製薬産業の発展を促進し、医薬品の使用に関わるすべての国民の権利と利益を保護することにある。
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