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Everlight社が日亜化学工業の
YAG基本特許に対する無効の確認訴訟で勝訴


判決文:Everlight Electronics Co., Ltd v. Nichia Co. (Fed. Cir., January 4, 2018)


 

 201814日、米国連邦巡回区控訴裁判所は、Everlight社による日亜化学工業の特許の無効の確認訴訟に対して、ミシガン州地方裁判所が下した日亜化学工業の特許は自明性により無効とする決定を支持する判決を下した。また、米国連邦巡回区控訴裁判所は、日亜化学工業の特許出願の手続きは不正行為(inequitable conduct)に当たらないとした。

  • 特許一:US 5,998,925(日亜化学工業が1997年に出願したYAG基本特許の一つで、請求項235は地方裁判所に無効とされた)
  • Everlight社の引例:JPA H05-152609 (Tadatsu)US 6,600,175(Baretz)
  • 特許二:US 7,531,960US 5,998,925特許に関連した100件以上の案件の一つで、請求項2, 14, 19は、自明性により地方裁判所から無効とされた)
  • Everlight社の引例:JPA 52-40959 (JP-959)JPA H05-152609 (Tadatsu)US 6,600,175 (Baretz)
  • 2015年地方裁判所による不正行為に関する裁定:Everlight Electronics Co., Ltd v. Nichia Co., 143 F. Supp. 3d 644 (E.D. Michigan, 2015)

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【事実の概要】

 Everlight社は、ミシガン地方裁判所にEverlight社には権利侵害行為がないこと、日亜化学工業の特許は無効であること及び日亜化学工業の特許は権利行使不能(unenforceable)であることを確認する訴訟を提起した(訴訟の対象については上記の特許一、特許二を参照)。日亜化学工業はその後Everlight社の特許権侵害を主張して反訴を提起した(訴訟の対象は同じく上記の特許一、特許二)。ミシガン州地方裁判所の陪審団は20154月に日亜化学工業の専利一の請求項235及び特許二の請求項21419は自明性により無効と判断し、裁判官は20156月に、Everlight社は日亜化学工業に不正があったことを証明しなかったと認定する判決を下した。双方ともに連邦巡回区控訴裁判所に控訴した。

 自明性の判断に関しては、Everlight社が提出した証拠には三つの部分が含まれている。それは、まず日亜化学工業の特許の請求項の各要件がいずれも先行特許に開示されていること、次に、当業者は先行技術を組み合わせる動機があること、最後に、二次的考慮事項(secondary considerations)もEverlight社にとって有利なものであることである。控訴裁判所は、陪審団の決定は実質的な証拠に裏付けされていると判断し、陪審団の決定を認めた。

 米国の裁判所の非自明性に対する判断については、かつて多くの論争があり、Apple v. Samsung (Fed. Cir., October 7, 2016) (en banc)事件を参考にすることができる。第8,046,721号の「スライドによるロック解除」特許を例に挙げると、当事者双方の紛争ポイントは、当業者にNeonodePlaisantの二つの先行技術を組み合わせる動機付けがあるかどうかであった。これによって、Appleの「スライドによるロック解除」特許は自明性により無効とされた。

Ø   多数意見の論理は次のとおりである。

1.「当業者に先行技術を組み合わせる動機付けがあるか否か」は事実問題である。

2.控訴裁判所は、地方裁判所の判断が実質的な証拠に裏付けされているか否かを審理することだけができる。

3.地方裁判所の「当業者にはNeonodePlaisantの二つの先行技術を組み合わせる動機付けがない」という判断は、実質的な証拠に裏付けされている。

4.多数意見は各グラハム要素(二次的考慮事項)を審酌して、地方裁判所の「自明性」を法律問題として判決を下すこと(JMOL, Judgment as a Matter Of Law)を拒絶したことは正確であるとした。

Ø   異なる意見は次のとおりである。

1.「当業者に先行技術を組み合わせる動機付けがあるか否か」は事実問題でなく、法律問題である。

2.グラハム要素(二次的考慮事項)に対する審酌も法律問題である。

3.先行技術の組み合わせには、既知の問題を解決するものであればよく、特定の動機付けの証拠を必要としない。

4.特許の請求項が既に自明である場合、グラハム要素で請求項を非自明性に覆すことはできない。

 どの見解であっても、Everlight社と日亜化学工業の事件の自明性に関する判断では、Everlight社が提出した資料は完全であり、実質的な証拠に裏付けされている。巡回区控訴裁判所は、2016Apple v. Samsung事件の大法廷の判決において、「二次的考慮事項」を採用することについて、「請求項の自明性が既に非常に明確であっても、すべての案件について議論しなければならない」という見解を示した。Everlight社の米国の弁護士による2015年の訴訟における自明性判断に関する立証は非常に完全であったため、2016年以降の訴訟の進行は順調であった。

 不正行為については、Everlight社は「日亜化学工業の特許明細書において、600nm付近にピーク波長を有するLEDを完成したと言明したことは欺く意図がある」と主張した。しかし、地方裁判所は、「発明者に欺く意図がある」部分について、Everlight社は日亜化学工業の発明者を追及して実質的証拠を確立することができなかったと判断した。

 不正行為判断について、地方裁判所控訴裁判所はいずれもTherasense v. Becton, Dickinson, 2011 WL 2028255 (Fed. Cir. 2011)(en banc)事例引用したこれは不正競争行為の判断基準を議論する際の代表的事例であり、最終的な結論から得られた判断基準は、次のとおりである。出願人が特許審査過程において、USPTOの審査に際し、故意に虚偽の表示をし又は適切な情報を提供しなかった場合、特許権者がその後この特許に基づいて権利侵害の訴訟を提起した場合に、被告は、特許権者の不正行為により、当該特許全体に権利行使不能(Unenforceable)の効果が生じたと主張することができる。不正行為の抗弁の構成要件は、1.主観的に欺く意図(Intent to Deceive)があることと2.客観的行為の重大性であり、事実を明白にするために、被告には明白且つ説得力を有する(Clear & Convincing Evidence)程度の立証責任があり、裁判所は最終的にこれに基づいて、係争行為が特許全体に権利行使不能の効果を生じさせるほど、その悪質性が重大か否かを判断する。

 上記の不正行為の判断基準に基づいて本件をみてみると、本件の訴訟中にEverlight社の弁護士は繰り返して日亜化学工業の発明者を攻撃したが、日亜化学工業の不正行為を立証することはできなかった。実際、Therasense事件の後、実質的要件を満たしていても、欺く意図があったという主観的要件を立証することが非常に困難となったため、不正行為の証明は非常に難しくなった。

 日亜化学工業の不正行為は立証することができなかったが、Everlight社は日亜化学工業のYAG基本特許の一つであるUS 5,998,925の無効の判決を勝ち取った。これはそれほど容易なことではない。

 

出典

1. Everlight v. Nichia (Fed. Cir., January 4, 2018)

http://www.cafc.uscourts.gov/sites/default/files/opinions-orders/16-1577.Opinion.1-2-2018.1.PDF参照

2. 特許一US 5,998,925

https://www.google.com/patents/US5998925参照

3. JPA H05-152609 (Tadatsu)

https://patents.google.com/patent/JPH05152609A/en参照

4. US 6,600,175 (Baretz)

https://www.google.com/patents/US6600175参照

5. 特許二US 7,531,960 

https://www.google.com/patents/US7531960参照

6. 地方裁判所によるこの事件の不正行為に関する裁定

https://scholar.google.com/scholar_case?case=17649314015914160991&q=+143+F.+Supp.+3d+644&hl=en&as_sdt=2006参照

7. US 8,046,721スライドによるロック解除特許https://www.google.com/patents/US8046721参照 

 

 

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