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台湾の最高行政裁判所が、外国の知的財産庁発行の出願受理通知を
優先権証明書類として認めるかについて、知的財産裁判所と異なる見解を示す

 

発明者は優先権の主張を伴う特許出願をする場合、優先権証明書類を提出しなければならない。外国の知的財産庁発行の出願受理通知は、台湾の特許法第29条第2項に規定の提出すべき受理を証明する出願書類(つまり、特許法施行規則第26条第1項及び第2項に規定される優先権証明書類)として認められるのか。最近、台湾の最高行政裁判所は、知的財産裁判所が下した外国の知的財産庁発行の出願受理通知を優先権証明書類と認める判決を覆し、異なる見解を示した。最高行政裁判所の見解は、出願人が優先権証明書類を提出する際の参考となる

 事件の経緯

米国企業であるENTEGRIS, INC.(以下、出願人という)は、2016930日に台湾知的財産局(以下、知財局という)に105131524号特許出願案(以下、係争出願案という)を提出した。知財局は書面で出願人に国際優先権の主張に係る証明書類の正本を提出するよう通知した。出願人は優先権主張の基礎となる米国出願のFiling Receipt(以下、出願受理通知という)、Electronic Acknowledgement Receipt(以下、電子受領書という)及び明細書のコピーを提出し、上述の書類は特許法第29条における受理を証明する出願書類に関する規定に合致していると主張した。しかしながら、その後、知財局は書面で係争出願案は優先権を主張しなかったものとみなされるとの処分を下した。出願人はこれを不服として訴願を提起したが、20178月に経済部に却下された。出願人はこの訴願決定を不服として知的財産裁判所に行政訴訟を提起し、当該訴願決定及び原処分における「係争出願案は優先権を主張しなかったものとみなす」に関する部分を取消して、知財局に係争出願案の優先権主張を認める処分を下すことを求めた。知的財産裁判所は、当該訴願決定及び原処分を全て取消し、知財局は係争出願案について優先権主張を認める処分を下すべきであるとの判決(1062017)年行専訴字第78号))を下した。知財局は、知的財産裁判所の判決を不服として、最高行政裁判所に上訴を提起した。

 知的財産局の主張

(1) 台湾の関連法律に規定された優先権証明書類とは、「出願案が当該国の出願日取得の要件を満たしていることを確認した後、証明書類に発行日、出願案の出願日と出願番号を記載し、出願日に開示された技術内容(つまり、明細書と図面)と併せて特許受理官庁が署名した後で封印をした」ものであるはずである。

(2) 米国は台湾発行の受理通知を優先権証明書類として認めていないため、本局は互恵の原則に基づき、米国発行の出願受理通知を優先権証明書類として認めることはできない。しかも出願受理通知は、出願案の出願料が既に納付済みであることしか証明できない。このほかに、確かに本局の審査手続上の誤りで補正の機会を与えた事例が幾つかあるが、出願人は、本局が過去にした誤りを係争出願案における平等原則適用の根拠とすることはできない。

 出願人の主張

(1) 特許法、特許法施行規則、特許審査基準などを全体的にみると、優先権証明書類の形式、内容について知財局の主張する限定解釈はなく、知財局の解釈は法律の規定を超えている。

(2) 出願受理通知は、米国特許商標庁(USPTO)が署名し発行したもので、出願日と出願番号が記載してある。米国特許法施行規則及び特許審査便覧(MPEP)によれば、当該出願日は、米国で出願日を取得するための最低限の要件を満たしているため、特許法第29条に定める「受理を証明する出願書類」に該当するはずである。また、知財局が審査実務で出願受理通知を優先権証明書類として認めた事例も少なくないため、補正の機会を与えるべきである。

 知的財産裁判所1062017)年行専訴字第78号の判決理由

(1) 特許法第28条第1項、第29条第1項から第3項まで、特許法施行規則第26条第1項と第2項及び特許審査基準第一編第7章第1.5節(1-7-4頁)に定める優先権証明書類に係る規定によれば、特許法第29条第2項に定める受理を証明する出願書類、又は特許法施行規則、特許審査基準に定める優先権証明書類は、知財局の主張する「出願案が当該国の出願日取得の要件を満たしたことを確認した後、証明書類に発行日、出願案の出願日と出願番号を記載し、出願日に開示された技術内容(つまり、明細書と図面)と併せて、特許受理官庁が署名した後で封印をした」ものであると認定し難い。

(2) 米国特許商標庁は、出願案が出願日取得の最低限の要件を満たしたことを確認したうえで「出願受理通知」を発行する。また、特許審査基準第一編第7章第1.2節の規定によると、優先権基礎出願は、受理国又は国際組織において合法的に出願日を取得したものであれば、それに基づいて優先権を主張することができる。

(3) 出願受理通知に記載されている情報は、知財局が要求する優先権証明書類の最初の頁の情報と完全に一致しており、形式上、知財局の要求を満たしている。また、知財局は、審査実務で他国の発行する出願受理通知を優先権証明書類として認め、補正の機会を与えた事例がある。人民の権益保障、行政行為の適法性の審査の履行などの目的に基づき補正の機会を与えるべきであるにもかかわらず、知財局が直ちに出願人の優先権主張を認めないとの処分を下したことは、明らかに行政手続法第6条の規定に違反している。

 最高行政裁判所1082019)年判字第518号の行政判決理由

(1) 知的財産裁判所の判決の主文の第1項には「訴願決定及び原処分を全て取消す」ことが記載されている。原処分の「本出願は優先権を主張しなかったものとみなす」部分以外の取消に関して、出願人の請求の範囲を超えため、法律に違反している。

(2) 優先権書類の形式について、経済部は、特許法第3条「1.この法律の主務官庁は経済部である。2.経済部は、特許主務官庁を指定して特許業務を行わせる。」及び同法第158条「この法律の施行規則は、主務官庁が定める。」の規定により、特許法施行規則を定める権限を付与されている。特許法施行規則第26条の「1.法第29条第2項の規定により提出する優先権証明書類は、正本でなければならない。2.出願人が法第29条第2項に定める期間内に提出した優先権証明書類がコピーである場合、特許主務官庁は指定期間内に当該コピーと同一の書類である正本を補正するよう出願人に通知しなければならない。期間内に補正しない若しくは補正が完全でないときは、法第29条第3項の規定により優先権を主張しなかったものとみなす。」の規定内容は、特許法を執行するための細部的、技術的な副次的事項に過ぎず、特許法第28条及び第29条の文理を超えておらず、上位法の授権範囲を超えていないため、法律の留保の原則に違反していない。

(3) 特許法28条、第29条第1項と第2項に定める国際優先権主張に係る規定は、「受理を証明する出願書類」の内容を明確に提示していないが、上記の条文は、パリ条約の規定を参考にして定められたものであるため、条文における「受理を証明する出願書類」は、優先権主張の基礎となる出願が受理された国家の知的財産庁が発行した証明書でなければならず、単なる受理通知をその代わりとすることはできない。出願人が最初の特許出願の出願日又は当該出願が受理された国家又は世界貿易機関加盟国を声明しない場合、又は優先権主張の基礎となる出願を受理した国家又は世界貿易機関の加盟国が発行した受理を証明する出願書類を提出しない場合、法律により優先権を主張しなかったものとみなされる。

(4) 特許法施行規則第26条第1項と第4項の規定によれば、上述の優先権証明書類は正本でなければならない。また2項には「出願人が最初の優先日から16ヶ月以内に提出した優先権証明書類がコピーである場合、特許主務官庁は指定期間に当該コピーと同一の書類の正本を補正するよう出願人に通知しなければならない。期間内に補正しない若しくは補正が完全でないときは、特許法第29条第3項の規定により優先権を主張しなかったものとみなす。」と明確に規定されている。言い換えれば、これは、出願人が既に法定期間内に上記記載すべき内容に合致した優先権証明書類を取得し、そのコピーを提出した場合に限り、上記規定に基づき指定期間内に同一の優先権証明書類の正本を補正できることを意味している。

(5) 出願受理通知は、出願人に対し発明者、出願人、特許代理人、出願番号、出願日及び出願料について初歩的な確認を行うための書類であり、それには優先権を証明する文言が何ら記載されておらず、記載内容に誤りがあった場合は書面で訂正を申請でき、訂正が認められた後、米国特許商標庁は別途出願受理通知を発行するため、出願受理通知を証明書類として使用できないことは明らかであり、特許法施行規則第26条第2項に規定されている事情と合致しない。従って、知財局は規定により出願人に指定期間内に当該コピーと同一の書類の正本を補正するよう通知する必要はない。

(6) 憲法の平等原則とは、適法の平等を意味し、違法の平等含まない即ち、憲法の平等原則は行政機関に同じ過ちを繰り返すよう求める請求権を人民に与えていない(最高裁判所932004〕年度判字第1392号判決を参照)。たとえ知財局が外国の知的財産庁発行の出願受理通知を誤って優先権証明書類のコピーとして認め、補正するよう通知したことがあったとしても、出願人は知財局が係争出願案において同一の錯誤行為を繰り返すことを期待してはならない。

 

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