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販売の申し出による特許権侵害行為に対する損害賠償責任

― 知的財産及び商業裁判所110年度民專訴字第20号判決 ―

 

専利法第58条の規定によると、特許権者は、他人がその同意を得ずに、当該発明を実施することを排除する権利を専有する。また、物の発明の実施とは、当該物を製造、販売の申し出、販売、使用、又はこれらを目的として輸入をする行為という5つの様態をいう。特許権侵害物の販売の申し出のみをした場合、専利法の第96条第2項及び第97条に基づき、被告に対して損害賠償を請求することができるかどうかについて、実務上では肯定説、否定説ともにある。以下の判決は否定説である。

n   書誌事項

判決番号:知的財産及び商業裁判所110年度民專訴字第20号判決

判決日:2022 02 15 日 

事件の類型:特許権侵害による損害賠償請求事件

係争特許:台湾第I488197号「電気抵抗装置及びその製造方法」特許発明

n   当事者

原告:致茂電子股份有限公司

被告:艾德克斯電子(南京)有限公司(以下「艾德克斯社」という)、愛德克斯電子股份有限公司(以下「愛德克斯社」という)、致峰科技股份有限公司(以下「致峰社」という)

注:艾德克斯社(中国における係争製品の製造及び販売を行う)と愛德克斯社(台湾法人)はグループ会社。致峰社は台湾における艾德克斯社の製品の販売代理店。

n   争点と裁判所の判断の要約

1.      原告は、中国で購入した係争製品1を分解して比較し、それとそのシリーズ製品(係争製品2から67まで)が係争特許の特許請求の範囲に含まれると判断した。

2.      原告は、被告の艾德克斯社が台湾のホームページで係争製品1から67までの販売の申し出をした行為を証明できるのみで、係争製品の製造、販売、使用、又はこれらを目的として輸入をした行為を証明することも、グループ会社の愛德克斯社が特許発明を実施したことを証明することもできない。

3.      被告の致峰社はホームページで係争製品を紹介したが、そのオンラインストアでは販売しておらず、価格の照会の表記もなく、実際に係争特許を実施したとは認めにくい。

4.      原告は被告の致峰社が係争特許を実施したことを証明できないが、致峰社は販売代理店として、そのホームページに係争製品を紹介しており、将来的に係争特許を実施する可能性を排除することができない

5.      原告が専利法第96条第1項に基づいて、被告の艾德克斯社と致峰社に特許侵害防止を請求することに理由がある。

6.      被告の艾德克斯社は販売の申し出をしたが、台湾で係争製品1を実際に製造、販売、使用、又はこれらを目的として輸入をした行為により利益を得たことを証明する証拠がなく、原告が損害を受けた又は利益を失ったとは認めにくい。そのため、原告が被告らに対して連帯損害賠償と獲得した利益の返還を請求することに理由がなく、その請求を棄却する。

n   判決主文

1.      被告の艾德克斯社と致峰社は直接に又は間接的に、自社で又は委託して、係争製品を製造し、販売の申し出をし、販売し、又はこれらを目的として輸入してはならない。

2.      原告の余の本件の請求を棄却する。

n   結論

 台湾民法第216条によると、「損害賠償は、法律で別段の定めがない限り又は契約で別段の合意がない限り、債権者が被った損害及び失った利益を填補することに限定される」。また、民法第179条によると、「法律上の原因なく利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者は、その利益を返還する義務を負う」。損害賠償請求権を主張する際には、侵害者の故意又は過失のみならず、生じた損害も証明すべきである。実務上の否定説を支持する側は、被疑侵害者が販売の申し出のみをした場合、特許権者に損害又は利益の損失が発生していないため、侵害を排除することは主張可能であるが、損害賠償請求を主張できないと考えている。

 

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