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後発医薬品メーカーがパテントリンケージ制度の下、控訴審で逆転勝訴

 台湾では、医薬品のパテントリンケージ制度が2019820日に施行された。その目的は、先発医薬品メーカーと後発医薬品メーカーとの間のバランスを取りながら、特許権者の権利を保護して新薬の創出を奨励しつつ、後発医薬品メーカーに対して研究開発や特許権侵害を回避した製剤設計を促し、また、許可証の取得を予定する後発医薬品が、先発医薬品の特許権を侵害するか否かを事前に明確にすることである。

この制度が導入されてから、新成分含有新薬を除く新薬の許可証を申請するときには、既存の比較薬の特許権について、主務官庁に「声明」を提出しなければならない。4種類の声明のうちの1つは、「当該先発医薬品に対応する特許権は無効となるべき、または許可証を申請する後発医薬品は該当先発医薬品に対応する特許権を侵害していない」(以下「P4声明」という)である。P4声明を主務官庁に提出すると同時に、比較薬の許可証の所有者に当該声明を書面で通知しなければならない。許可証の発行は、書面通知送達の翌日から一時停止(最長12ヶ月)される。もし比較薬の特許権者または専用実施権者が、書面通知送達の翌日から45日以内に特許権侵害訴訟を提起しなければ、前述の一時停止は解除される(即ち、後発医薬品の審査の結果、承認されたら、許可証を取得できる)。以下の判決は、特許権者である先発医薬品メーカーが、P4声明を受けた後、後発医薬品メーカーに対して訴訟を提起した事件である。

 東生華製薬股份有限公司(以下「東生華社」という)が開発した新効能複方新薬であるCretrol(以下「係争医薬品」という)の有効成分は、MSD株式会社(以下「MSD社」という)とアストラゼネカ(以下「AZ社」という)の既存の医薬品の主要成分と同じであり、MSD社とAZ社がそれぞれ対応する適応症の特許権を所有しているため、東生華社はパテントリンケージ制度に従い、P4声明を提出したが、MSD社とAZ社は訴訟を提起し、残りの特許権期間中に係争医薬品の許可証の取得を阻止しようとした。当事務所は東生華社の訴訟代理人として、MSD社との訴訟で非侵害の抗弁に成功し、これから紹介するAZ社との訴訟において控訴審では一審判決[1]が破棄された[2]

 第一審において、原告のAZ社は専利法第96条第1項(即ち、特許権者は、侵害のおそれがある者に対し、その防止を請求することができる)に基づいて訴訟を提起した。AZ社は、「被告の東生華社が最初に提出した添付文書案(以下「原案」という)に記載された適用症の原発性高コレステロール血症(primary hypercholesterolemiaPH)は、特許権(以下「係争特許権」)が請求する適応症のヘテロ接合性家族性高コレステロール血症(heterozygous familial hypercholesterolemiaHeFH)の文言解釈の範囲に入っており、東生華社は訴訟係属中に添付文書の内容を「原発性高コレステロール血症(ヘテロ接合性家族性を除く)」に変更した(以下「補正案」という)が、係争医薬品の成分と効能は既に確定されたので、医師は処方する際に、その補正案で除外された適応症が記載されていないからといって、係争医薬品をヘテロ接合性家族性高コレステロール血症患者に処方しないというわけではない(即ち、適応外処方)ため、間接侵害に該当することになる。」と主張した。

 東生華社は、「薬事法第48条の202項の第2号には『次の各号のいずれかに該当するものは、許可証発行の一時停止と独占販売期間に関する規定を適用しない。1…2、後発医薬品の許可証の申請者が、前号の医薬用途特許権(即ち、比較薬に対応する特許権)に対応する適応症を除外し、後発医薬品が当該特許権を侵害していないことを声明した場合』と規定されており、立法者は、許可証を申請する新薬の一部の適応症を「除外」することにより、特許侵害を回避することができると明文化している。また、原案は審査中であり、補正案に基づいて許可証を取得した後、医者がどうのように処分するかについては、個人の医療行為であり、パテントリンケージ制度とは関係がなく、権利侵害という結論を導くことはできない。」と抗弁した。

 残念ながら、知的財産及び商業裁判所は、添付文書案の補正の有無にかかわらず、係争医薬品の名称と有効成分については変更がないため、「係争医薬品の完全な添付文書に引用された臨床試験の結果によって付与された係争医薬品自体の治療効果」に基づいて権利侵害の有無を判断すべきとした。裁判所は、係争医薬品の有効成分がHeFHを治療できるか否かについて検討したほか、専門家証人としての医者の陳述により、臨床実務において故意に特定の一部適応症を除外することには医療上の合理性がないと判断した。原案に記載された内容に基づけば係争医薬品は係争特許権の範囲に入っているため、裁判所は、東生華社は係争医薬品を直接的にまたは間接的に、自らまたは他人に委託して製造、販売の申し出、販売、使用または輸入してはならないとの一審判決を下した。

 当事務所の助言により、東生華社は控訴を申立てた。係争特許権の存続期間は、控訴審の口頭弁論期日前の20211120日に満了したので、裁判所は控訴審で特許権の範囲や添付文書に記載された適応症などの実質的な問題には踏み込まず、係争特許権が消滅したことのみに注目した。第一審では被控訴人の法的保護の必要性があったが、判決確定前にこの必要性がなくなったので、一審判決は取り消された。

当事務所のコメント

立法者は他者の特許権を回避するために適応症を除外することを認めたが、司法機関は一審判決において、補正された添付文書のみに依拠するのではなく、許可証を申請する医薬品の成分、臨床試験の結果、及び添付文書に記載のない適応症への臨床実務での使用可能性を総合的に判断すべきとした。裁判所のこの見解は、医薬品メーカーが医師の医療行為を支配することができないにもかかわらず、医薬品メーカーに無過失責任を課すものである。

また、特許権者は、存続期間の満了直前に後発医薬品メーカーからP4通知を受けたとき、主務官庁による申請者への許可証発行を一時停止させるために訴訟を提起し、後発医薬品メーカーの参入を遅らせようとすることがある。こうした特許権者によるパテントリンケージ制度の濫用を防止するため、薬事法第48条の135項には、「特許権者または専用実施権者は、第1項の規定により提起した権利侵害訴訟が最初から特許権の不当な行使であったために許可証の発行が一時停止され、それにより、後発医薬品の許可証の申請者に損害を生じさせた場合、損害を賠償する責任を負う」と規定されている。 しかし、この規定に基づいて請求した事件はまだなく、今後の実務的な展開が待たれるところである。



[1] 知的財産及び商業裁判所110年度民専訴字第9号民事判決

[2] 知的財産及び商業裁判所111年度民専上字第9号民事判決

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