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台湾の金融機関の
専利ポートフォリオに対する分析及び意見

 
【出典:知的財産局2019.04「智慧財産権月刊」Vol.244pp06-29 】
 

台湾知的財産局は、国内の金融機関を対象に、金融機関の専利(専利は特許、実用新案、意匠の総称)出願分布から、金融機関のイノベーション事業における現在の発展状況を把握しようとしたところ、興味深い専利動向を発見した。今回の専利動向のサンプルデータは、2006年から2018330日の間に台湾の金融機関によって出願された700件以上の特許出願と実用新案登録出願 (以下、特許と実用新案をまとめていう場合は、専利と表現する)である。台湾知的財産局は、その年間出願件数、業種別などについて、台湾の金融機関の専利出願動向を調査し、分析した。 

特許及び実用新案登録の出願の現状 

図(一)に示すように、金融機関が同一の創造について特許出願と実用新案登録出願を同時に行うという二重出願方式により出願した割合は68%(222件)で、特許出願をしたが実用新案登録出願をしなかった割合は32%(105件)であった。このことから出願の大部分は二重出願であることが分かる。また、上記二重出願の222件は、実用新案登録出願全体の621件のうちの36%に過ぎないことから、台湾の金融機関は実用新案登録出願(399)のみで大部分の創造活動の成果を保護しようとする傾向にあることが見てとれる。 

 確かに、実用新案登録出願の場合、出願人は迅速に権利を取得することが可能であるが、その保護対象は物品の範疇に限られる。金融機関が金融業務とテクノロジーを組み合わせて出願をする場合、コンピューター上で実行する方法の発明であることが多いため、特許出願のほうがその技術をより完全に保護することができる。実体審査を経て取得した特許権は、保護範囲がより広いだけでなく、権利が安定しているため、市場において競争優位性を十分に発揮することができる。 

図(一)台湾の金融機関の二重出願の現状図

金融機関の業種別の特許出願分析 

 各金融機関を業務内容及びサービス形態により、更にその業種の性質に基づいて、銀行業、証券先物業及び保険業の三種類に分類した。この三種類の金融機関の特許出願件数の分布では、図(二)に示すように、銀行業の出願件数が249件で最も多く、全体の76%を占めている。次いで保険業が計50件で、全体の15%を占め、出願件数が最も少ないのは証券先物業の計28件で、僅か9%であった。特許出願全体の傾向をみると、銀行業の出願が他の業種の金融機関よりも多いが、これは、銀行業が業者数も多く、業務範囲も広く、様々な金融サービスへの応用技術について特許出願をしたためと推測される。また、何百もの台湾の金融機関のうち特許出願をした出願人は、銀行業では20社、証券先物業では6社、保険業では11社であり、出願人の数に大差はないものの、特許出願件数においては、銀行業がその他の金融機関をはるかにリードしていることが分かる。

 

図(二)三種類の金融機関の特許出願件数の分布図

応用分野の技術動向分析 

図(三)に示す通り、銀行への応用の専利出願件数は、他の応用類別の出願件数に比べてはるかに多く、全体の38%を占めている。その主な理由は、専利出願の出願人の大半が依然として銀行業であり、銀行業は、預金/貸付、外国為替、貸金庫、不動産、ローン、債券など資金に関するあらゆる業務を扱っているためと考えられる。 

一方、決済、保険及び取引などへの応用の出願人は数も少なく、そのうえ業務内容も比較的単純であるため、専利出願件数は銀行業ほど多くない。また、決済、保険及び取引への応用の出願件数のそれぞれの割合はほぼ同じであるため、台湾の金融機関が様々な応用分野で多重的に発展している傾向にあることが見て取れる。注目すべきは、銀行、決済、保険、取引、投資、税務への応用が全てフィンテックのカテゴリに属する点である。応用全体の出願分布をみると、93%がフィンテックに関する応用の専利出願である。

 

図(三)応用分野の分布図  
 

表(一)に示すように、各応用分野の詳細な応用項目では、「銀行」への応用が多岐にわたっており、銀行業務に関連するほとんどの応用が専利出願されているが、その他の応用分野ではあまり差がない。「銀行」への応用で最も多いのは、ローンサービス、振替サービス、金融商品の販売などである。 

 その他の応用(フィンテックに属しないもの)の割合は7%で、出願件数が少なく、出願された各専利の応用の差異も大きいが、応用全体の傾向をみると、各機関の内部システムの最適化、例えば、データベース管理、ファイル管理及び暗号化などが見てとれる。これらはフィンテックに直接関連していないものの、この部分のソフトウェア及びハードウェア技術の発展もフィンテックによって提供されるサービスの円滑性と安全性において重要である。そのため、台湾の金融機関は自身の業務に関連するフィンテックの開発に加え、より万全な金融サービスを提供するために、対応するソフトウェア及びハードウェア技術の応用と組み合わせて専利出願すべきである。 

表(一) 

技術分野の動向分析 

専利出願の内容は、技術分野によりモバイル・プラットフォーム、ビッグデータ、人工知能、クラウドシステム、ブロックチェーン、物のインターネット(IoT)、一般情報、ユーザインタフェース、窓口業務の自動化及びその他に分類される。特に説明しておきたいのは、一般情報に分類される出願の技術内容は、今のエマージングテクノロジーに関連していないという点である。例えば、株式投資分析システムは、データを単に収集し、まとめるだけの一般的なクライアントサーバシステム構造であり、このシステムはビッグデータ、人工知能、ブロックチェーンなどの技術、又はモバイル・プラットフォームやクラウドシステムを採用しないシステム構造である。 

図(四)に示すように、「一般情報」の専利出願件数が最も多く全体の37%も占めている。台湾の金融機関は、まだエマージングテクノロジーを十分に把握していないようである。その理由としては、金融機関の技術開発は、先ず、応用ニーズを中心とし、その後は、技術面で単に情報化を行っているだけということが考えられる。例えば、技術面で、単にローンの審査作業をシステム化するだけであったり、手作業のローン審査でコンピューターやインターネットを簡単に利用するだけといったことである。このことから、一般情報の発明は、昨今のフィンテックに関連するエマージングテクノロジーからはかなりかけ離れていることが分かる。

 

図(四)技術分野の分布図 

台湾のフィンテック専利と海外の比較 

応用に関しては、図(三)から6つの主要な分野を選択して、改めて図(五)のような比例図を作成し、海外と比較したところ、海外は「決済」への応用に焦点を置いているのに対し、台湾の金融機関は「銀行」への応用に焦点を置いていることが分かった。その理由は、台湾では銀行業による出願が多数を占めているため、それが銀行への応用の出願件数が最多という結果に反映されていると考えられる。このため、台湾の金融機関は世界の発展動向を参考にして、現在最も注目を集めているモバイル決済への応用発展に目を向けて、その不足した部分を強化することも考えるべきである。 


図(五)台湾の金融機関と海外とのフィンテック応用専利出願分布比較図

技術に関しては、図(四)から6つの主要な分野を選択して、改めて図(六)のような比例図を作成し、海外と比較したところ、台湾の金融機関と海外の動向は、フィンテック発展の技術分野の分布が似通っていることが分かった。例えば、「モバイル・プラットフォーム」は双方とも出願が最も多い技術分野であり、「ビッグデータ」もかなり発展しており、同じ傾向が見られる。相違点としては、台湾の金融機関は、比較的「人工知能」に重点を置いていることが挙げられる。その理由として、一部のビッグデータの技術が人工知能と組み合わせることができたり、金融サービスにおいて画像、音声の識別及びデータ分析に広く応用できるためと考えられる。また、台湾の金融機関は、保険の取引時のデータ安全性の検証及び保険金の給付、取引資料の安全な保管などに広く応用できる「ブロックチェーン」の発展にも重点を置いている。「物のインターネット(IoT)」に関しては、海外の発展の割合は台湾の金融機関よりもかなり高い。その理由として、海外のモバイル決済の力強い発展に伴い、物のインターネット(IoT)の技術も進んだことで、モバイルデバイス関連の決済情報が物のインターネットを通じて収集されて、パーソナライズされたサービスの提供が可能となったことが考えられる。従って、物のインターネット(IoT)技術の決済サービスへの応用は、台湾の金融機関も今後発展可能な技術ではないだろうか。 

図(六)台湾の金融機関と海外のフィンテック技術分野専利出願分布比較図

まとめ 

台湾の金融機関の専利出願動向を見ると、専利出願の件数は2016年から大幅に成長し始め、しかもほとんどの応用はフィンテックに関連したものであるが、海外のフィンテックは2012年には既に急速に発展し始めているため、台湾の金融機関は国際金融市場の変化と発展にさらに注意を払い、早めに関連の専利出願をするべきである。 

2006年から2018330日までの間、台湾の金融機関による実用新案登録出願件数は621件あり、特許出願の327件をはるかに上回っているが、金融機関が、中核業務と技術を組み合わせて専利出願しようとする場合、コンピューター上で実行する方法の発明が多いため、特許出願したほうが、その中核業務及び技術をより全面的に保護することができる。したがって、台湾の金融機関によるフィンテック関連の出願に関しては、やはり特許出願を選択することが更なる優位性の獲得に繋がると考えられる。 

また、専利ポートフォリオの大部分は、フィンテック開発が中心となっているが、4割近くは「一般情報」の技術レベルのものであり(図(四)参照)、台湾は明らかにこのフィンテックのイノベーションの波からかけ離れたところにいる。イノベーションの波に乗るために、台湾の金融機関は、技術面においてエマージングテクノロジーとの組み合わせの可能性について多角的に検討する必要がある。今後、台湾の金融機関は、特定市場での地歩を固めるために、発展の可能性のある技術分野に目を向けて専利ポートフォリオを構築し、その専利ポートフォリオが全ての金融機関にも広がることが期待される。

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