IPニュース | 特許・実用新案・意匠


Q&A特集―
台湾における特許権行使の実情に着目する

※ 本文PDFファイルをご覧いただく場合には、下のリンクからダウンロードしてください。

  

  

1.台湾を対象とする権利を保有する特許権者が、台湾で権利行使する上で最も有効な手段は何か。

台湾の特許権者にとって、民事訴訟は特許権を保護する最も有効な手段である。
 

2.特許権者は台湾の裁判所に対してどれほどの水準の専門知識を期待できるか。

台湾では知的財産関連案件を専門的に取り扱う知的財産裁判所が設置されており、裁判所には特許審査官を務めた経験がある技術審査官が配置されているため、審理品質が非常に良いと評価されている。

 

3.台湾の裁判所は有効性と侵害をどのように取り扱うか。それらを同時に取り扱うのか、それとも別個に取り扱うのか。

特許の有効性原則として行政手続き及び訴訟の過程を経て、知的財産局及び知的財産裁判所が最終的な認定を行う。然しながら、行政手続き及び訴訟によって特許の有効性の最終的な判断が下される前に、特許侵害民事訴訟案件の被告は民事訴訟において特許権の無効の抗弁を主張することができ、裁判所は特許の有効性についての判断を自ら下すことができる。

 

4.手続き中、証人の交互尋問はどの程度認められるか。

台湾の民事訴訟では交互尋問制度がない。通常は、当事者によってそれぞれ選任された専門家証人が意見書を提出し、専門家証人が法廷で意見陳述を行うことは極めて少ない。然しながら、最近では、同一の特許に対する異なる案件で複数の被告が関与する一部の案件において、裁判官に直接選任された数名の専門家証人が法廷で意見陳述を行うとともに、法廷で原告及び被告による質問も行われ、その後、専門家証人が意見をまとめて、意見書を作成し裁判所に参考として提出している。知的財産裁判所が今後、同様のモデルで類似案件の審理を行うかについては、引き続き動向を見ていく必要がある。

 

5.手続き中、専門家証人はどんな役割を果たし得るか、そしてどんな役割を果たしているか。専門家証人はどんな資格を要求されるか。

専門家証人は意見書を作成することもできるし、法廷で意見陳述を行うこともできる。当事者双方及び裁判官は個別に相応しいと思う専門家証人を選任することができる。専門家証人がどんな資格を有していなければならないかについては法律に定められていない。

 

6.訴訟を提起する前に、訴える相手について背景調査を行っておくことがどれほど重要か。

台湾では証拠開示手続き(discovery)がないため、侵害訴訟を提起する前に、相手方の特許侵害の証拠を取得しておいたほうが良いと思われる。例えば、特許侵害物品を取得する、又は特許侵害の鑑定を行うなどである。損害賠償については、ほとんどの場合、相手方又は第三者の側に証拠が偏在しているため、訴訟において、裁判所に第三者に対する証拠調べを請求するのが一般的である。

 

7.公判前の証拠開示手続きは認められるか。認められる場合、どの程度か。

公判前の証拠開示手続きはない。

 

8.特許侵害の判断基準は何か。台湾の裁判所は均等論を適用するか。 

特許侵害鑑定プロセスは次の通りである。(1)特許請求の範囲を解釈する(claim construction)。(2)権利一体の原則に基づき、特許侵害の疑いのある製品が文言侵害に該当するか否かを判断する。(3)文言侵害に該当しない場合、均等侵害に該当するか否かを判断する。

 

9.特許はどんな事由で無効とされるか。

特許無効の事由に関しては、(1)新規性がない場合(2)進歩性がない場合(3)産業上の利用可能性がない場合(4)特許権者が特許出願権者でない場合(5)法律の定める特許権を付与しない項目に属するものの場合(6)明細書の開示が不十分なため、当業者がそれに基づいて実施をすることが難しい場合(7)特許の補正、誤訳の訂正などが出願時に開示された明細書、図面、又は特許請求の範囲を超える場合(8)先願主義の原則に反する場合、等がある。

 

10.他と比べて行使が難しい特定の特許権(例えば、ビジネス方法やソフトウェア、バイオテクノロジーに関連するもの)というものはあるか。

単純なビジネスモデルや単純なコンピュータソフトウエアは台湾の専利法に定められる発明の定義に該当しないため、特許を受けることができない。ビジネスモデルやコンピュータソフトウエアは他の物品と結合して技術性(technical character)を生じない限り、特許を受けることはできない。例えば、コンピュータ関連技術を利用し実現したビジネスモデルが特許適格性(patent eligibility)及び特許要件を満たせば、特許出願が可能になるが、実務上ビジネスモデル特許を取得した成功例は数少ない。

 

11.類似した問題を取り扱う事案が複数ある場合、裁判所は先に下された判決にどの程度拘束されるか。  

先に下された判決が確定した場合、裁判所はその判決に拘束され、先に下された判決が未だ確定していない場合、裁判所は先に下された判決を尊重する。

 

12.当事者が選任できる紛争の代理人に何らかの制約があるか。

第一審及び第二審では、当事者が弁護士に委任せずに本人訴訟でも可能である。但し、第三審(最高裁判所)に上告をする場合には、弁護士に委任しなくてはならない。

 

13.裁判所は類似した事案を取り扱った外国の裁判所の論法を考慮する用意があるか。

各国の法制度が異なるため、台湾の裁判所は自ら判断する傾向がある。外国の判例は単なる参考に過ぎない。

 

14.被告が手続きを遅延させることはどの程度容易か、また原告はどうすればそれを阻止できるか。

2008年に知的財産案件審理法が施行されてからは、知的財産裁判所が特許の有効性を自ら判断することができるようになったため、被告が以前のように知的財産局に無効審判請求を提出することで、裁判所に訴訟手続きの中止を請求することができなくなった。現在、特許侵害訴訟の平均審理期間は、第一審では約8ケ月、第二審では約7ケ月となっており、審理が非常に迅速であるため、被告が訴訟の進行を遅延させることは難しい。

 

15.仮処分命令の取得は可能か。可能な場合、どんな状況下で取得できるか。

特許権者は提訴の前後において、相手方の特許侵害物品の製造販売を禁止する旨の仮処分を裁判所に申立てることができる。裁判所は次の事情を斟酌したうえで、仮処分を命じるか否かを判断する。(1)将来勝訴の可能性(2)申立に対する決定が、特許権者又は相手方に取返しのつかない損害を与えるかどうか(3)当事者双方の損害程度を考慮する(4)公衆の利益への影響。

 

16.第一審判決までの訴訟費用はどの程度と見積もるべきか。

訴訟費用は案件の複雑さの程度に応じて変わる。一般的に特許権侵害訴訟の第一審の弁護士費用は3万から5万米ドルである。

 

17.勝訴側は敗訴側に費用を負担させることができるか。

民事訴訟の第一審または第二審では弁護士強制主義をとっていないために、勝訴側は敗訴側に第一審または第二審の弁護士費用を請求することができない。第三審では必ず代理人として弁護士に委任しなくてはならないため、勝訴側は第三審の弁護士費用の負担を定めるよう最高裁判所に請求することができる(一般的には5万から8万台湾ドル)。

 

18.原告が勝訴した場合、通常、どんな救済手段を裁判所から認められるか。

原告の請求(claim)に応じて決める。通常、原告は請求において相手方の侵害行為の排除又は防止、特許侵害物品の廃棄処分、損害賠償及び名誉回復を求める。

 

19.損害賠償額はどのように算定されるか。懲罰的損害賠償が認められることがあるか。台湾でこれまで認められた損害賠償額の平均及び最高額はいくらか。

損害賠償額の算定方法は次の4つである。(1)原告が侵害行為によって生じた損害及び失った利益(2)特許権の実施によって通常得られる利益から損害を受けた後に同一の特許権の実施により得られた利益を差し引いた金額をその損害額とすることができる(3)特許権侵害者が侵害行為によって得た利益(4)合理的な特許の実施料。侵害が故意であると認められた場合、裁判所は立証した損害額の3倍以内の懲罰的賠償金の支払いを命じることができる。

数少ない極端な案件を除き、裁判所に認められた平均金額は約150万台湾ドルとなっている。裁判所が今までに認めた損害賠償の最高額は20億台湾ドルである。

 

20.原告が勝訴した場合、裁判所が恒久的差止命令を認めることはどの程度一般的か、またどんな状況下で裁判所はそれを認めるか。

特許権侵害が認められた場合、裁判所は原告が提出した侵害の排除及び防止の請求をほとんど認める。

 

21.台湾では裁判所の判決の執行に関連する問題はあるか。

確定判決を取得した後、関連官庁に被告の財産状況について確認することもできるし、地方裁判所の執行処(民事執行事件を取り扱う専門庭)に対し執行を申立てることも可能であり、それは特に問題ないと思われる。

 

22.第一審の判決取得までの期間はどの程度か、また審理の加速は可能か。

第一審の平均審理期間は約8ケ月である。現在のところ、加速審理に関する規定はない。

 

23.第一審の敗訴者はどんな状況下で上訴権が認められるか。上訴審は通常どの程度の期間を要するか。

第一審で敗訴した被告は上訴の提起期間内に上訴をすることができ、特別な制限はない。第二審の平均審理期間は約7ケ月である。

 

24.当事者は裁判所に提訴する前に何らかの種類の仲裁や調停を提起する義務を負うか。ADR(裁判外紛争解決手続)は裁判に代わる現実的な手段と言えるか。

仲裁又は調停は、提訴の前提条件ではない。原告と特許権侵害者との間で仲裁方式によって双方の紛争を解決するという契約(例えば、特許権の実施契約など)を結んでいない限り、特許権者と特許権侵害者とが仲裁方式で双方の紛争を解決することは実務上極めて少ない。その原因として、仲裁は当事者双方の事前の合意が必要であること、特許権侵害者が特許の無効を主張するなどの仲裁人が判断し難い抗弁を提出する場合が多いこと、台湾の訴訟費用は相対的に低く、審理も迅速であることなどが考えられる。

 

25.大まかに言って、台湾の裁判所は特許権者を是とする判決をどの程度下しているか。

裁判所が特許の有効性について自ら判断を下すことができることから、特許権侵害訴訟で裁判所に無効と認定された特許の割合は約50%~60%であり、第一審における原告の勝訴率は平均約25%である。

 

26.台湾の法執行制度に関して他に特筆すべき特徴はあるか。  

ない。

【註】台湾においては、特許・実用新案及び意匠はいずれも専利の範疇に属しており、専利法が適用される。

Top  
 
 
  11th F1., 148 Songjiang Rd., Taipei, Taiwan | Tel : 886-2-2571-0150 | Fax : 886-2-2562-9103 | Email : info@tsailee.com.tw
© 2011 TSAI, LEE & CHEN CO LTD All Rights Reserved
   Web Design by Deep-White
Best viewed with IE8.0 or higher with 1024*768 resolution