中国 2025年までに全面的に専利権取得等に係る各種補助を廃止
中国は、早期から、企業や個人が積極的に科学的研究や開発に取り組んで専利(専利とは、特許・実用新案・意匠の総称である)出願することを奨励する目的で、専利年金や専利代理の手数料などの補助を含む様々な専利出願支援政策を実施してきた。中国から外国への専利出願数は、こうした奨励措置に刺激されて急速に成長してきた。世界知的所有権機関(以下、WIPOという)が公表した年次報告書【世界知的財産指標(World Intellectual Property Indicators)2017】によると、中国は2011年より6年連続で特許出願の受理数で世界第1位となり、2016年には実用新案出願の受理数が全世界の実用新案出願の95%に達した。
この措置は発想こそ良かったものの、道徳観に欠けた企業や専利代理機構がこの措置の抜け道を探して大量の出願案を捏造することによって、不法な利益を得る原因となっていた。この補助政策によって引き起こされた「大量の非正常な出願案」の現状に直面して、主務官庁である国家知識産権局(以下、CNIPAという)が非正常な専利出願案について、2018年の末と2019年の初め頃に地方に通報したところ、このうちの92%の出願が自発的に取下げられた。だが、それでも、盲目的に専利出願の量的指標を追及し、専利出願の質を重視せず、イノベーションの保護を目的としない非正常な専利出願行為が現在もまだ存在している。
CNIPAは、この現象を効果的に解消するために、2021年1月27日に各地の知識産権局及び関連部門に対して【国知発保字〔2021〕1号 国家知識産権局による専利出願行為の更なる厳格な規範化に関する通知(以下、〔通知〕という)】を発布し、専利出願に対する補助金を全面的に廃止して、専利出願後の実用化や活用の強化と、非正常な専利出願行為の制止に重点を置くことを明確に示した。
〔通知(全文の中国語版については、弊所のウェブサイトをご参照ください)〕のポイントは以下の通りである。
Ø 「単位又は個人が、故意に関連する専利出願を分散して提出したり、明らかに自身の研究開発能力と不釣り合いな専利出願を提出したり、専利出願を異常に転売したりする」などイノベーションの保護を目的としない非正常な出願行為をした場合、「出願人の専利に係る費用を減額しない、各級の地方の知的財産権部門は出願人及び関連代理機構に対して補助金又は奨励を与えない、補助金や奨励の詐取し犯罪を構成する疑いがある場合、刑事責任を追及する」などを含む六つの厳格な措置を講じる。
Ø 専利出願案数のような拘束性評価指標を設定してはならず、行政命令又は行政指導などの方法をもって地方、企業及び関連代理機構に対し専利出願数指標を割り当ててはならず、専利出願(《特許協力条約(PCT)》に基づく専利出願も含む)数を比べあってはならない。
Ø 専利補助政策を調整する。2021年6月末までに全面的に専利出願段階の補助を廃止する。現在、地方で行われている補助の対象は、権利付与された特許に限るべきであり、その補助方式は、権利付与後に補助する方式を採用すべきである。補助対象者が取得する補助金の総額は、専利権を取得するために納付した主務官庁の手数料の50%を上回ってはならず、専利年金及び専利代理等の仲介費用を補助してならない。各地方は、「十四五」期間内に、段階的に専利権付与に対する各種の財政補助を削減し、2025年までにそれらを全部廃止しなければならない。
Ø 専利出願の品質志向を強調する。CNIPAは、各地方の質の高い専利出願と非正常な出願の割合データを定期的に通知又は公布する。専利出願分野における信用監督管理を強化し、非正常な出願行為を信用喪失行為として知的財産権信用監督管理の対象に組み込むよう推進する。専利取引の規範化と監督管理を強化し、明確に技術イノベーションと実施を目的としない専利を受ける権利と専利権の譲渡行為を抑制する。
Ø 部門間の情報通報を強化する。科学技術などの管理部門に対し、非正常な出願の詳細情報を自発的且つ即時に通報するほか、科学技術などの管理部門が専利出願に係る行政管理業務を強化するよう支援し協力する。「保険加入者が無い、払込資本が無い、研究開発経費が無い」という「三無」ペーパーカンパニーのした専利出願を厳格に監督管理する。
Ø 係る単位、個人及び代理機構に自発的に非正常な出願を取下げるよう要求する。そして、積極的かつ自発的に取下げた場合、情状を斟酌して軽い処分とすることができる。また、専利審査部門は、情報スクリーニングメカニズムを構築し厳格に審査を行うほか、法により異常な出願を却下する。さらに、通報と確認メカニズムを構築し、単位及び個人が各級の地方の知的財産権部門に非正常な出願行為を通報するよう奨励する。
中国のCNIPAがこの〔通知〕を公布する前の同年1月13日に、ちょうど米国特許商標庁も《中国における商標及び特許:非市場要素が出願の傾向及び知的財産制度に与える影響(Trademarks and Patents in China: The Impact of Non-Market Factors on Filing Trends and IP Systems)》という研究報告を発表した。この研究報告にも、「近年、中国で専利及び商標の出願件数が急激に増加している主な原因は、各級の地方政府が行う補助金及び当局の指示によるものと考えられる。その専利と商標の出願人がした過剰な出願は、多国間の出願登録システムに虚偽の商標や質の低い専利を氾濫させるだけでなく、各庁の審査に係る資源や人力を消耗させ、正常な出願人及び権利者の権益に影響を与えている」と指摘されている。また、WIPO が2020年12月7日に公表した年次報告書【世界知的財産指標(World Intellectual Property Indicators)2020】には、「中国の2019年の商標、意匠等の出願件数は依然として増えている」ことが示されている。ここから、制御不能な中国の専利と商標の出願によって引き起こされる問題に、世界各国が高い関心を寄せていることが分かる。 |