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帝寶工業の意匠権侵害訴訟を通しての

修理免責条項導入に対する台湾の各業界の見方

台湾の自動車製造業は、従来、国内市場を主な市場としてきた。経済部(日本の経済産業省に相当)が20209月に公布した【産業経済統計簡訊-366】によると、台湾国内の自動車製造業の生産額は、2015年から台湾国内市場で大幅に急増している輸入車の影響を受け年々減少傾向にある。しかしながら、台湾の自動車スペアパーツの生産は、少量で多様性があり製造において柔軟に対応できるという優位性を持っていることから、国際競争力をかなり備えており、2016年には自動車スペアパーツの生産額が、初めて自動車製造業の生産額を上回り、直接輸出の割合が5割を超えた。また、2019年の自動車スペアパーツの輸出額は2,148億台湾ドルとなり、そのうち対米輸出額が1,045億台湾ドルで、全体の48.7%を占め、続いて対日本が6.3%、対中国が3.2%を占めた。

ところが、ドイツの大手自動車メーカーが台湾で訴訟を提起したことが、台湾の自動車スペアパーツ産業に大きな衝撃を与えた。事件の経緯は下記のとおりである。

Ø   ドイツのメルセデス・ベンツの親会社であるダイムラー社(Daimler AG以下「原告」という)は、アフターマーケットをメインとする台湾の車両用ライト大手メーカーである帝寶工業股份有限公司(Depo、以下「被告」という)が20149月にフランクフルトで開催された国際モーターショーで提供したカタログに、自社の意匠権第D128047号「車両のヘッドライト」(以下「係争意匠」という)を侵害した製品(Depo型番「000-0000MLD-EM」、「000-0000MRD-EM」、「000-0000L-AS」、「000-0000R-AS」の車両のヘッドライト製品、以下「係争製品」という)が掲載されているのを発見した。

係争意匠

係争製品

出典:知的財産裁判所106年民専訴字第34号民事判決書P40「比較図(二)」

Ø   原告は、2017年に台湾で意匠権侵害訴訟を提起した。この訴訟で原告は、被告が故意に権利を侵害したと主張したほか自動車スペアパーツ市場(アフターマーケット)と自動車販売市場(主要市場)は同じ市場とみなすべきであり、しかも自社の主要市場でのシェア率は6%~8%に過ぎず、市場支配的地位を有していないため、公平交易法に違反していないなど主張して、被告に対し6,000万台湾ドルの賠償金の支払い及び製品の金型の廃棄を求めた。

Ø   原告の主張に対して、被告は、原告所有の係争意匠を侵害していないほか、自動車スペアパーツ市場(アフターマーケット)は独立した市場であり、自動車販売市場(主要市場)と同じ市場とみなすべきでないこと、さらに、車両用ライトはマストマッチ(must match、スペアパーツの外観と,正規品の外観が同一デザインであることを意味する)という製品特性を備えているため、原告は意匠の排他権を行使するだけで、その他の業者による係争製品の製造を全て禁止することができ、しかも被告は原告に車両用ライトに係る意匠権のライセンス取得を何回も求めたが拒絶されたことから、原告は独占的な地位を有し市場地位を乱用したため、公平交易法違反に該当するなどの理由をもって反論をした。

知的財産裁判所は20196月に一審判決を下した。裁判所は判決で「(1)被告が提示した特徴の差異は、全て消費者が製品の選択購入時にあまり注意を払わない位置(例えば、製品の辺縁部や角など)にあり、しかも車両用ライトの外観輪郭を対比すると、被告の被疑侵害製品と係争意匠との間に共通の特徴があるため、権利侵害が成立すると考えられる。(2)原告が公平交易法に違反したか否かについて、裁判所は、主要市場の競争は激しく、アフターマーケットに影響を与えることができると判断し、被告の主張を採用しない。原告は主要市場において独占的な地位を有していないため、公平交易法違反に該当しない。」として、被告に対して、原告への3000万台湾ドルの賠償金の支払いと、係争製品及びその他係争意匠を侵害した全ての製品、半製品並びに当該製品を製造するのに使用する金型やその他の器具の廃棄を命じた。現在、この事件は二審段階の最高裁判所に上訴され、審理が行われているところである。業界は二審において被告敗訴の判決が下された場合、アンカリング効果が生じることを懸念している。

 

一見ありふれた車両用ライトの外観意匠侵害事件が、年間生産額2000億台湾ドルを超える台湾の自動車スペアパーツ産業の消滅に繋がる可能性がある。自動車スペアパーツ産業の存亡を左右するだけでなく、労働者の権利や消費者の権益など幅広い側面にも関わってくるため、法曹界の専門家や学者は、できるだけ迅速に修理免責条項(Repair Clause)の制定を推進するよう呼びかけている。また、台湾の立法委員(日本の国会議員に相当)も20214月に、台湾のスペアパーツのメーカー及び消費者が、専利法に違反することなくスペアパーツを用いて自動車の既存の機能を維持したり、外観を修復したりできるように、修理免責条項(Repair Clause)を「専利法第136条の改正草案」に盛り込むことを提案した。しかしながら、法改正をするか否かについては、政府当局(知的財産局)は研究開発保護の立場に立つ傾向にあるため、率先して改正案を提出することはないだろう。現在、既に20か国が修理免責条項を導入し、自動車工業大国のドイツさえも202012月に修理免責条項の導入を可決したが、台湾の自動車スペアパーツの主要な輸出先の米国、日本、中国、韓国等の国では修理免責条項を設けていない。さらに、知的財産局の資料によると、2019年の台湾における外国の意匠出願人上位10位のうち自動車メーカー5社(つまり、フォード・モーター、ルノー、プジョー、BMW 、ボルボ・カーズ)が占めており、各国の自動車メーカーが台湾で意匠権を取得するために積極的に出願していることがわかる。今後、修理免責条項が順調に専利法に導入されたとしても、根本的な解決にはならず、弥縫策で終わる可能性がある。

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