意匠権侵害事件における「一般消費者の注意を引きやすい部位または特徴」の
認定に関する最高裁の見解
2016年に改定された「専利権侵害判断要点」(以下「判断要点」という)によると、意匠権侵害の判断は大きく2段階に分かれており、まずは「意匠権の範囲の確定」、その次に「意匠権侵害の対比及び判断」であるとされている。その「意匠権侵害の対比及び判断」には、応用される「物品」が同一または類似であるか否かの判断と、「外観」が同一または類似であるか否かの判断が含まれる。そのうち、特に「外観」の判断は主観が入りやすいため、見解の相違が生じる可能性が高くなる。以下の意匠権侵害事件では、第一審で非侵害と認定され、そして控訴審では原判決が覆されて侵害成立とされたが、最高裁判所は異なる見解を示して、知的財産及び商業裁判所に事件を差し戻した。
前述した判断要点によると、外観が同一または類似であるか否かを判断するときには、「一般消費者」が実際に商品を選択・購入する観点から、局所の特徴の差異に拘泥するのではなく、「全体観察、総合判断」の方法で対比しなければならない。具体的には、まず、係争意匠権の各図面から構成された全体的内容と、それに対応する侵害被疑対象の特徴を観察し、両者の各特徴の異同を検討し、そして、「一般消費者の注意を引きやすい部位または特徴」を重点として、その他の特徴と組み合わせて、侵害被疑対象の「全体外観の統合的な視覚的印象」を構成し、それと係争意匠権との差異の特徴が侵害被疑対象の全体的な視覚的印象に影響を及ぼすに足らないものであれば、両者の外観は類似であると認定すべきである。そうでない場合、類似ではないと認定すべきである。ここで、不確定概念に属する「一般消費者の注意を引きやすい部位または特徴」とは、「先行意匠と明らかに異なる係争意匠の特徴」と「正常に使用した時に目に触れやすい部位」であると定義されている。この定義が実務でどう運用されているかについては、以下で説明する判決を参照されたい。
台湾の大手自転車メーカーである株式会社ジャイアントは、上告人(第一審の被告、控訴審の被控訴人)の販売する製品(以下「侵害被疑製品」という)が自社の「電動自転車」の意匠権(TW D133389)を侵害したと主張した。下図に示すように、第一審では、係争意匠の後端部とシートチューブの上部から構成された「a」の形状がシートとシート下収納スペースが「宙に浮いている」ような強い視覚的印象を与えていることが主要的な特徴と認定された。それに対し、侵害被疑製品はシートチューブの上部と下部とショックアブソーバーとが「D」の形状をなしており、しかもシートチューブの上部がショックアブソーバーを介して後輪に直結していることにより、宙に浮くのとは逆の安定感が現れており、両者の外観は類似ではないため非侵害と判断された。しかし、控訴審では、コストと当業界の慣例を考えると、自転車やバイクなどの二輪の乗り物では「フレーム」が車種を決定する時の重要な要素であり、消費者が車種を識別するときの基準でもあるという理由で、「フレーム」は電動自転車のデザインにおける主要的な特徴であると判断された。そして、第一審で侵害被疑製品と類似であると認定された、フレームに位置する特徴は、係争意匠が先行意匠と異なる部分であり(即ち、一般消費者の注意を引きやすい)、その他の侵害被疑製品と異なる特徴は全体的な視覚的面積において比較的小さく、主に前後端部に位置するという理由で、全体的な視覚的印象に影響を及ぼすに足らないと認定された。また、係争意匠権の範囲が先行意匠の範囲に不当に拡張されるのを避けるため、補助的判断方法である「三方対比法(three-way comparison)」を用いた後も同様の結論が導き出された。
しかし、上告審では、まず、係争意匠とその引用された先行意匠とを比較し、その異なる特徴は、フレームのみに重点を置いたのではなく、全体的外観に滑らかで調和とバランスの取れた視覚的印象をもたらしていると判断された。そして、係争意匠と侵害被疑製品との差異の特徴は、一般消費者が実際に商品を選択・購入・使用する時に目に触れやすい部位であるが、「全体観察・総合比較」の原則に基づき、原審で差異の特徴は全体的な視覚的面積において比較的に小さく、主に前後端部に位置するという理由で類似であると判断されたことについては、議論の余地があるとされた。これにより、本件は、知的裁判及び商業裁判所に差し戻された。
当事務所のコメント
最高裁判所は、この判決で原審裁判所が「先行意匠と明らかに異なる係争意匠の特徴」を考慮せず、「正常に使用した時に目に触れやすい部位」を正しく認定しなかったため、「一般消費者の注意を引きやすい部位または特徴」を正しく判断できていなかったことを示している。
最高裁判所の「一般消費者の注意を引きやすい部位または特徴」に対する見解については、実は「判断要点」に記載された定義に基づいている。「判断要点」は、主務官庁の知的財産局が自ら公表したものであって、法定手続きを経て公表された行政規則ではなく、権利侵害にあたるかどうかを判断するのは裁判所の責任である。これまでの実務における権利侵害の判断基準は明確ではなかったが、本判決では、「判断要点」の判断方法を認めて、「先行技術とは明らかに異なる係争意匠の特徴」をより重視しており、これは類似商標の混同誤認の判断基準とは大きく異なる。つまり、意匠権の範囲を確定する際には、各特徴の差異に拘泥するのではなく、まず先行意匠と明らかに異なる特徴がどこかを検討し、その上で侵害被疑対象と類似であるかどうかを判断しなければならない。この判断方式は、 意匠の創作を奨励、保護、利用し、産業の発達を促進するという専利法第1条の精神に通じると言える。そうでなければ、商標や著作権に近い判断基準では、新規性や創造性のある意匠を保護できないかもしれない。
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