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最高裁が職務発明の特許権の移転請求訴訟における
無効抗弁の主張を認めた

台湾専利法によると、特許を受ける権利(以下「特許出願権」という)については、発明者主義が原則であり、職務発明は例外となる。つまり、完成された発明について、特許出願権と特許権は、原則としてその発明に実質的に貢献した発明者に帰属するが、発明者が雇用関係において職務上完成した発明は、例外として当該権利が雇用者に帰属すると規定されている。

 

しかし、雇用関係の存続期間中に完成した発明であっても、従業者の職務と直接的・間接的に関係するとは限らない。当該発明が従業者の職務に関係せず、かつ、従業者が雇用者の人的・財政的資源を利用していなかった場合には、その研究成果が職務発明に該当しない可能性がある。

 

出願人が特許出願権を有するか否かについて、主務官庁の知的財産局は、裁判所のように各案件の具体的な状況を斟酌し、証拠を調査して判断することはできず、出願人が提出した出願書類に基づいて形式的に認定することしかできない。専利法では、雇用者と従業者の間の特許出願権の帰属をめぐる紛争を避けるため、従業者が雇用者に職務発明に該当しない発明について通知する義務を負うと定められている。従業者がこの義務を履行せず、雇用者が職務発明であると主張した場合、特許出願権と特許権の帰属をめぐる紛争を解決するには、最終的に裁判所に付託するしかない。従来は、特許出願権および特許権の帰属の確認訴訟または給付訴訟を提起し、裁判所が下した判決により法律関係が確定した後、勝訴した側、すなわち真の特許出願権者は、確定判決に基づき、特許出願人または特許権者の名義を変更すること、または特許出願案もしくは特許権を真の特許出願権者に移転することを知的財産局に届け出ることができる。

 

このような権利帰属の確認訴訟または給付訴訟において、従業者(すなわち、判決が確定する前の名義上の特許権者)が特許無効の抗弁を主張した場合、裁判所がどう対応するかについては実務上統一的な見解がなかった。かつて、知的財産裁判所は、知的財産案件審理法第41[1]に規定する特許無効の抗弁について、法制定の趣旨によれば、当事者の間で特許権者が特許権侵害訴訟において排他権を行使できるか否かを争う場合にのみ適用されるべきであると考え、否定説を採用した[2]。つまり、特許無効の抗弁は、特許権侵害訴訟にのみ適用されるものであり、特許権の権利帰属をめぐる訴訟は、誰が真の特許権者であるかの紛争であって、特許権の有効性、または特許権者が排他権を行使できるか否かの問題とは関係がないため、知的財産案件審理法第41条の規定の趣旨に沿わないと判断された。しかし、以下で説明する最高裁判所の判決[3]では、肯定説が採用されたようである。

 

まず、本件は、特許権移転請求に関する給付訴訟である。雇用者の原告は、元従業者が特許出願権および営業秘密を侵害したことを原因として、権利侵害行為および不当利得の法律関係に基づき、第一審裁判所に係争特許の特許出願権および特許権が全て原告に帰属することの確認と、そして被告から原告への当該特許権の移転を請求した。第一審裁判所は、原告の提出した証拠が係争特許の発明が原告の営業秘密に属することを証明するには不十分であるとし、原告の訴えを棄却する判決を下した[4]

 

原告はその判決に不服があり、控訴した結果、逆転勝訴となった。控訴審裁判所は、「特許が登録された後、特許出願権者が特許権者となる。特許権の客体として特許査定された研究開発成果は、すでに私法上の財産権の性質を備えるので、真の特許出願権者は、自己の権利を保護するために、冒認出願された特許を所有する特許権者に対し特許権移転を請求する給付訴訟を提起することができる」と判示した。また、控訴審判決によると、特許出願権および特許権の帰属をめぐる紛争では、被控訴人(従業者)の係争特許の技術的な内容が控訴人(雇用者)の既存技術と実質的に同一であるか否か、被控訴人の職務が当該発明に関するものであったか否か、当該発明が完成した時点が雇用期間内であったか否か、そして特許出願権および特許権の帰属について当事者間に契約で別の定めがあったか否かによって、当該権利が控訴人と被控訴人のいずれに帰属すべきか判断される。控訴審裁判所は、被控訴人の発明が控訴人の既存技術と実質的に同一であると認め、新規性・進歩性要件を満たしているか否かは特許権の帰属をめぐる争いとは無関係であるとした[5]

 

従業者は控訴審判決に不服があり、最高裁判所に上告した。最高裁判所は、上告人(原審被控訴人)が原審において、被上告人(原審控訴人)が主張した技術的な内容は係争特許が属する技術分野における通常の知識であり、原審控訴人が発明者ではないため、特許出願権を最初から取得していない旨を主張し、そして訴訟記録にも重要な防御方法であると考えられる関連証拠が存在しているにもかかわらず、原審裁判所が、判決書にその抗弁を採用しなかった理由を記載せず、単に係争技術的な内容が特許要件を満たしているか否かは、本件の特許出願権の帰属をめぐる紛争とは何ら関連性がないと判断したことには理由不備の違法があるとして、更に審理を尽くさせるため本件を原審裁判所に差し戻した。

 

当所コメント

本件の特許出願権の帰属をめぐる紛争において、従業者(被告)は、係争特許が新規性・進歩性要件を満たしていないことを直接的に主張しておらず、まず原告が提出した既存技術の内容について係争特許が属する技術分野における通常の知識であることを抗弁した。仮に被告の抗弁が事実であれば、原告は発明者ではなく、当然、本件の特許出願権者でもなく、本件の特許権移転請求訴訟における原告適格を欠くことになる。しかし、原告が提出した技術的な内容は、事実審の控訴審において係争特許の発明と実質的に同一であると判断された。つまり、原告が提出した技術的な内容がその技術分野における通常の知識である場合、被告が出願した発明もその技術分野における通常の知識となり、係争特許には無効理由が存在することになる。前述した最高裁判所の見解によると、直接明示していないものの、このような特許出願権をめぐる紛争においては、たとえ法律関係の争いが特許権の主体が誰かというものであっても、名義上の特許権者が特許権の客体に対して特許無効の抗弁を主張することができることを意味しているように思われる。

 

原告の最終的な目的は、冒認出願により取得された「特許権」を原告に移転するよう被告に請求することであると考えられる。しかし、最高裁判所は、被告が原審において、原告が提出した技術内容がその技術分野における通常の知識であり、原告は発明者ではないため、「特許出願権」を取得することはできないことを抗弁したことに言及しており、それは、原告が提出した技術内容がその技術分野における通常の知識であるならば、原告は発明を完成しておらず、当然発明により生じた特許出願権もなく、さらに特許を出願して特許権を取得する可能性もないことを示しているように思われる。真の特許出願権者が有するべき「特許出願権」は、被告が知的財産局に出願することにより、特許査定されて「特許権」に転換しているため、仮に、裁判所が特許出願権を最終的に真の特許出願権者である原告に帰属すると認めたとしても、転換された特許権に無効理由が存在する場合、裁判所が原告が真の特許出願権者であることを確認することができるだけでは、結局、原告は特許権の移転という最終的な目的を達成することができない。したがって、当事者が提出した特許無効の抗弁は、原告の「被告は特許権の移転を行え」との主張に理由があるかどうか裁判所の判断に影響を与える。知的財産権案件審理法第41条によれば、裁判所は、紛争解決の一回性と訴訟経済の目的を達成するために、この状況において自ら判断しなければならない。以上のことから、最高裁判所がこの争点について肯定的な見解を示したことが推察される。



[1] 2023830日に施行する改正知的財産案件審理法第41条には、「(第一項)当事者が知的財産権に取消し、廃止すべき理由があると主張または抗弁する場合、裁判所はその主張または抗弁の理由の有無につき自ら判断しなければならず、民事訴訟法、行政訴訟法、商標法、専利法、植物品種及び種苗法、またはその他の法律の訴訟手続停止に関する規定を適用しない。(第二項)前項の状況について裁判所が取消し、廃止すべき理由があると認めた場合、知的財産権者は、当該民事訴訟において、相手方に対し権利を主張することができない。」と規定されている。

[2] 知的財産裁判所102年度民専訴字第29号民事判決。

[3] 最高裁判所110年度台上字第3162号民事判決。

[4] 知的財産裁判所107年度民専訴字第98号民事判決。

[5] 知的財産裁判所108年度民専上字第27号民事判決。

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