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帝寶工業が意匠権侵害訴訟の二審でも敗訴で
懸念される台湾の自動車スペアパーツ産業への影響

【出典:司法院ウェブサイト】

知的財産及び商業裁判所は、注目されていた台湾の有名な車両用ライト大手メーカーである帝寶工業股份有限公司(Depo、一審で被告、二審で原告、以下「帝寶工業」という)と、ドイツのメルセデス・ベンツ・グループAG(旧社名はDaimler AG、一審で原告、二審で被告、以下「メルセデス・ベンツ社」という)との間の、意匠登録第D128047号「車両のヘッドライト」(メルセデス・ベンツ社が意匠権者で、以下「係争意匠」という)の権利侵害民事事件について、審理後、2022714日に、一審で敗訴した帝寶工業に対し、1,812万台湾ドルの賠償金の支払いを命じる二審判決(108年度民専上字第43号民事判決)を下した。帝寶工業は、これを不服として同年814日に上訴を提起した。この二審判決は、再び、アフターマーケット(AM:After Market)をメインとする台湾の自動車スペアパーツメーカーの敏感な神経を刺激しただけでなく、修理免責条項(Repair Clause)を制定すべきかについて、各業界の高い関心を集めている。

知的財産及び商業裁判所が二審判決で帝寶工業を敗訴とした主な理由は、下記のとおりである。なお、当該事件の一審判決(106年度民専訴字第34号民事判決)の主な内容は、当所のウェブサイトに掲載している文章【帝寶工業の意匠権侵害訴訟を通しての修理免責条項導入に対する台湾の各業界の見方】を参照されたい。

Ø   権利侵害の判断

帝寶工業の製造したDepo型番「440-1179MLD-EM」、「440-1179MRD-EM」、「340-1133L-AS」、「340-1133R-AS」の車両のヘッドライト製品(以下「係争製品」という)と係争意匠とを全体的に観察し対比すると、その共通の特徴は、全て消費者の注意を引きやすい位置にあることが分かる。それに対し、相違点は、消費者があまり注意を払わない位置にあるか、或いは全体的な視覚効果に影響を与えないほど微小なため、係争製品と係争意匠は、外観上類似しており、権利侵害を構成する。

Ø   意匠権の有効性に関する認定

係争意匠の図面には、その意匠の内容が充分に開示されており、当該意匠が属する技芸分野における通常の知識を有する者が、その内容を理解しそれに基づいて実施することができる。また、係争意匠の図面は、優先権の基礎となる出願の全ての内容と比較すると、異なる視覚効果を生じていないことから、「同一の意匠である」と認定されるべきであるため、優先権を主張することができる。それに、帝寶工業の提出した先行意匠の証拠は、係争意匠が新規性や創作性を有していないことを証明するには不十分であるため、係争意匠の権利は有効である。

Ø   公平交易法第9条第1号と第4号、第20条第2号及び第25条の違反について

本事件の自動車を販売する「主要市場」と、その後のスペアパーツ販売や修理保守などの「アフターマーケット」の間には実質的な連動性がある。主要市場の競争や制約は充分にアフターマーケットに伝わり、主要市場とアフターマーケットが連動する現象が生じるため、主要市場とアフターマーケットは、同じ市場とみなすべきである。但し、メルセデス・ベンツ社の自動車販売の主要市場でのシェア率は6%~8%に過ぎず、独占的或いは支配的地位を有していないため、公平交易法第9条第1号、第4号に規定する「独占事業者がしてはならない行為」に違反したと認定することはできない。また、メルセデス・ベンツ社の自動車販売の主要市場でのシェア率は低く、意匠権者には他人にその意匠の実施を許諾する義務もないため、メルセデス・ベンツ社が帝寶工業に対し意匠権のライセンスを拒絶したこと、及び今回意匠権を行使した行為は、公平交易法第20条第2号に規定する「正当な理由なく、他の事業者に対し差別的な取扱いをする行為」及び同法第25条に規定する「取引秩序に影響を与える欺瞞的な又は著しく公正を失する行為」に該当すると認定することはできない。

Ø   権利侵害の排除及び損害賠償の認定

帝寶工業の製造した係争製品は係争意匠を侵害したため、メルセデス・ベンツ社が、帝寶工業に対し侵害を排除すること、つまり係争製品を販売してはならず、係争製品の最終製品、半製品並びに係争製品を製造や組立てるのに使用する金型やその他の器具を全て廃棄し、且つ帝寶工業とその責任者が連帯して損害賠償責任を負うことを請求することに正当な理由がある。また、帝寶工業は、アフターマーケットの車両用ライトメーカーとして、メルセデス・ベンツ社の車両用ライトのパーツの外観やその関連意匠をよく知っているはずである。したがって、帝寶工業による係争製品を製造し係争意匠を侵害した行為は故意に属すると認定すべきであり、資料書類の全ての情状を斟酌し、専利法第97条第2項の規定により、既に証明された損害額の1.5倍を損害賠償額とする。

台湾国内の自動車部品市場の年間生産額は、約2,500億台湾ドル、そのうち、アフターマーケットの年間生産額は2,200億台湾ドルで、世界シェアの8割を占め、車両用ライトが、そのうちの7割を占めている。本事件の二審判決の結果は、台湾のアフターマーケットに大きな衝撃を与えるだけでなく、今後、市場が独占され、消費者の権益が損なわれる虞もある。20214月に、台湾の立法委員(日本の国会議員に相当)と知的財産局は、修理免責条項(Repair Clause)を立法化するか否かについて公聴会を開いたが、「イノベーションを阻害する」かもしれないことへの懸念から、結論がなかなか出ず、現時点で法改正を行う予定もない。知的財産局は、主務官庁の立場から、「自動車スペアパーツ産業(AM産業)の主な輸出先は米国、日本であり9割を占める。それらの国では修理免責規定がないため、台湾で修理免責条項を可決したとしても、輸出のときに訴えられる可能性があることを考えると、純正品メーカーとライセンス取得について積極的に交渉するのが最善策ではないか」とアドバイスをした。

また、知的財産局の統計資料によると、2019年から2022年上半期(1月~6月)まで、世界的に有名な大手自動車メーカー、例えば、米国のFORD GLOBAL TECHNOLOGIES(自動車メーカーであるFord Motorの知的財産管理子会社)、フランスの自動車会社グループPSA2021年にイタリアの自動車メーカーFCAと合併し世界4位の自動車会社「Stellantis」を設立)及びドイツの高級自動車メーカーであるBMWが、台湾で意匠権を取得するために積極的に出願していることが分かった(1&図2)。特に、2022年上半期の外国法人による意匠出願の第2位になったBMWは、139%の顕著な成長率を見せた。本件の係争意匠の権利存続期間は2023年に満了となるが、各国の自動車メーカーは台湾で積極的に出願しており、台湾の自動車スペアパーツ産業(AM産業)への影響は、もはや軽視できないものがある。この事件が今後どのように展開するか、注目していきたい。

 

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