一方欠席判決における損害賠償額の算定
台湾の民事訴訟では、裁判の基礎となる主要事実及び証拠は、弁論主義に基づいて当事者が提出する責任を負う。仮に訴訟の進行中に、当事者の一方が適法な通知を受けたが、口頭弁論の期日に出頭せず、自分の権利を保護するための口頭弁論をすることを放棄した場合、裁判所は出席当事者の申立または職権により、出席当事者の弁論のみに基づいて終局判決をすることができる。以下の判決は、裁判所が一方欠席判決においてどう出席当事者の主張を斟酌して、意匠権侵害の損害賠償額を算定したかの事例である。
この意匠権侵害による差止請求及び損害賠償請求事件において、陳瑞玲(以下「原告」という)は晟弈有限公司(以下「被告会社」という)が原告の意匠権(登録番号:D208862、以下「係争意匠権」という)を侵害したと主張し、専利法第142条第1項において準用する同法第96条第1項から第3項に基づいて侵害の差止及び侵害被疑製品の廃棄を請求した。また、損害賠償額の算定については、被告会社の総売上高と税務申告書の内容を基準として算定することを主位的請求として主張し、原告と訴外人である実施権者との係争意匠権を含めた実施許諾契約の実施料を基準として算定することを予備的請求として主張した。また、提出されたいずれの証拠によっても損害額の認定ができず、証明が極めて困難である場合、民事訴訟法第222条第2項により裁判所に損害賠償額を斟酌することを請求するものとした。
なお、訴訟が提起された後、裁判所が法律に定められた方法により口頭弁論期日の通知を被告に送達したが、被告が口頭弁論期日に出頭しない場合、民事訴訟法第385条第1項によると、「裁判所は、当事者の一方が口頭弁論期日に出頭しなかったときには出席当事者の申立により、または欠席当事者に再び呼出状を送付しても出頭しなかったときには職権により、出席当事者の口頭弁論のみに基づいて終局判決をすることができる。」とある。即ち、裁判所は出席当事者の申立により、または再び欠席当事者に呼出状を送付したが出頭しなかったときには職権により、出席当事者が提出した証拠を裁判の基礎として、関連証拠を斟酌して終局判決をすることができる。欠席当事者が、出席当事者の主張した事実及び提出した証拠に対して反論することができず、その事実と証拠を争うための答弁書も提出しなかった場合、裁判所は民事訴訟法第280条第3項により、出席当事者が主張した事実を自白したものとみなす。
この事件において、被告会社は適法な通知を受けたが、正当な理由を提出しないまま口頭弁論期日に出頭しなかったので、出席当事者の申立により一方の口頭弁論を行った。裁判所は原告が提出した証拠に基づいて、侵害被疑製品が係争意匠権の範囲に含まれるものと判断した。そして、原告がかつて事務所に依頼して、係争意匠権侵害行為の停止に関する警告書を被告会社に発出したが、被告会社が権利侵害行為に対して回答も対応もしなかったことから、裁判所は、原告には少なくとも過失があるため、係争意匠権侵害の損害賠償責任を負うべきであると判断した。
裁判所は損害賠償額を算定する際に、まず原告の主位的請求(即ち、被告会社の総売上高と税務申告書の内容を基準として算定すること)に基づき、被告会社の登記した営業事項により得た利益を斟酌した。被告会社の登記した営業事項には侵害被疑製品が属する項目以外に、他のさまざまな営業項目も登記されていた。原告は被告会社の総売上高の全額が侵害被疑製品の販売に関連していると主張したが、請求された損害賠償額は被告会社の総売上高よりも低く、原告は被告会社が申告した総売上高と侵害被疑製品の販売により得た利益の関連性を証明できる証拠を提出しなかったため、裁判所は、原告が被告会社の権利侵害期間の平均月間売上高の591万6556台湾ドルに基づき、侵害被疑製品の販売により得た利益を損害賠償額として主張することに根拠がないと認定した。
次に、原告は、専利法第97条第1項の第3号の規定に基づいて実施許諾契約により得られる合理的な実施料を損害額算定の基礎とすることを求めるとともに、訴外人である実施権者との実施許諾契約を提出した。裁判所は、許諾した範囲と期間から算定した年間の実施料の18万台湾ドルを損害賠償額とすることに根拠があると認定した。
当事務所のコメント
この判決に議論の余地があるところは、原告が事務所に依頼して侵害行為の停止に関する警告書を発出したが、被告会社は応答しなかったので、故意により権利を侵害したとみなすことができる点である。裁判所は、単に原告と訴外人の実施許諾契約の実施料を損害賠償額として算定すべきではなく(即ち、算定された損害賠償額は、仮に被告会社が原告と実施許諾契約を締結した場合の実施料とまったく同じ)、そうでなければ、被告会社は原告の意匠権侵害の主張を当然恐れないことになる。専利法第97条第2項によると、「侵害行為が故意である場合、裁判所は被害者の請求により、侵害状況を斟酌して損害額以上の賠償金を算定することができる。ただし、証明済みの損害額の3倍を超えてはならない。」とある。原告は、提出した証拠を基礎としてより高い賠償金の算定を請求できない場合、裁判所が認めた損害額の3倍以内の範囲で請求することができる。しかし、この事件においては、原告は訴状で請求したり、訴訟の進行中に損害額3倍以内に賠償金の請求を拡張したりしなかったようである。裁判所は、処分権主義により、当事者が申立てた範囲を超える懲罰的賠償金を算定することはできない。
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